本格的な夏の訪れを待つ6月最後の日曜日。アメリカ・ニューヨークは毎年、レインボーの旗を掲げる大勢の人々で埋め尽くされる。LGBTQ+を始め、すべての人が平等で差別のない未来を目指す「New York Pride March」、通称プライドマーチが盛大に行われるのだ。
プライドマーチの始まりは1969年、ニューヨークで起きた暴動事件「The Stonewall Riots(ストーンウォールの暴動)」までさかのぼる。同性愛者の性交渉が違法とされていた当時、セクシャルマイノリティたちはいわれのない差別や偏見にさらされていた。警察が彼らを取り締まるため、ゲイコミュニティが集まるバー「ストーンウォール・イン」に踏み込んだ際、執拗にターゲットにされていた当事者たちが、権力による迫害に立ち向かったのだ。
それ以降、50年以上にわたって、ニューヨークではマイノリティたちが「自分らしく生きる」ために、さまざまな社会運動が繰り広げられてきた。LGBTQ+の歩みを見つめ続け、歴史を築いてきた都市といっても過言ではないだろう。
そんなニューヨークに2024年、LGBTQ+の歴史を保存し共有する博物館「The American LGBTQ+ Museum」が誕生する。「LGBTQ+の平等」をミッションに掲げ、当事者の体験談、写真、映像、音声、芸術品などを通して、LGBTQ+が経験した過去と現在を伝えていく。
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アメリカにはすでに「National LGBT Museum」もあるが、多様なセクシャリティーを意味する“Q+”(※1)まではカバーされていない。博物館設立の背景には、LGBTという言葉に当てはまらない人々の物語や経験が見過ごされ、日々失われつつあるという危機感があった。
※1 Q(クエスチョニング、自分のセクシュアリティがわからない、決めていない人)やQueer(クィア、性的少数者全体をあらわす)なども含む
そこでThe American LGBTQ+ Museumでは、LGBTQ+の当事者や研究者、一般市民ら、合計3,200人以上にヒアリングを行い、博物館のコンセプトを構築。小さな声も丁寧に拾い上げながら、LGBTQ+に関する情報の保存、発信、教育プログラムの提供を行っていく。
展示には、LGBTQ+の歩みをリアルに追体験できるような工夫が凝らされている。さらに、当事者による発信だけではなく、博物館に訪れた人同士が対話できるようコミュニティスペースが併設されているのもポイントだ。
LGBTQ+の平等の実現には、当事者たちの努力だけでなく、私たち全員が「誰一人取り残さない」という意識を持つことが欠かせない。当事者はもちろん、その家族や、LGBTQ+と関わりがなかった人、はたまた批判やフィードバックまでも大歓迎するという姿勢を示しているのだ。博物館の誕生は、ニューヨークのみならず世界のLGBTQ+コミュニティの歴史に新たな1ページを加えることになるだろう。
多様な社会には賛成だけれど、何から始めていいのかわからないという人は多いのではないだろうか。そんな人こそぜひこの博物館を訪れ、「どんな歴史があったのか」を知り、「自分には何ができるのか」を考えてみてほしい。
【参照サイト】The American LGBTQ+ Museum
【参照サイト】NYC Pride