使い捨てプラのカトラリーが「美術作品」として展示される理由

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使い捨てプラスチックの使用を規制する動きが世界中で次々と起こっている。ニューヨーク州議会は、ホテルが液体石鹸などのパーソナルケア製品をプラスチック製ミニボトルに入れて提供することを禁止する法案を2021年4月に可決。インドでも、国家主導ですべての使い捨てプラスチック製品を2022年までに禁止すると発表している。EUでは、2021年7月3日から、使い捨てプラスチック用品の製造・使用の段階的な規制が開始された。

2021年6月に行われたロンドンデザインビエンナーレでは、そんな世の中の動きを反映したユニークなインスタレーションが展示された。「SPOON ARCHAEOLOGY(スプーンアーケオロジー)」と名付けられたこの展示では、カラフルなプラスチックのスプーンやフォークが、まるで蝶の標本のようにガラスのケースに入れられて展示されているのだ。

インスタレーション

Image via Staatliche Kunstsammlungen Dresden

展示を制作したのは、ドイツ人デザイナーであるピーター・エックハート氏と、カイ・リンケ氏。本展示は当初、EUの7月からの使い捨てプラスチック規制開始に合わせてドレスデン州立美術館で企画されたシリーズの一環であったが、キュレーターのトーマス・A・ガイスラーにより、2021年ロンドン・デザイン・ビエンナーレにも参加することとなった。

制作者の2人は、使い捨てのプラスチックカトラリーの多様で美しいデザインに魅了され、それぞれが個人的にそれらを収集していたという。しかし、どんなに素晴らしいデザインでも、時に誰も予想しなかった“望ましくない”結果を招く場合がある。プラスチックの使い捨てカトラリーは、その便利さとデザインの自由さゆえに世界中で使われるようになったが、結果的に大量に廃棄物を出すことにつながってしまった────大学教授でもあるエックハート氏は収集したカトラリーを通して、学生たちにその教訓を伝えている。今回の展示の目的も同様だ。

インスタレーション

Image via Staatliche Kunstsammlungen Dresden

展示ではさらに、使い捨てプラスチックカトラリーの代替品として、木や竹といった別の素材の使い捨てカトラリーが登場しつつあることにも疑問を投げかけている。そういった自然由来の素材を作るためには大量に森林を伐採しなければならず、結局また別の環境問題の引き金になってしまう可能性があるからだ。

これに対し制作者たちが『バナナ・リーフ』というドキュメンタリー映画を通して提案するのが、カトラリーや食器をほとんど使わない南インドの食文化だ。この映画では、南インドのさまざまな階級の人たちがバナナの葉をお皿にし、手を使って食事をする様子が描かれており、そのシンプルさが賞賛されている。

カトラリーを日常的に使う文化の中で育った私たちが、急にそれらを使わない食文化に移行するのは少々難しいだろう。しかし、少なくとも「使い捨て」という概念からは、いち早く脱出する必要がありそうだ。

プラスチックの使い捨てカトラリーは、“過去の遺物”。これから生まれてくる将来の世代はそれらを博物館で見て、その存在を初めて知る。そんな未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。

【参照サイト】Peter Eckart
【参照サイト】Kai Linke
【参照サイト】London Design Biennale
【参照サイト】Staatliche Kunstsammlungen Dresden(ドレスデン州立美術館)
【参照サイト】spoon_archaeology_exhibition(Instagram)
【参照サイト】Ban on single-use plastics from 2021

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