ふんどしまでシェアする?江戸時代の循環経済から、未来の暮らしを考える【「日本橋ぐるり展」イベントレポート】

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2021年11月24日から12月10日の期間、日本橋エリアをSDGsで彩るイベント「Nihonbashi Sustainable Weeks 2021」「日本橋ぐるり展」が同時開催されました。その中でも今回は「日本橋ぐるり展」に注目し、イベントに密着しました。イベント終了後には、日本橋ぐるり展を推進する日本橋モデル推進委員会の一員であり、ぐるり展のメインイベントであった「べしゃりば」内のトークイベントでモデレーターを務めた成田冠さんに伺った後日談も交えながらレポートします。
※本記事は、日本橋で活動するチャレンジャーたちの思いやヴィジョンを発信し、街に新たなつながりを育むメディア「Bridgine」にIDEAS FOR GOOD編集部が寄稿した記事の転載となります。

日本橋ぐるり展2021

「ぐるり」なんとも良い響きのする言葉です。「ぐるりぐるり」口に出して見ると分かるのですが、「サステナブル」「エスディージーズ」と言葉にする時よりも、どこか楽しさもあり、口馴染みがいい感覚もあります。

日本橋という場所からサステナブルなあり方を突き詰めていくのであれば、何か日本らしい言い方ができないかと考え、名付けられたのが「ぐるり」という言葉。

「日本橋ぐるり」は、ぐるぐると物事がめぐる、超循環型の社会を実現していた江戸の暮らしにヒントを得て、現代を見つめ直し、日本橋を拠点にサステナビリティについて考案・発信していく目的で2020年から始まった活動です。まずはじめに、2020年と2021年の取り組みについて成田さんにお伺いしました。

日本橋モデル推進委員会メンバー・CreativeOut株式会社代表取締役の成田冠さん(撮影:岡村大輔)

日本橋モデル推進委員会メンバー・CreativeOut株式会社代表取締役の成田冠さん(撮影:岡村大輔)

「2020年にこの取り組みを始めた際、サステナブルな暮らしやモデルとはどんなものだろう?と考えてみんなで調査をしました。そんな中で日本の江戸時代の暮らしの中に、自分たちも初めて知るような様々なヒントやアイデアがあることに気づいたんです。これをまずは伝えるという目的でイベントを行ったのが2020年。そして2年目である2021年は、江戸のライフスタイルを紹介するだけでなく、江戸から学び、現在そして未来の課題を改善するためのヒントはどこにあるだろうという視点を持って、現代の日本橋らしいサステナビリティを探求していくフェーズにしていければと考えました。」

日本橋ぐるり展2021には大きく2つのコンテンツが用意されていました。1つ目が屋外展示。もう一つが落語・トークイベント・そして子供たちが考える未来の街や暮らしのプレゼンテーションが合わさった「べしゃりば」というイベントです。

サステナオブジェクト

サステナオブジェクト

1つ目である屋外展示「サステナオブジェクト」は、サステナブルな江戸の暮らしのヒント、日本橋に居を構えている企業の生の声、子どもたちのアイデアを組み合わせた展示です。入口で風に揺れる、ぐるりを示す無限大の紋の描かれた暖簾をくぐると、ディスプレイに「真のサステナビリティをモンタージュする」「超循環型社会を実現していた江戸の暮らしから現代を見つめ、新たな未来の可能性を探る」といった言葉。繰り返し組み立てて使うことのできる単管パイプで組まれたオブジェの壁面には、イベント企画検討時に使用したコピー用紙上に幾つかの文章が掲示されていました。

サステナオブジェクト2

「2021年のぐるり展のテーマは『真のサステナビリティをモンタージュする』というものでした。モンタージュとは映画や写真などの世界で、複数の断片を組み合わせて、一つのものを構成することを示す言葉です。誰か1人の声の大きい人や社会の答えを正解にするのではなくて、このイベントを通して一人一人が考えるきっかけを持って、その考えを撚り合わせながら本質的なサステナビリティを構成していけたらいいなと思い設定しました。

社会がこう言っているからこうするではなくて、自分で考えてみようと伝えたかったんです。なので、展示もビルド中というか。完成したオブジェではなくて、単管で組まれて隙間のたくさん空いた、建設途中のようなデザインにしました。」

べしゃりば ー 落語

続いて12月4日(土)に行われたのが、日本橋ぐるり展2021のメインコンテンツ「べしゃりば」。落語、トークイベント、子供たちのプレゼンテーションという3つのコンテンツが順を追って行われました。それぞれのコンテンツは過去・現在・未来という時間軸を象徴したものでもあり、時代の流れの中でサステナビリティを考察する仕掛けがなされています。

べしゃりば

まず幕が開けて、春風亭一朝さん、柳家喬之助さん、春風亭一蔵さんの3名の落語家さんによる落語が始まりました。会場は少し時を巻き戻し、江戸時代の日本へと世界をうつします。

