【徳島特集 #1】街を丸ごと“共遊”の資産に。美馬市から発信する「地方創生×シェアエコ」最先端

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徳島県美馬市脇町をご存知だろうか。江戸時代の風情を残した家並み「うだつの町並み」で知られ、かつては藍の生産地として栄えた場所だ。江戸時代には裕福の象徴であった屋根の装飾「うだつ(*1)」の上がった日本家屋が、約400mに渡って並んでいる。そんな美馬で、時代の最先端をいく取り組みが静かに始まっている。

美馬市脇町の「うだつの町並み」


※1 日本家屋の屋根に取り付ける防火壁。江戸時代には装飾の意味合いが強くなったが、これを造るには高額な費用がかかるため、家に「うだつが上がる」ことは富の象徴を表しているそう。

使われていないモノやサービス、場所などを、他の人と共有して利用するシェアリングエコノミー。その究極の形として、美馬では地域が持つ遊休資産(使われていない資産)を「働ける・遊べる・泊まれる」空間に変え、地域を丸ごとシェアコミュニティ化している。2017年にスウェーデンが国を丸ごとAirbnbに掲載したニュースを彷彿とさせる試みを、日本のいち地域が行うのだ。これを仕掛けたのは、うだつの町並みに佇むゲストハウス「のどけや」を運営する柴田義帆さんである。

日本国内外からの観光客が増え、民泊事業も盛んな徳島県。IDEAS FOR GOOD編集部は柴田さんを訪ね、美馬でいま行われている取り組みについて話をうかがった。

話者プロフィール:柴田義帆(しばたよしほ)

大阪府出身。株式会社ウダツアップ代表取締役社長。一般社団法人ハンモサーフィン協会代表理事。合同会社ゼロイチ舎代表社員。2014年に徳島に移住し、2014年にはゲストハウス「のどけや」をオープンした。世界のすべての土地でキャンプする「Landcamp」、遊休資産を定額で使える「ハンモサーフィン」、そしてユーモアあふれるBBQ&鍋体験をコンセプトにした「NABEQ」などのサービスを運営。

美馬に「人の集まる場」を作ったミュージシャン

柴田さんはもともとミュージシャン。大阪でライブハウス事業やビルのサブリース事業を行いつつ、音楽活動で海外25カ国以上のツアーやフェスを経験していた。約20年間の音楽生活を経て、徳島県出身で漫画家であった奥様と出会い、美馬にたどり着いたという。

のどけやオーナー柴田義帆さん

柴田義帆さん

美馬は人口が減り続けており、ゲストハウスはおろかバーもなかった。「人の集まる場所がない」そう考えた柴田さんは、ライブハウス事業などの経験をいかして年齢や国籍を問わず誰でも集まれる拠点をつくり始める。そして60坪の古民家を改築し、2014年にオープンしたのが「のどけや」だ。

当時、日本全国に4,000件ほどしか民泊物件をリスティングしていなかったAirbnbに登録したところ、多くの外国人観光客が訪れるようになった。美馬の街の魅力もさることながら、「ホストがミュージシャンと漫画家」だということがユニークだと思われたらしい。今、のどけやはリモートワーカーのエンジニアからアーティスト、クリエイター、大道芸人まで多様な人々が集まるコミュニティハウスとなっている。

のどけや本館

のどけや本館

のどけや別館

美馬のゲストハウス のどけや

地方にこそシェアリングエコノミーの必要性と可能性がある。」と語る柴田さん。徳島県に限らず、地方には空き家や広大な土地など使われていないスペースが多くある。彼が次に目を付けたのは、その遊休資産を最大限に活用することだった。

使われていない場所を「共遊の別荘」に

柴田さんが代表理事を務めるハンモサーフィン協会は、地方に点在する使われていない空き家を「共遊の別荘」として定額で貸し出すプラットフォームだ。現在四国を中心に21の拠点(うち13軒が利用可能)があり、月に1万円(税抜)の会費を払えば誰でも各地の拠点に泊まり、事業を行うことができる。

近年は企業などもサブスクリプション(定額制)型の民泊サービスを始めているが、ハンモサーフィン協会は3年以上前からその先駆けとして活動を行っている。彼らが目指すのは、ただ定額で安いレンタルサービスを提供することではなく、会員同士が協力して地域の課題を解決することだ。

「無いならつくる!」「人が居ないなら呼ぶ!」などの語録を持つ同協会では、たとえばバーやゲストハウスなど地域に足りないコンテンツがあればつくろうとする。そして美馬にのどけやが生まれたように、その地の資産を使って現地の人々も気付かないような価値を引き出していくと同時に、会員がさまざまな地域を「サーフィン(行き来)」できる仕組みをつくり、地域での経済活動を活発化させる。

空き家の活用だけでなく、柴田さんは屋外の空きスペースとキャンプをしたい人をつなぐマッチングサービス「landcamp(ランドキャンプ)」も運営している。自宅の広大な庭や田畑から、ビーチサイド、島、ビルの屋上まで、あらゆる空きスペースが対象だ。

どちらのサービスも、地域を”アソビ”と”シゴト”の場に変えるアイデアだ。空いたスペースを、会員や現地のコミュニティ、企業、自治体などが力を合わせて再生し、“遊び”のある場に変えている。美馬で今起こっている、地域の遊休資産活用の事例をみていこう。

