レストラン「KITCHEN MANE」に、価格とグランドメニューがない理由【FOOD MADE GOOD#6】

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食のあり方や、飲食業界のあり方を変えていくため、より多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。そんな日本サステイナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、先駆者となってサステナビリティへ向かう飲食店の取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」の第6回目。

本記事でご紹介するのは、横浜・馬車道にあるレストラン「KITCHEN MANE(キッチンメイン)」。”飲食店の新しい価値を創造する”という考えのもと、食を通して社会課題を解決すべく、サステナビリティを促進しているレストランだ。近年、サステナビリティに配慮した飲食店は少しずつ増えているが、KITCHEN MANEはさらに一歩先を行くユニークな取り組みをしている。なんと、同レストランにはグランドメニューがなく、価格もお客さまが決めるスタイルなのだ。

KITCHEN MANE(キッチンメイン)

KITCHEN MANE(キッチンメイン)

今回は、KITCHEN MANEを運営する株式会社Innovation Designのサステナブルデザイン室長である表秀明さんと、総料理長の中神則幸さんから、同レストランの「グランドメニューを作らない理由」や「価格を付けないことで伝えていること」など、サステナビリティを促進する取り組みについて伺った。

話者プロフィール:表秀明さん

表さん2010年Innovation Design創業と同時に入社。ハウステンボスの事業再生プロジェクトを受け持つ。2012年から5年間に渡り、港区芝のThe Place of Tokyo開業・運営プロジェクトマネージャーを担当。その後、スリランカに渡りホテル開業プロジェクトにて、オペレーション、ブランディング、人材、コストの管理を行う。現在はサステナブルデザイン室長として社会的課題の解決に取り組む。

話者プロフィール:中神則幸さん

中神さん和食料理人の父を持ち、自らも料理人の道へ進む。福岡県、海の中道に位置するTHE LUIGANSの料理長を経て、自身の割烹料理屋をオープン。その後、柳川市の70年の歴史ある老舗料亭の総料理長として経営再建に貢献する。2018年Innovation Design入社。FOOD DESIGN室マネージャーとして、東京永田町のレストランKIGI(キギ)、横浜みなとみらいのレストラン KITCHEN MANE(キッチンメイン)を立ち上げる。現在はサステイナブルレストラン協会に参加し、フードシステムのサステナビリティ推進を目指し活動する。

「あえてグランドメニューを決めない」ことで伝えていること

Q. 一般的な飲食店にはあるグランドメニューを、あえて作らない理由について教えてください。

表さん: KITCHEN MANEでは、その日にある食材に合わせてメニューを構成しているので、グランドメニューを作っていません。野菜なら提携農家さんよりその時に収穫されたお野菜をタイムリーにお知らせしてもらっています。たった一晩の寒波でも収穫に大きく影響が出て、食品ロスになる可能性が有ることも知りました。自然の中でそのときに獲れたものからメニューを考える。そうすることで、食品ロスを無くせるメリットもあります。お野菜も、お魚も僕たちは事前に種類を指定して発注はしておりません。メニューありきの発注ではなく、全て自然と向き合った中で、今ある食材に感謝し、目の前の食材だけでメニューを考えるようにしています。そして料理を通して地球温暖化、海洋資源問題、食品ロス問題など、様々な社会的課題のメッセージを伝えることで、飲食店の新しい価値にチャレンジしたいと思っています。

中神さん: 三重県の熊野市二木島漁港に「全ておいしくいただこう」という志を持った超小型の定置網で漁をしている漁師さんがいます。通常、定置網漁で水揚げをするときは、必要な獲りたい魚だけを水揚げするんですね。一方で、値段のつかない小さくて不必要な魚は、養殖魚の餌か廃棄になります。私たちは二木島の漁師さんの「せっかく水揚げをした魚は、全ておいしくいただこう」という想いに共感しているので、その漁師さんから魚を仕入れるようになりました。たとえ小さな魚であっても、調理をすればおいしい刺身として食べられるので、10センチに満たないような普通の市場には並ばない魚も含めて箱詰めしてもらい、三重県から直送していただいています。その為、毎回、何が水揚げされて、何が届くのか分からないというのも料理人としては楽しみの一つです。

こうした背景のある魚を前菜に使うことで、漁獲された魚の全てが市場に並ぶわけではないという背景を伝え、海洋資源の枯渇、日本の漁業を営む街の少子高齢化、海洋汚染など様々なメッセージを届けています。普段食べている魚や漁業の現状について、お客さまに関心を持ってもらいたいと思っているのです。