春風亭一朝さん

江戸落語は、士農工商といった武士を最上位とする身分制度の存在する江戸時代において、下位層である職人・商人などの間で発祥しました。そのため、豊かとは言えない当時の庶民の暮らしのなかの出来事が多く話題となっています。時に困ったり苦しんでいる人々が話に出てくることもありますが、そこは落語。どんなに大変な日常も、最後は笑いに変えてくれるのです。

また、江戸時代から現代まで脈々と、落語を通じて、鮮やかな情景とともに受け継がれてきた江戸の生活。そのなかには現代の我々が先人から学ぶことのできる要素が多く込められています。

当日は、親からすると少し困り者の、ぼーっとした与太郎(少々間の抜けた青年)が主人公の「かぼちゃ屋」という話がありました。与太郎は「ちっとはしっかりしろ」という親からのお達しを受け、八百屋のおじさんに教わって、天秤を担いでかぼちゃを初めて売りに行く。なんともぼーっとしている与太郎ですが、粋な住民に出会いかぼちゃを全部売り払います。

落語が個人的にも好きだという成田さん、インタビューでこのようにコメントしてくださいました。

「このかぼちゃ屋の話いいですよね。ぼーっとしていて、今の世の中でいったら取り残されてしまいそうなキャラクターの与太郎から、全く仕方ないねえと、かぼちゃを買ったり、売るのを手伝ってくれる人まで出てくる。人情味があるというか。今の僕らが反省すべきことや学べることもあるように思います。」

江戸時代の落語最盛期は、銭湯と同じように、町に一つは落語を聞くことのできる寄席があったのだといいます。貧しい暮らしを送る江戸の庶民にとって、日常を笑い飛ばす力を持った落語はなくてはならない存在だったのでしょう。

べしゃりば ー トークイベント

さて江戸から現代に戻ってきました。続いてはトークイベント。メンバーは、先ほど落語を披露してくださった春風亭一朝さんと柳家喬之助さん。そして、江戸のライフスタイルに造詣が深く「江戸に学ぶエコ生活術」といった本も執筆されているアズビー・ブラウンさん。創業322年の日本橋老舗企業、株式会社にんべん代表取締役社長の髙津伊兵衛さん。経済学者の成田悠輔さん。三井不動産ビジネスイノベーション推進グループの川路武さんの6名。

べしゃりば2

モデレーターの成田冠さんからの情報提示と問いかけに沿って、複数のテーマで江戸の昔のお話を一朝さんやアズビーさんなどにお伺いしつつ、成田悠輔さんが現代の主に経済の視点から、​​髙津さんが日本橋で昔から今まで長く続く老舗企業の視点から、過去を今そして未来に繋げていくといった流れで話が進んでいきました。

ふんどしまでシェアする!?江戸の長屋暮らし

まず話にでたのが、落語の中にも出てきた江戸の長屋暮らし。江戸のライフスタイルに詳しいアズビー・ブラウンさんから暮らしぶりについてのお話がでます。

アズビー・ブラウンさん

アズビー:「江戸は特別な街でした。大通りにはお店や町屋があり、奥の方には長屋がありました。江戸の人口100万人以上の3分の2が長屋に住んでいたと言われています。長屋の一部屋は6畳。ワンルームアパートに家族で住んでいるというような感じです。狭いから自分の部屋にはあまり物を置けない、だからシェアしなくてはならなかったんですね。井戸、便所、物捨て場、洗濯場などが共用スペースである広場にあって、みんなでルールを守って、お互いに譲り合いながら使っていました。同じ長屋に住んでいる人たちは親戚ではなくても、その間には家族のように深い付き合いがありました。江戸の長屋暮らしのキーポイントは『シェア』ですね。」

長屋のひろば

シェア住宅ともいえる長屋を筆頭に、貸本屋を媒介とした本のシェア、長屋内における子育てのシェア、さらにはふんどしのシェアまで…あらゆるものをシェアしていたようです。

江戸のシェア経済

成田(悠輔):「江戸のシェア経済と今話にでていたものは基本的に、ローカルなご近所さん同士のシェア経済ですよね。一方で最近起きているのはグローバルな遠く離れた他人同士のシェア経済だと思います。テクノロジーによって、近しい人間関係を前提としないシェア経済が可能になったことで、一度廃れたシェアが再びルネッサンスを迎えているのではないか。こういったグローバルなシェア経済が可能になったのは、インターネットやスマートフォンのようなものが出来る技術環境の変化があったからだと思うんですよね。この技術革新を可能にしてきたのは、いわゆる生産経済・市場経済であって株式資本主義であるということは否定できないと思うんです。そういう意味でいうと、僕らが悪者にしたがるようなそういった経済によってシェア経済やサーキュラーエコノミーが可能になっている側面はあるんじゃないかなと。なので、この2つの経済をどう組み合わせるかが重要になってきます。」

