※ 自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群を総称してASD(自閉スペクトラム症)といいますが、本文では原文リリースにもとづきAutism(自閉症)だけに焦点を当てています。
職場や社会において、性別、障害、国籍などにとらわれず一人ひとりの違いを認め尊重する「ダイバーシティ」。日本でも見聞きする機会が増えているが、欧米の企業ではさらに、脳や神経機能の個性に注目した「ニューロ・ダイバーシティ」が、人材雇用の戦略として取り入れられ始めている。
ニューロ・ダイバーシティでは、神経や脳の違いを「個性」とする。たとえば、自閉症や高機能自閉症、アスペルガー症候群などをそれぞれの個性とし、各自の能力を生かせる社会の実現を目指していくのだ。
そんな中、IT業界世界最大手のGoogleは、ニューロ・ダイバーシティの実現に向けて「自閉症キャリアプログラム(Google Cloud’s Autism Career Program)」の開始を発表した。自閉症の人々の持つ才能やスキルを生かせるポジションと採用プロセスを用意し、多様性の実現と企業のさらなる発展を目指す狙いだ。
Googleによると、自閉症と診断を受けている人で就労経験がある人は29%だという。高い技術や専門知識があっても、コミュニケーションが苦手であることを理由に、採用プロセスの過程で偏見や誤解が生じ、優秀な人材を逃してしまっているとする。
そこでGoogleでは、スタンフォード大学のニューロ・ダイバーシティ研究者と採用プロジェクトを構築。既存の採用プロセスを見直し、面接時間の延長、事前質問の提供、口頭ではなく書面による面接の実施など、特性に応じた対応を用意する。
さらに、受け入れる現場の整備も進める。違いを深く理解するため、最大500人の管理職や採用担当者を対象としたトレーニングを実施。採用後もスタンフォード大学の専門家たちの協力を得ながら、働きやすい職場環境の実現に向けた継続的なサポートを行っていく。
Google Cloudのグローバル・オペレーションを担当するRob Enslin氏は、Google Cloudの公式ブログ内で、自閉症の人と仕事をしてきた経験を「自閉症の人は、どのような組織においても高い機能を発揮し、貢献できるプロフェッショナルだ」と振り返る。
さらに、「(自閉症キャリアプログラムは)自閉症の候補者を優遇するものではなく、現在の不利な条件を取り除くことで、公平なチャンスを得られるようにするものだ」と、新たな取り組みへの期待を語っている。
脳や神経機能の違いは、見た目には表れないからこそ、社会での理解はまだ追いついていない。運よく働くチャンスを得られたとしても、電話対応がうまくできずに怒られてしまったり、特性に合わない仕事でミスをたくさんして「できない奴」とレッテルを貼られてしまったりと、無知は偏見を助長してしまうことがある。
Googleが目指すように、企業や社会が脳機能の個性を理解し、それに応じた仕組みを構築することは、働く側にも企業にも、大きな価値をもたらすだろう。
世界的な企業であるGoogleが先駆けて成功事例を生み出すことが、ニューロ・ダイバーシティ実現への大きな一歩となることに期待したい。
【参照ページ】Strengthening our workplace with neurodiverse talent
【参照ページ】ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|厚生労働省 | e-ヘルスネット
Edited by Kimika