二木島の漁師さんからの魚

二木島の漁師さんからの魚

Q. その他の料理は、どのようなコンセプトで作っているのですか?

表さん: 「旬」の食材を調達することと、その時期にその地域で取れた食材を使う「地産地消」を大切にして料理を作っています。春の時期には『旬の恵みfrom80km圏内(※)』という新玉葱のスープを作っています。新玉葱を使うことで、スープを食べながら春の訪れを感じてもらい、旬の食材を食べることが、季節にあった体作りにつながることをお伝えしています。なぜこの時期に新玉葱のスープを出すのかを感じてももらえる一品です。

ほかにも、トマトは夏の時期だけ提供しています。一年中食べることができるイメージがあるトマトですが、夏野菜であり、真冬の市場では見かけません。夏が旬の野菜には、体温を下げる効果があり、夏だからこそ食べる意味があるということをお伝えしています。

メイン料理のメニュー名は、『本気のmade in JAPAN』です。KITCHEN MANEでは、レストランで使用する豚肉や鶏肉は日本国内の生産者の顔が分かるものだけを調達しています。また、その農場で提供されている飼料も海外産ではなく国産のものを選ぶようにしているんです。餌まで国産にこだわることにより、輸送距離が短くなるのでCO2排出が少なくなります。そんなメッセージを伝えたくて『本気のmade in JAPAN』というメニュー名にしました。

(※)日本サステイナブル・レストラン協会が、80km以内の食材を使用することを「地産地消」だと定義している。

メニュー

また、「食品ロス問題」にも取り組んでいます。デザートで提供しているのは、『賞味期限を問う。ベイクドチーズケーキ』です。学校や商業施設では、災害が起きたときのためにかんぱんや水など、大量の食料を備蓄しています。しかしそれらは、年に何度か「賞味期限が切れているから」という理由で捨てられているんですね。

たとえ賞味期限が切れていたとしても、捨てられてしまうかんぱんの味は問題なく、おいしく食べられます。そこでKITCHEN MANEでは、そうしたまだ食べられるかんぱんをチーズケーキの生地として使っています。あえて賞味期限切れの食材を使うことで、「賞味期限」について少しでも考えてもらう機会を作っています。

賞味期限を問う。チーズケーキ

賞味期限を問う。ベイクドチーズケーキ

このように、KITCHEN MANEのコース料理を通じて、前菜では海洋資源について、スープでは地産地消について、メイン料理では食材の産地や飼育方法について、デザートでは食品ロス問題についてなどを問いかけられる料理を構成しています。

Q. 料理の価格を決めずに、お客さまに決めてもらう形式にしているのは、なぜでしょうか?

表さん: 価格を決めないことにしたのは、コロナ禍によって営業時間の変更を余儀なくされたことで、価格を見直したことがきっかけでした。当初ディナー提供を予定していたのですが、ランチ提供へと営業時間を変えざるを得なくなり、その際に価格について考え直したのです。

ランチの価格を検討した際に、今この状況だからこそ大切にしたいのは売上げを伸ばすことではなく、KITCHEN MANEで食事をすることによってお客さまに“共感”や“気付き”を持って帰ってもらうことだと気付きました。お客さまが家に帰って、「面白いレストランがあったよ」と、家族や友人に話してもらえたら、お客さまの周りの人たちにもKITCHEN MANEの食にまつわる社会的課題のメッセージが伝わると思うんです。すると、KITCHEN MANEに来ていただけたり、私もなにか行動を起こしてみようと思う仲間が増えたりすることに繋がると思っています。「多くの人に社会的メッセージを伝える」という原点に立ち返ったとき、伝える方法としてメニューの価格を設定しないことを選びました。

「規格外」野菜も「規格内」野菜も、農家さんにとっては同じ大事な子供たち

Q. リニューアルオープンにあたって変化したことはありますか?

表さん: コロナの影響で昨年は長期休業を余儀なくされたのですが、休業を経てさらなる進化を遂げ、2021年1月にリニューアルオープンしました。リニューアルオープンに向けた準備期間にサステナビリティについて学び続けたことで以前よりも「全体像を捉える」ことが大事だと考えるようになり、伝え方が変わりました。

たとえば、以前は規格外野菜を使うことで食料廃棄問題を解決するメッセージを発信していたのですが、今は「規格外野菜」という言葉をなるべく使わなくなりました。それは、食における課題を解決するには、規格外野菜を特別扱いするのではなく、通常の野菜も大切にする必要があると気付いたからです。

