本気で遊ぶ、自然と気づく。鳥取のJリーグクラブと“五感”で学ぶサステナビリティ

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鳥取県民にとって偉大な存在・大山(だいせん)。見渡す限りに広がる大山の山は、昔から鳥取県民の拠り所とされてきた。心の拠り所としてはもちろん、台風などの自然災害から県民を守ってきたとも言われ、物理的な拠り所にもなっている。1922年、大山は日本で3番目の国立公園に登録され、その後1963年、登録当初のエリアに蒜山地域、隠岐島、島根半島、三瓶山地域が追加され、現在の大山隠岐国立公園となった。

大山

大山隠岐国立公園

ここには、数多くの微生物や1,000種を越える昆虫のほか、日本に生息する野鳥の種類の3分の1が生息している。また、1本の木に20~30万もの葉をつけるブナ林が広がっており、地面に落ちて腐葉土となったブナの葉が、雪解け水や雨水を貯えることから、多くの湧き水・名水のポイントが点在。大手飲料メーカーの工場が進出するなど、天然水の採取地にもなっている。

険しく荒々しい岩肌から、火山の原型を残すような、なだからな山容まで、見る場所や角度によって表情を変える中国地方の最高峰・大山。特別天然記念物に指定されるダイセンキャラボクを含め、それぞれの環境に適応した多様な動植物を見ることができる大山だが、例にたがわず、2020年から蔓延している新型コロナウイルス感染症の影響を受けて来訪者が減少した。

そんな今、改めて大山の素晴らしさを伝え、この地を盛り上げようと、とあるツアーが企画された。スポーツの力を活用し、サステナビリティ推進に挑戦するツアー「ガイナーレ鳥取 復活!公園遊び 大山隠岐国立公園で楽しむ自然体験 2日間」だ。

ガイナーレ鳥取モニターツアー

大山隠岐国立公園で行われた2日間のツアー。約一か月ほど前から2度のサポーターズミーティング(オンラインでの共創セッション)が設けられ、参加者と企画者は共に、ガイナーレ鳥取の取り組みや大山隠岐国立公園のことを学んだり、当日のコンテンツやツアーを盛り上げるアイデアを考えたりした。

手掛けたのは、サッカーJクラブ・ガイナーレ鳥取、環境省、旅行会社のクラブツーリズム、そして多様な組織をつなぐフューチャーセッションズの4者だ。異なるステークホルダーたちが、「スポーツの力で国立公園を活性化させたい」という共通する想いを胸に、一体となってつくりあげたモニターツアーである。

そんな今回のツアーの中心的存在となるのが、大山を望むスタジアムを有する「ガイナーレ鳥取」。同クラブチームのファンである参加者を中心に、ガイナーレ鳥取のスタッフや山岳ガイドなどが共に、大山隠岐国立公園で自然体験活動を行った。当日は、公園遊びやハイキング、野菜の収穫体験や地産地消の食事、星空観察など、大山の自然の豊かさと魅力に触れる様々なコンテンツが用意された。

本記事では、2021年10月23~24日に行われたツアーに参加した筆者が、二日間の様子と、企画者の一人であるガイナーレ鳥取のスタッフの想いを中心にレポートをお届けする。

大人も子どもも一緒に。国立公園大山で「復活!公園遊び」

今回のメインアクターであるガイナーレ鳥取は、鳥取県米子市を拠点に活動するJリーグのクラブチーム。選手たちがリーグで試合を行うことはもちろんだが、長年、地域密着の取り組みに注力してきた。

たとえば、重点的に取り組む施策の一つに芝生事業がある。「芝生で街を、人を笑顔で満たしたい」という想いから始まった「Shibafull(しばふる)」というプロジェクトで、地域の耕作放棄地を利活用、芝生を生産し、街で有効活用することで地域の課題解決や地域の価値向上につなげるものだ。人口減少による耕作放棄地の増加、それに伴う雑草の繁殖が引き起こす地域住民のアレルギー発症、景観の悪化などの地域課題にアプローチしている。

さらに、本業であるサッカーに関する取り組みとしては、選手やスタッフが幼稚園や小学校などへ赴き、子どもたちと一緒に身体を動かしたり、“夢先生“として夢を持つことの素晴らしさやサッカーについての講演をしたりといった教育活動を行ってきた。そのなかでも象徴的なのが、今回のツアー中にも開催された「復活!公園遊び」だ。

