サステナブルな仕掛けの宝庫「ロンドン・デザイン・フェス」現地レポート

Browse By

世界中からデザイナーが集まり、デザインやアート分野の中心にもなっているロンドン。そんなロンドンで開催されている「London Design Festival(ロンドン・デザイン・フェスティバル)」は今年2022年に20回目を迎えた。デザインフェスティバルの開催期間中は、ロンドン中心部の各エリアで様々な展示、店舗、インスタレーションなどが出現し、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、建築から絵画まで、幅広いデザインに触れる機会が提供される。

フェスティバルの趣旨は、必ずしも「サステナビリティ」や「サーキュラーエコノミー」に限定されているわけではない。しかし、フェスティバルの中の多くのコーナーにおいて、現在進行形で引き起こされている環境問題・社会問題が前提として意識されていた。本記事では、サステナビリティの視点からロンドンで展開されるデザインの最先端を追っていきたい。

サステナビリティを新しい日常にする、最先端のアイデアたち

ロンドンの美術館、ショップ、街路の一角など、様々な場所を会場にするロンドン・デザイン・フェスティバル。今回は実際に筆者が訪れた場所の中でも、サステナビリティの文脈で特に印象的だったスポットを特集していく。

ライフスタイルに合わせてデザインが変えられるソファ「cozmo」

家のインテリアデザインを考える際に、肝となるのが大型家具。皆さんはソファを部屋に置くか否か、どんなソファを置くかで迷ったことがあるだろうか。

ソファは人々のライフスタイルや部屋の間取りの変化などで5〜10年で廃棄されてしまうことが多いという。また、例えば座面のクッションが汚れたりよれてしまったりといった理由だけで新しいものに買い替えが検討されることもある。

cozmo

Image via cozmo

そこで、ソファのモジュラーデザイン(互換性が高い部品を組み合わせ、多様な製品を設計する手法)を考案したのが、「cozmo」という企業だ。cozmoのソファはフレーム、クッション、座面のファブリックなどがすべて取り外せるようになっており、どこかの部品に不具合があった場合、そこだけを修理に出すことができる。また、例えば家に同居する人数が変わればソファを合体あるいは分離して大きさを変え、部屋の模様替えのタイミングにはファブリックの色を変えることもできるのだ。

ブランドのメンバーいわく「サーキュラーデザインを意識した部分ももちろんあるが、一番に考えたのはユーザーの視点。単純にいろんなデザインを気軽に楽しめた方が、生活が豊かになる」とのことだった。

環境を現状維持するのではなく、再生する。「リジェネラティブ・デザイン」特集コーナー

フェスティバルの会場の一つになったヴィクトリア&アルバート博物館では、環境を単に現状維持するのではなく再生していく「リジェネラティブ・デザイン」についての展示が行われていた。

テムズ川に浮かぶ廃棄物をガラスにアップサイクル「Thames Glass」

Themes Glass

ロンドン現地の取り組みとして注目したいのは、「Thames Glass」だ。これは、テムズ川に浮かぶごみを回収し、ロンドンの工房でそれらのごみをガラスにアップサイクルする取り組み。ガラスは本来砂やミネラルなどの資源を必要とするが、それらの資源が再生可能ではないことが問題になっている。「Thames Glass」はロンドンで素材を回収し、さらに加工・使用までするという究極の「ローカル」プロジェクトである。

ハチの住処をどこでも作れるように「BeeHome」

BeeHome
ARUPという企業が開発したのがこちら。ハチの住処になる「BeeHome」だ。「BeeHome」は、人間が奪い取ってしまった自然環境をハチに戻していくために始まったプロジェクト。特徴は住処の設計データをオープンソースにしているところであり、素材さえあれば世界中どこでもハチの家を作ることができる。

今後注目のバイオ素材

regenerative design

今後様々な場面で活用されやすく、さらに環境負荷にも考慮した素材として、注目されるのが「マッシュルーム」だ。マッシュルームは、栽培や収穫が比較的簡単であるのと同時に、耐久性もあり、軽量であることから、ヘルメットや緩衝材として重宝されている。同じくバイオ素材を活用した例としては、廃棄されるオレンジの皮を活用したライトも展示されていた。廃棄せざるを得ないオレンジの皮の色味までをプロダクトに活用しているのがポイントだ。

フリマの骨董品が再び美術品に。ガラスに銅を流し込むインスタレーションから「マテリアル」を考える

ヴィクトリア&アルバート博物館の中庭では、カナダのアーティストOmer Arbel氏が考案したインスタレーションが行われていた。今回のインスタレーションでは、Arbel氏のチームがフリーマーケットやヴィンテージストアから入手した銅やガラスの骨董品を高温で加熱することで液状にし、新たな金属アートを形成する様子が一般の人々に公開された。

まずはガラスを吹き、瓶・壺のような形を作る。そして高温で加熱された銅をその中に流し込む。ガラスと銅という二つの材料は組成が大きく異なるため、冷却プロセス中にガラスの形が粉々になり、ガラスの側に金属の影が残る。そして金属の方は熱くなっても、ガラス側では酸素と接触せず、その結果、虹色の仕上がりが現れる。

