文字から考える、後世に残るサステナブル・デザインの形【UNKNOWN DIALOGUE #2 生物多様性】

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私たちの生きるこの世界には解決すべき社会問題が数多く存在するが、その問題が生まれた根本的な背景が分かりづらいと感じることはないだろうか。近年、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめとした世界規模の目標や指針は、さまざまな場面で提示されているが、問題を解決するための目標にだけ向き合い、 問題の根っこにある原因を解消しないままでは、将来的に同じことが繰り返されてしまうだろう。

社会問題解決のための共創プラットフォーム「THE VOTE」は、社会問題の根本的な原因を次世代ソーシャルリーダーとともに見つけ出し、解決に繋げる全5回の対話型イベント「UNKNOWN DIALOGUE」を開催している。 イベント内で生まれた対話をもとに制作された次世代アーティストによる作品をきっかけに、社会問題の捉え方を変化させ、その本質的な原因についての対話を生み出していく(前回のイベント内容はこちらから)。

今回は、5月に開催された第2回目のダイアログのテーマである「生物多様性」をもとにアート作品を制作した八木幣二郎さんをインタビューした。なぜ生物多様性が失われているのかを思い浮かべながら、アート作品を鑑賞してみてほしい。

対話で深める、生物多様性が失われている原因

イベント冒頭では、なぜ生きものがいなくなるのかについて、株式会社バイオーム 代表取締役/博士(農学)の藤木庄五郎さんとスピーカーのアクティビストたちと対話で掘り下げていった。まず、アート作品を見る前に、簡単に当日の議論の内容をおさらいしておく。

生物多様性が失われている背景には、気候変動や開発工事、里地や里山に人の手が入らなくなったなど、環境の変化が存在する。そしてその根底には、暮らしの近代化や都市化といった私たちの生活との結びつきが見えてくる。さらに、マクロな視点で捉えると、経済のグローバル化による自然環境への悪影響についても意見があった。

そして、この議論をもとに生まれたのが、下記のアート作品だ。

UNKNOWN DIALOGUE “biodiversity” from THE VOTE on Vimeo.

まずは、上記の作品を見てほしい。あなたは何を感じただろうか?躍動する黒い液体に見えるモチーフは、何を意味しているのだろうか。見る人によって、さまざまな感想を抱くことだろう。今回は、作品の意図について八木さんに伺った。

話者プロフィール:八木幣二郎(やぎ・へいじろう)

八木幣二郎さん
アートディレクター・グラフィックデザイナー。1999年生まれ。都立総合芸術高校卒業後、東京藝術大学入学。グラフィックデザインを軸にデザインが本来持っていたはずのグラフィカルな要素を未来から発掘している。若手現代美術家の展示のポスターやビジュアルなどのグラフィックデザインをはじめ、映画ポスターやブックデザインなども手がけている。SNS:InstagramTwitter

自己のリフレクションから生み出されるアートの世界

現在はグラフィックデザイナーとして活動する八木さんは、幼い頃から絵を描くのが好きで、架空の妖怪を描くことに没頭していたという。その後、3DCGを使ったデザインの手法を知り、映画やゲームなどの架空の世界や生き物をデザインすることができるコンセプトアーティストという仕事に関心を持ち、中学校の時に3DCGを使用した制作を始めた。

八木さん:美術系の高校へ進学し、デザインの勉強を始めました。高校のデザイン科って、大学受験用の課題が多く、正直自分はそれに対して嫌気が差していたんです。徐々に、自分で作ったものを発表したい気持ちになっていき、現代美術の勉強を始めたり、コンセプチュアルにものを考えるようになりました。現代アートの面白さは、表現を鑑賞する中で表現自体や支持体から疑い始めたりと、リフレクションを繰り返していくことだと思います。また、コンセプトアートは、この世に実在しない空間や生き物を作れることが面白いですね。ディスプレイって平面的だけど、3DCGを扱うことで自分で奥行きが作れる。まさに、超能力者になった気分です。

その後芸術大学に入学すると、制作について何も考えられなくなった時もあったそうだ。

八木さん:制作を探究する中で、デザイナーがいなくなっても後世に残るデザインの形を探るようになりました。卒業制作は、「本の缶詰」をモチーフに鉄の箱の中に紙を溶かす除草剤と文庫本を入れ、本を10年かけて液状化させる作品を制作しました。この作品は「文字を埋葬する」というコンセプトですが、再び生まれ直し循環していくグラフィックデザインそのものだと感じています。

デザイン

Last Duelist -決闘と文字-

デザイン

後世に残るデザインとしての「サステナビリティ」

後世に残るデザインをいかに生み出していくかは、八木さん自身制作の中で特に意識していることだという。

八木さん:今までサステナビリティ領域の問題に対して、自分と少し違う考え方だと思っていたのですが、今回VOTEのイベントに参加したことで、自分が考えていたこととサステナビリティが繋がっていると思いました。自分も、無駄なものを使わないことを意識して作っていて。デザイナーという仕事は、物質的な物に残すことが重要だと思っています。そういった意味で、資源を減らしながらも良いものを作り後世に残していくというように、サステナブルな考え方をちゃんと考えないといけない職業だと思いました。