サテライトオフィス体験施設「創~So~」
サテライトオフィス体験施設

「創~So~」の入り口

日本一の清流と呼ばれる穴吹川のすぐ近くにあるスペース。都市部に本拠を置く企業のメンバーが、美馬に実際に滞在し、豊かな自然や文化、地域の人々とふれあいながら地方部でのサテライト(サブ)オフィス進出や創業を検討する場だ。

地域と行政との連携でつくられたこの施設では、すでに都心のテック企業など複数の企業が利用メンバーとなっている。

印刷工場を改築した、寝泊りできる仕事場「ADLIV」
ADLIV外観

ADLIV外観

地元の印刷会社「ナカガワ・アド」のオフィスをリノベーションした複合施設。1階にはラウンジ、キッチン、Airbnbで宿泊できるドミトリーや遊べるテントなどがあり、2階にはシェアオフィスとコワーキングスペースが設けられている。美馬にもとからあった伝統的な印刷所の面影を残しながらも、外部の人が会社のオフィスに泊まれるというオープンな空間だ。

ADLIV内観

ADLIV内観

カフェや仮想世界上で遊べるカジノなどのコミュニティハウス「U.N.S」たち
ワタル珈琲

U.N.Sのカフェ「ワタル珈琲」

ハンモサーフィン協会の拠点となる「U.N.S(Udatsu Networkers Studio)」。その一つは、古民家を改築したカフェ「ワタル珈琲」だ。手作りのスイーツやベトナムコーヒーが楽しめ、現地の人々や移住者が自然と集まる場になっている。

そして現在、別のNetworkers Studioとして空き家の倉庫を改築したミーティングも宿泊もできる“大人の遊び場”もつくっている途中だ。会員同士が共に遊び、共に働く場となるだろう。

カジノ

現在改装中のミーティング兼仮想世界上で遊ぶカジノ

キャンピングカーも、河原も共遊の資産
貸出用キャンピングカー

広大な土地に泊めた貸出用キャンピングカー

キャンピングカーをそのまま空きスペースに置き、移動できる宿泊スペースにするというアイデア。美馬に長期滞在する人々を対象に、これからlandcampで貸出を行う予定だそうだ。ちなみに、現在は全塗装中で貸出中はlandcamp号として広告車の機能にもなるという。

そして柴田さんは、河原すらも働く場にしてしまう。川にテーブルを置き、ラップトップを開いて、水に足をつけながら定例会やミーティングをするなど、誰が考えただろうか。

このように、美馬ではいたるところに人々が交流できる個性豊かな場が次々とできている。使われていない資産をめいっぱい使い、人を呼び込むことで地域全体で分散型のシェアリングコミュニティを形成しているのだ。

柴田さんは、さまざまな人が「共に遊ぶこと(共遊)」が大切だと語っていた。地元の人々と移住者、他地方にある企業のリモートワーカーやフリーランサーまでもが空きスペースを活用した場で一緒に遊び、語り合ううちに新たなビジネスアイデアが生まれるのだという。

リアルなコミュニティの魅力をデジタルに載せる

柴田さん

ワタル珈琲でインタビューに応じてくれた柴田さん

地域がはじめから持っている資産を上手に編集し、ハンモサーフィンやlandcamp等のサービスを通して価値を生み出す柴田さん。彼に今後の展望を聞いてみると、リアルと仮想世界がつながる新たなデジタルプラットフォームを構築中だという答えが返ってきた。

2019年3月ローンチ予定のプラットフォームは、完全招待制のクローズドなコミュニティアプリで、信頼できるユーザー同士のつながりを重視し、ビジネスの知恵やイベントなど有益な情報を共有できる場だ。そして旅やイベントの予約、ショッピングなどもその場で行えるシステムをつくり、ユーザー同士のリアルなコラボレーションを創造する。

また、本サービスではバーチャル通貨「XPL」を通して独自の経済圏(トークンエコノミー)を構築することも目指す。バーチャル通貨を使ってプラットフォーム上のさまざまな仮想コンテンツ、たとえばXPLカジノなどを楽しむことができる、「商品・サービス・スキル」などリアルで価値のあるモノと交換も可能なのだ。法定通貨でこれらの価値あるモノに対価を払うこともできるそうだが、このXPLそのものは法定通貨には換金できないため投資の対象とはならない。柴田さんは以前から、仲間と共にトークン活用の実証実験も行ってきた。

プラットフォームのユーザーが情報発信をし、お互いに“いいね”や“シェア”などでXPLを受け取れたり渡したりすることで、感謝を通じて真に信頼できる人へお金が流れ、あらゆる社会課題を解決していくプラットフォームをつくりあげていくという。

編集後記:美馬という地

徳島県美馬市はただ町並みが美しいだけの場所ではない、というのはもうおわかりだろう。空き家や空きスペースなど、日本の多くの地域がもてあます遊休資産、ひいては空き地や川にも「オフィス」や「遊び場」「キャンプ場」など新たな役割を与え、デジタルなプラットフォームに載せることで現地の人々と移住者、訪問者など多様な人々にとっての価値を創造する。

そしてこれから独自の経済圏をつくり、バーチャル通貨を通して受け渡しの“感謝の気持ち”を人から人へ繋いでいく。うだつのあがる町、美馬からはじまったこれらの取り組みは、ひとつの地域を“共遊”によって活性化するシェアリングエコノミーの可能性を強烈に示している。

【参照サイト】ハンモサーフィン協会
【参照サイト】landcamp
【参照サイト】Sweden Lists Entire Country on Airbnb

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