復活!公園遊び

大山隠岐国立公園で行われた「復活!公園遊び」

2003年以降、選手やスタッフたちは県内の小学校などを訪問し、子どもたちの心身の健やかな成長を目指し、昔懐かしい遊びや身体を使った様々な遊びの機会を提供してきた。年間約250回、約10,000人以上の子どもたちやスタッフが活動にかかわってきたという。

取り組みが始まった背景には、「公園に行っても誰もいない」と言う子どもたちや、「外で遊ばせたいけど、なかなか……」と言う親たち、そして「子どもが外で遊ぶのが怖い世の中になった」という報道の増加などがあったそう。最近では、スマートフォンなどのデジタル機器の普及や新型コロナウイルス感染症も相まって、近くに公園があっても外で遊ばない子どもの数は増えている。

そんな「復活!公園遊び」は、「思い切り子どもたちに外で遊んでほしい」というスタッフや選手の想いから、現在も各地で続けられている。そして今回のツアーでは、大山桝水高原(ますみずこうげん)にて開催された。

復活!公園遊び

大人も子どもも一緒に、全力でだるまさんがころんだをした。

この「復活!公園遊び」のテーマは、「準備いらず片付けいらず」。何も道具を使わずに楽しめることがコンセプトになっている。そこにあるものだけで楽しむため、ごみが出ないことも特徴だ。

参加した鳥取県在住の親子6組は、大山の美味しい空気を吸いながら、寒空の下、大人も子どもも一緒になってリレーや鬼ごっこ、だるまさんが転んだなどを楽しんだ。参加したお父さんお母さんからは、「近くの小さな公園で遊ばせることはあるが、こんな広い場所で遊ばせることは少ないので嬉しい」という声が聞かれた。子どもたちのなかには、広々とした大山で身も心も解放されたのか、素足で駆け回る子もいた。

自然のなかで、自然を学ぶ。天然水の聖地をハイキング

2日間のツアーでは、大山の風光明媚な自然が感じられるアクティビティが数多く用意された。国立公園内の木谷沢渓流(きたにざわけいりゅう)でのハイキングでは、豊かな清流と深い苔のなかを散策しながら、普段は目にすることが少ない動植物について山岳ガイドの方から学んだ。

木谷沢渓流

木谷沢渓流にて、ガイドの方から様々な生き物の不思議を学ぶ。

たとえば、大山の代表的な木であるブナの木は、水分を多く含み湿っているため燃えにくいという性質を持ち、山火事などを防ぐ役割を担っている。しかし、湿ったブナの木は柱として使えないため、かつてその多くが伐採されてしまった。現在では、国内でブナが自生している場所は少なく、大山のような場所はかなり貴重だという。

また、足踏みをすると出てくるキノコの菌糸から、土の分解の仕組みを学んだり、カタバミの葉で10円玉をこすりピカピカにする実験を行ったりと、目で見て耳で聞き、そして手足を動かしながら自然の叡智に触れた。

木谷沢渓流

10円玉の銅イオンは植物の腐食を防ぐ役割を持っており、カタバミの葉でこすると綺麗になるそう。教わった子どもたちは必死で磨いていた。

生態系の仕組みや神秘的な自然の力──なかなか実物を見ながら学ぶことができない話に、興味津々で耳を傾けていた子どもたち。ときに自分から「これは何?」と様々な生物を見つけては質問をしていた。緑溢れる環境で、多くの生命に触れた彼らは、これからどのような大人になっていくのだろうか。

地元野菜を収穫してその場で頂く、大山の地産地消で生まれる地域循環

自然のなかで自然の魅力を味わう今回のツアーでは、「食」を通しても自然に触れていく。ジビエや大山黒牛、地元野菜を使ったバーベキュー、鳥取産のお米とおかずを使ったおにぎりづくりなど、二日間の食事のほとんどに使用されたのは、地元でつくられた食材だ。

