労働搾取をなくす、ドライバーによる協同組合型の配車アプリ「Co-op Ride」

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Uberや、Lyftといったライドシェアのプラットフォームは、時間や場所にとらわれずに働けることで人気を集めている。従来の働き方である「会社に雇われて長期的な仕事を行う」のではなく、オンライン上のプラットフォーム等を通じて短期的な労働が行われる市場を指す「ギグエコノミー」の拡大に寄与している。

一方で、そうした大きなプラットフォームが中央集権化しつつあり、利益のほとんどがプラットフォーマーに持っていかれてしまうとして、プラットフォーマーと裁判で争うケースが世界中で起こっている。「会社が一方的に手数料の引き上げを決める。諸経費を差し引くと自分たちには何も残らない」というドライバーからの声も多いという。しかし2021年2月に、イギリスの最高裁判所が、「Uberのドライバーは自営業者ではなく労働者である」との判断を示したことで、世界の動きが少しずつ変わりつつある。

そんな中、ドライバーが団結して自分たちの権利を求めたり、より多くの利益を得たりできる仕組みが誕生した。ニューヨーク市にある協同組合型のライドシェア「The Drivers Cooperative」は、一人一人のドライバーの意思が運営に反映され、彼らがより多く稼げる仕組みを目指し、2021年5月30日にライドシェアサービス「Co-op Ride」の正式提供を開始。8月現在、3,000人以上のドライバーがCo-op Rideに在籍しており、10万ドル(約1,100万円)の収益を生み出したという。また、投資家からは64万ドル以上の資金を集めており、その注目度の高さが伺える。

The Drivers Cooperativeはどのようにして、ドライバーの利益の最大化を図っているのだろうか。まず、Co-op Rideの手数料率は15%。他社の平均30%〜40%の手数料よりも低いため、ドライバーは他社のプラットフォームよりも8~10%多く稼げることが挙げられる。さらに、The Drivers Cooperativeは協同組合型であり、ドライバーたちが所有する会社である点が特徴的だ。各ドライバーが会社の一株を所有し、会社の運営など重要な事項を決める際は一票を投じられるという、民主的な仕組みになっている。

この仕組みがあることで、ドライバーは毎年配当というかたちで利益還元が受けられる。走行回数の多いドライバーほど多くの配当金をもらえ、全体で見るとすべての利益がドライバーたちに還元される。

また、The Drivers Cooperativeは、営利を目的としない協同組合形式の金融機関「Lower East Side People’s Federal Credit Union」と提携し、ドライバーの自動車ローンの借換を支援している。クレジットヒストリーがないなどの様々な理由により、ローンの審査で不利な扱いを受けているドライバーが、より低金利で借りられるようサポートしているという。協同組合の組合員の購買力を結集することで、様々な費用を抑えられる一例だ。

さらに、Co-op Rideの料金は他社と比べて安いため、多くの乗客にとっても魅力的だろう。The Drivers Cooperativeによると、他社の料金は1マイルあたり1.48ドル(約163円)で、Co-op Rideは1.41ドル(約156円)だという。

The Drivers Cooperativeは、ドライバーだけでなく地域にお金を回すことにも注力している。組合は利益の10%を地域に根差した助成プログラムに充てており、今は非営利団体や芸術団体との関係構築を進めているという。また、まだ先の話ではあるが、ドライバーの電気自動車への移行を支援し、市内に電気自動車のインフラを整備することを検討している。自然環境にも配慮して、事業を進めていきたいという考えだ。

「ドライバーの生活にとってプラスになるかどうか」を常に考えるThe Drivers Cooperativeは、ライドシェアサービスの本来あるべき姿を示しているのかもしれない。


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【参照サイト】 The Drivers Cooperative
Edited by Erika Tomiyama

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