V&A installation
Arbel氏によるこれらの作品には、「私たちの考案した形のアイデアを素材に押し付けるのではなく、与えられた素材の本質的な特性がその形を示唆するようにする」という考え方が反映されている。サステナビリティを意識したデザインに関しては、「素材」が必ず議論に上がるが、まずはそれぞれの素材がどのような機能や造形を得意とし、どのような特徴を持つのか、私たちが感覚的に理解していくことも大切かもしれない。

一生もののワークウェア(作業着)を、あらゆる人に「Re_Threads」

「どうせ汚れてしまうから」「どうせ傷んでしまうから」という理由で、作業をするときの衣類はとにかく安いものを選んでいる人も多いかもしれない。「Re_Threads」は環境負荷を考えて、バイオ素材で作業着を作り、さらに修理のサービスを通じて、それらの衣類を一生使ってもらおうと取り組みを進める組織だ。創業者のリズさんは、かつてグローバルに展開するハイブランドで働いていたが、人々が日常的に扱う衣服をデザインしたいと思うようになり「Re_Threads」を立ち上げたという。

Re-Thread
また作業着は、男性が使うことが主に想定された衣類でもあるとリズさんは語る。女性が仕方なく大きなサイズのものを着用すると、裾がダボついたり、袖が長かったりすることで、作業に危険が伴う。「Re_Threads」は女性でも快適に作業着を着用してほしいという願いのもと作られたブランドでもあるのだ。洋服のタグには植物の種が埋め込まれており、購入後は家で育てることができる。

これからの時代に必須?「年を取ること」をデザインする

これからの社会のあり方を考える上で、多くの先進国で無視できなくなっている「高齢化」。日本と同様イギリスも高齢化が進む国一つであり、2040年には人口の約4分の1が60歳以上になると言われている。労働人口が減少していく一方で、年金で支える人口がどんどん増えていく……高齢化は私たちを悲観的な気分にさせることが多い。

一方で「年を取ることは必ずしも悪いことばかりではない」「これからの時代の良い年の取り方を考えよう」とイギリスで活動するのが「Design Age Institute」だ。彼らは企業、研究機関、行政と連携しながら、高齢になった人々が豊かな人生を送れるようなプロダクトやデザインを提案する。

例えば新しい「車椅子」のデザイン。高齢でもそうでもなくても使いやすいように設計されたこの車椅子は、ミニマルなデザインで移動がスムーズなだけではなく、背後に人やものがある場合にアーム部分の振動で伝えるなどの工夫が施されている。

Design Age Institute
また、高齢になってくると他の世代の人を含む、「ご近所付き合い」も大切だ。古くからガーデニング文化が重んじられてきたイギリスでは、例えば小さい子どもが遊ぶことができたり、高齢者がちょっと腰掛けられる場所があったりするなど、どんな人でも使いやすいガーデンの設計が見直されつつある。

Design Age Institute

編集後記──今の時代に求められる「良いデザイン」とは

フェスティバルの会期中、コペンハーゲンを本拠とするデザインファーム・SPACE10のイベントに参加した。その中で、多くのデザイナーのインタビューから導かれた良いデザインの定義が紹介されていたので、以下に記したい。(一部抜粋)

良いデザインとは……

    • 地域の文脈に即している(regional)
    • 分野横断的であり、様々な立場の人が関わっている(interdisciplinary)
    • 現場目線であり、地に足がついている(on-ground)
    • 環境を再生する(regenerative)
    • 政治的な意思表示である(political act)
    • 人々を感情から持続可能にする(emotionally sustainable)

このように、現代に必要とされる「良いデザイン」には様々な定義がある。今回のデザイン・フェスティバルでは「10年のスパンで家具を使い捨てることが当たり前」という価値観を問い直す「cozmo」や、ロンドンのテムズ川に浮かぶごみを何とかしたいと立ち上がった「Themes Glass」、安全でサステナブルな衣類が分配されるシステムへの違和感からスタートした「Re_Thread」など、いますでに現場で顕在化している問題から目を背けないデザインの力強さが印象的だった。

しかし同時に、問題にがんじがらめになるのではなく、問題自体を根本から問い直すということも、デザインが得意とするところだろう。実際に、今回のデザイン・フェスティバルでプロダクトやシステムに触れて「本当にこのシステムでいいのか?」「それは本当に必要な価値観なのか?」「私たちは本当に適した素材を使っているのか?」など、当たり前とされることを問い直す機会が度々あった。刻一刻と時代が変わる中で、私たちはデザインの力を借りながらこれらのことを絶えず考えていく必要がある。

環境と社会を少しでも良い方向に進めるために──デザイン・フェスティバルで展示されていたものたちが、私たちの新しい日常になっていく日もそう遠くはない気がした。

【参照サイト】London Design Festival
【関連記事】「ごみの時代」にデザインが担うもの。英・Design Museumの企画展から考える
【関連記事】イケアのイノベーションラボ「SPACE10」が取り組む、ユニークなプロジェクト7選

FacebookTwitter