きっかけは、取引先の農家さんと対話をしたことでした。食料廃棄をなくすべく、お世話になっている農家さんに「規格外の野菜を仕入れさせてください」とお願いしていました。農家さんも、私たちが規格外野菜を買い取ることに関しては喜んでいたものの、あるときどこか浮かない顔をしていると感じた瞬間があったのです。そこで農家さんと対話を重ねると、「作り手としては、規格外野菜を買ってもらえるのは嬉しいが、正規の野菜も育てているので正規の野菜も買って欲しい」と言われたんです。農家さんからすれば、規格外の野菜も規格内の野菜も、同じくらい愛情を込めて育てた野菜だと気付きました。それからは、「規格外野菜」ばかり焦点を当てていた当初と違い、信頼する農家さんが作ったものは「規格内・外」にとらわれず購入するスタンスを取っています。

この体験を踏まえて、何でも簡単に「もったいない」と表現するより、様々な角度からメッセージを伝える方がいいと思うようになりました。その上で、もったいない食材がなくなることが理想だと思っています。

「規格外も規格内も、同じ愛情を込めた野菜だったと気付かされた」農家さん訪問時

「規格外も規格内も、同じ愛情を込めた野菜だったと気付かされた」農家さん訪問時

大切なのは、「おいしい」「楽しい」「かわいい」

Q. サステナビリティの取り組みを伝える上で大切にしていることはありますか?

表さん: お客さまに自然と興味を持ってもらうため、「おいしい!」とか、「楽しい!」や、「かわいい!」から興味を持ち始めることは大切だと思っています。昨年であれば、『フードマイレージ削減のためのカルパッチョ』というように、伝えたい情報を詰め込んだメニュー名にしたり、ストーリーを説明したりしていました。

しかし、やはり全てのお客さまが社会課題に興味があるわけではないので、当初は私たちの説明が一方的になり、料理の背景にまつわる説明にあまり関心を持ってもらえなかったのです。そこでメニューを見直し、全てを伝えないことで、自然と「え!このメニューなんだろう?」とコミュニケーションを取りたくなるようなメニュー名になるよう工夫して、今のスタイルになりました。その結果お客さまから話しかけてくれたり、質問をしてもらったりと、興味を持ってもらえるようになったんです。

サービスマンとのコミュニケーションから、社会問題を知らない方にも少しでも興味を持ってもらえる、そして同時に、おいしく食事を楽しんでもらえると思っています。

思い切った仕組みを作ることで「人と地球の未来を描く」

Q. ユニークな活動を行っていますが、根幹にある想いは何ですか?

表さん: KITCHEN MANEは、新しい飲食店の価値作りに思いっきりチャレンジする場所です。全ての原点は「人と地球の未来を描く」こと。そのためになるメッセージを伝えることが私たちの役割だと考えています。メニューひとつひとつを作るときも、人と地球の未来を描けるか、を意識しています。

「価格を決めない」「グランドメニューがない」取り組みをするのも、どうしたら人と地球についてお客さまに知っていただき、共感してもらうのかのきっかけを作れるかを考えた結果なのです。

私たちは、お客さまに社会的課題について知ってもらい、気付きや学びを家に持ち帰ってもらいたいのです。KITCHEN MANEを知っている方々が少しでも行動を起こしたり、またKITCHEN MANEに来てもらえたりすることで、「地球に貢献できるサイクル」を作っていきたいです。

編集後記

思い切った施策を取りながら、ポジティブに前進し続けるKITCHEN MANE。ビジョンでもある「人と地球の未来を描くこと」が、レストランの仕組みを作ることや、メニューを構成することなど全ての指針であり、レストランが存在する理由となっていた。KITCHEN MANEが取るアクションの全てには、意味が込められている。

どんな状況でも、チャンスと捉えて前に進み続ける。それができるのは、揺るぎない「伝えたいメッセージ」があるからだろう。

今後は、学生たちに社会課題について知ってもらう機会を作り、良い世の中に向けて「共創」できる仲間を増やしていきたいという。レストランを通じて人と地球が良くなるメッセージを発信し続け、さらに既存のレストランの枠を超えてより良い未来を共創する仲間を作っていく、今後の彼らの挑戦に期待が高まる。

【参照サイト】 KITCHEN MANE
【参照サイト】 株式会社innovation design
【参照サイト】 日本サステイナブル・レストラン協会

Edited by Erika Tomiyama

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