“East-East Vol.4: The Curio Shop” Curated by Sophie Arni, Photo by Naoki Takehisa

また、八木さんは今の「デザイン」がどういった立場に置かれているか、課題も感じるそうだ。

八木さん:「消費される」というのは、モノだけでなくデザインも同じだと思いました。特に紙媒体の消費が早いのですが、自分もわずか1か月の展覧会で配布するだけのフライヤーをもったいないと思いますね。逆に、写真集やカタログ、アートブックなど、強いマテリアルを使って数百部だけ刷るという方法もあります。こうやってデザインをアーカイブしていくという意味だと、後世に残していく意義があると思いますね。まさに、自分が捉える時間軸をずらすような感覚です。

デザイン業界は消費のスピードが早いが、八木さん自身は卒業制作のように哲学や表現を強固に残していきたいタイプであり、そうした意味でサステナブルなデザインなのではないかと考えている。

角度を変えると見えてくる「社会問題」の側面

今回のVOTEの作品は、対話全体の流れからイメージして制作したという。

八木さん:VOTEの対話全体のイメージとして、社会問題への答えが見つからない感じから、日本の博物学者 南方熊楠が研究していた粘菌から着想を得ました。生物的なレントゲンのイメージで、墨が流れていくようなテクスチャーにして、繋がりやデザインのされていなさ、文字にならなさ、曖昧な線の描写を意識しました。まさに、「デジタルネイティブ書道」のような作品です。

デジタルネイティブ書道

大きな枠組みで見ると不定形なイメージだが、実際は一つの生き物を作るのと同じ感覚だと八木さんは話した。形自体の核があり、そこから派生的に繋がっていく。見る角度を変えると、それぞれが全く異なる形に見える作品だ。まさに、一つの結論に集約できない、さまざまな側面を持っている社会問題自体を意味しているように思う。

「文字」が想起させる俯瞰した視点

今までさまざまな作品を制作してきた八木さんは、今後今まで制作してきたグラフィックをどのようにデザインの歴史の中に固めていくかを考えていきたいという。そのヒントとして、「文字」のあり方に注目しているそうだ。

また、八木さんがデザインを勉強していく中で、文字の成り立ちや組み立てを考えることは、コンセプトアートの中で環境や生き物を作る際にリファレンスを集める感覚と似ていると感じたそうだ。そうした中で、文字を保有して後世に繋げるのが、デザイナーの役割だと八木さんは考えている。

八木さん:昔聖書に使われていた羊皮紙は多くの羊を殺して作っていたと言われており、命よりも大事な高貴なものでした。また当時は人々の識字率が低く、文字らしいものが書かれているだけで「神」のような存在を感じていたのではないかと思います。文字の形状などから絵を想像していたのかなと。これは、3DCGのグラフィックを作る感覚と似ていると感じます。今は記号としてしか見えない文字には古い歴史があり、そういった文字の形状にある意味など分解して考えたり読み取ったりしていくことで、デザインを後世に残していきたいですね。

八木さんデザイン

“Episode.0 “JYU” -crosswhen- ” Curated by GCD☆GCD, Photo by Naoki Takehisa

歴史の流れを俯瞰して捉え、今のデザインがどこに位置するのかを明確にしたうえで未来に残るデザインのあり方を考えていくという思考は、まさに「サステナブル」な考え方と繋がる。現状、さまざまな場面でSDGsをはじめとしたサステナビリティへの取り組みが盛り上がりを見せているが、今抱えている社会問題をいかに解決しより良い未来に繋げるかという、「今」と「未来」に焦点が当てられているように感じる。今回八木さんの話を受けて、過去に目を向けることの大切さ、そしてそうした歴史の流れの文脈で今自分の取り組みがどういった立ち位置にあるのかを考えることの重要性を感じた。

より良い未来をつくりたいという気持ちは誰しも少なからず持っていると思う。だからこそ、過去を見つめ直したうえで、その中から「後世に何を残していきたいか」を問いかけることは、より具体的かつ自分自身に根ざした形での取り組みを後押しするはずだ。

また八木さんの作品を観て感じたのが、一つの原因に結論づけられない社会問題に対する「曖昧な感覚」だ。社会問題に取り組む中で、自ずと自身の価値観や経験から物事の良し悪しを二項対立で考えがちだ。しかし、そうした捉え方は溝を生み出し、新たな社会問題を生んでしまう可能性もある。その中で、あえて善悪の結論をつけず曖昧な感覚で物事を捉えていくと、今までとは違う社会問題の側面が見えてくるのではないだろうか。

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