米ボストンの公共ラジオ局であるWBURによると、マサチューセッツ州ケンブリッジでは2009年から2014年の間、年間約16.4エーカー(約6万6千平方メートル)の樹冠(樹木の幹の上部にある、枝や葉の茂っている部分)が失われたという。(※)その理由は、駐車場を建設するためだったり、木が病気になったためだったりとさまざまだ。私たちは、今一度身近な自然に目を向けて、その日々の変化を感じ取ってみてもいいのではないだろうか。
サウンドデザイナーのスクービー・ラポスキー氏は、「ケンブリッジ市の木を気にかける人が増えてほしい」との想いから、木の活動を音楽に変えるアートプロジェクト「Hidden Life Radio(隠れた生命のラジオ)」を実施している。木のリズムが、芸術の域に達するときがあるのだ。同氏は、木の葉にセンサーを取り付け、木が光合成をしたり水を吸ったりしたときに生じるわずかな電圧を測定。電圧ごとに割り当てた音域を再生することで木の音楽を奏でられるようにした。この音楽は、Hidden Life Radioのサイトで24時間、リアルタイムで聴くことができる。
このラジオに登場する木は、全部で3本。すべてケンブリッジ公共図書館の近くにある木で、1本目は樹齢80年以上のブナの木、2本目は樹齢約30年のサイカチの木、最後が樹齢約60年のレッドオークだ。木から流れるメロディーは、そのときの気温、大気汚染の状況、日光の当たり具合、水の状態などに応じて変化するという。ずっと雨が降らないと、沈黙する日もあるそうだ。環境の変化の影響を受ける様子は、私たち人間と似ている。
Hidden Life Radioのアイデアは、ラポスキー氏がケンブリッジ市の住民と話し合ったことがきっかけで生まれたそうだ。住民たちは、昔からあった木が失われていくことを心配していた。そこでラポスキー氏は、同市の公共事業局と芸術機関「Cambridge Arts Council」の支援を受けながら、このプロジェクトを実現。行政が、市民の声に耳を傾けているのが素敵だ。
私たちの身の回りでも、自然はどんどん変わっていき、失われているかもしれない。私たちはそのことに、どの程度目を向けられているだろうか。木陰の涼しさや、きれいな空気、心を清められる空間がなくなることを、私たちは受け入れているだろうか。もし「受け入れられない」と思うのなら、その気持ちを行動に変える方法はたくさんある。
Hidden Life Radioは、私たちに、自然を大切に思う気持ちを思い出させてくれる。あなたが普段目にするすべての木にも、同じようにメロディーが流れている気がしてこないだろうか。
(※) Old Growth, New Problems: The Battle Over Tree-Cutting In Cambridge
【参照サイト】 Hidden Life Radio
Edited by Erika Tomiyama