おにぎりの具/地産地消

おにぎりの具に使用した鳥取県産のおかず。名物のらっきょうを使ったものや味噌なども。

さらに今回は、ただ食べるだけでなく、産物を自らの手で収穫する「野菜の収穫体験」も企画され、ツアー2日目には大山近くのブロッコリー畑を訪れた。

子どもたちは親と一緒にはさみを使ってブロッコリーを収穫。獲ったブロッコリーは、その場で農家の方に茹でてもらい、熱いうちにその場でほおばる。子どもたちの口からは、「こんなブロッコリー食べたことがない!美味しい!」という声が飛び交っていた。獲れたての産物をその場で食す。まさに地産地消だ。

ブロッコリー畑

ブロッコリー畑

地域の魅力の再発見や結びつきが得られたツアー

一地方のスポーツクラブでありながら、スポーツ的価値だけでなく、地域的、社会的価値を事業や収益につなげるべく活動してきたガイナーレ鳥取。2017年から同クラブに携わる高島祐亮さんは、今回のツアーについてこう話す。

「私は、2017年に都内から鳥取にやってきました。それ以降、地方スポーツクラブの強みを考えるなかで、一つキーワードとして考えていたのが『地域のつながり』でした。これまでガイナーレ鳥取はもちろん、Jリーグが取り組んできた社会連携活動って、まだまだ地域の方々にあまり伝わっておらず、また可能性があるのにそれを広げられていないと感じていたんです。そういうなかで、今回のツアーをきっかけに、これまでかかわりのなかった地域の方たちとつながり、ガイナーレ鳥取のことを理解してもらえたのは良かったと思います。」

「参加者目線では、今回のような『体験する』コンテンツは、地元の魅力を再発見したり、結びつきを得たりすることにつながると強く感じました。また、県内のお客さんが地元のガイドさんや生産者の方とつながることで、『自分の地域のことでも知らないことがまだまだたくさんある』という気づきもあったようでした。」

ガイナーレ鳥取

畑では参加者たちによってたくさんのブロッコリーが収穫された

これからはガイナーレ鳥取自身が、そんな影響を与えられるクラブになりたい──そんな想いを口にした高島さんに、最後に今後の取り組みについて伺った。

「今回は、参加を県内在住の方に限定したツアーでしたが、次回は是非、県外の人にも参加してほしいですね。今回おにぎりづくりをしたときのことです。スタッフの中に県外のメンバーがいたのですが、そのスタッフに対し、鳥取在住の参加者の方たちが、自発的に地元ならではの具材について説明してくれていました。その様子を見ていて、『県外の人が一緒に参加することによって、地元への意識がより高まるのではないか』と感じたんです。県外の人に地元について伝えようとするとき、おのずと県民にとって誇れるものが見えてきます。それが、いつの間にか、自分たちの地域の豊かさを守ろうという意識や行動にもつながっていく気がしています。」

「あとは、過去のツアーの参加者が順々にツアーガイドとなって“伝えていく”役割を担ったり、スタッフや参加者、選手が皆同じ目線で参加したりできたら、もっと色々な気づきや見え方が出てくると思います。今回のツアーは、まだまだスタート地点。実際やってみると、改善点や伸びしろなど色々と見えてきたので、継続的にやっていきたいです。そして、『ガイナーレ鳥取が鳥取にあってよかった』と思ってもらえるようなクラブを目指していきます。」

編集後記

見る、知る、聞く、食べる、遊ぶ、触れる、笑う……ここに並べきれないほどのあらゆる「動詞」が、ツアーのなかに溢れていた。参加者たちは、五感と身体全体をフルに使って多様な経験をした。自然のなかを歩き、地元の食材を食べる。それだけをとっても、自然とつながらずにはできないアクティビティであり、私たちが、人間はもちろん、他のあらゆる自然環境と共に生きる存在であると感じた時間だった。

今回のツアーは、そんな自然とのつながりはもちろん、高島さんがおっしゃったように、「地域のつながり」も生み出した。同じ地域に住む人同士、そして“自分自身と、自分が住むまち”という2つのつながりが、ほんの少しだけかもしれないが、強固なものになったのではないだろうか。

体験を通して生まれたそんな「つながり」は、きっと大きな存在となって、一人一人の心に残る。そしてそれは、どんな知識や情報よりも地域の豊かさを守る「サステナビリティ」への近道になる気がしている。

【参照サイト】ガイナーレ鳥取HP

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