1,000のリサイクル業者が存在する循環型社会

超循環型社会だったと言われる江戸には、1,000程のリサイクル業者が存在していました。春風亭一朝さんがお話しされた「井戸の茶碗」の落語のなかにも、「屑屋」と呼ばれる、屑を集めて生計を立てる職業がでてきました。それ以外にも、灰を集める「灰買い」、抜けた髪の毛を集める「おちゃない」といった、現代であればごみとされてしまうようなものを集めてリサイクルする職業。そして「研ぎ屋」や「提灯の張り替え屋」など、壊れてしまったものを修理する職業も多く存在しました。

リサイクル業者

一朝:「落語にも当時のリサイクルの精神を象徴するようなシーンがあるんですよね。おじさんが与太郎に、鼻をかんで紙を捨てるんじゃないよ。伸ばして乾かして、それをトイレの落とし紙につかうんだよと。すると少しして与太郎が、おじさん、やったんだけど失敗した。逆さまにやっちゃった。先にトイレいっちゃった。という(笑)。」

さらに会場にざわめきを呼んだのは、「排泄物」のリサイクルのお話。「下肥買い」という仕事をする人々が、人間の排泄物を回収。それを堆肥化して、農家が買い取り、農産物の生産時に利用。作られた作物をまた人間が食べて、下肥買いが排泄物を回収して…といった循環型の仕組みが江戸では採用されていました。この排泄物市場の市場規模は、現在の価値で40億円程あったと言われています。現代の排泄物が税金を使い、回収・処理されていることと比較すると、そこには大きな違いが見られます。

排泄のサーキュラリティー

成田(悠輔):「循環させる、共有する、再利用することの価値を経済的に上手く図る方法を僕たちの社会が作り出せていないという問題があります。典型的なのがGDPみたいな指標。GDPってよく、経済やお金のことしか捉えられていないと批判されるじゃないですか。でも、よくよく考えるとGDPは経済のこともよく測れていないと思うんです。たとえば何かを共有したり再利用しても、GDPには反映されないですよね。

なぜなら共有や再利用では何も生産されていないし、価格変化がおきているわけでもないから。GDPに反映できるような付加価値が生まれないんですよね。だけど循環したり再利用したりすると、放っておいたら無駄になっていたかもしれないものを利用して、新たに経験する価値が生まれるわけだから、付加価値があると考えるほうが自然です。そういう意味でいうと、GDPのような指標では捉えられていない循環や再利用の中にある経済価値を、どの様に見える化させていくのか。そういった価値を、いかに僕たちの社会を動かしていくための目標の中に埋め込んでいくかが大きな問題になっているのではないかと思います。」

成田悠輔さん

持続させるには。次の世代につなぐ?千年後の視点を持つ?

日本には世界と比較して圧倒的に多くの老舗企業が存在しています。帝国データバンクのビューロー・ヴァン・ダイク社の調査データ(2019年10月調査)によると、日本国内に100年以上続く企業は33,076。200年以上続く企業は1,340あるといいます。その中の一社が、日本橋の地で322年続いてきた老舗企業にんべん。その持続はなぜ成し得ているのでしょうか。

髙津:「私個人の考えとしては結果として続いてきたと思っています。弊社はつねに時代を読みながら新しいことに挑戦してきたのですが、そのいくつかをお客様に支持していただけたことで、続けられているのではないかなと思います。最初から500年続けようというような具体的な目標はもっていないですね。けれど、技術を伝えていくということは考えます。私はにんべんの13代目ですが、14代にどう繋げるかといったことは考えています。30年単位で考えているのですが、それが今13代ですから、13回続いてきたということだと思います。」

髙津伊兵衛さん

にんべんのように、一代一代を丁寧に重ね、受け継いでいくことで、結果として長く続いてきた企業もある一方で、千年続けることを物事を始める当初から考えていた日本人もいたのだといいます。

成田(悠輔):「奈良時代に作られた木の仏像があるのですが、作られた当初から千年たっても崩れないようにするために色々な工夫がされていたようです。一番面白いのはその技術が歴史のどこかの段階で失われてしまって、今の社会ではできないらしいということ。大昔に遡るとすごく特殊な超長期思考を持っている人達がさまざまな領域にいたようです。今は僕たちの社会では千年先のことを考えるような習慣はあまりないですよね。でも今後はもしかしたら何千年持たせることを目標にした企業や国家というのも、考えられるんじゃないかなと思います。」

江戸時代の知られざる暮らしぶりや経済。そしてそれらを今の時代に取り入れていくうえで考えていくべき問いなどが、トークイベント全体を通して議論されました。現代における最適な経済のあり方、社会をより良い方向へ進めていくための指標の持ち方、持続するための姿勢や視点の持ち方など。思考を進めるための問いや視点がちりばめられた時間でした。

べしゃりば ー ぐるりキッズ プレゼンテーション

べしゃりば最後のコンテンツは、「江戸時代をヒントに、住みたい未来を考えよう」をテーマに、小学3-6年生が江戸時代の暮らしを学び、そこからヒントを得て考えた未来の街や暮らしをプレゼンテーションするというものでした。

前回の「日本橋ぐるり展2020」が終了した後、引き続きサステナビリティというテーマを考えていくにあたって、子供たちの教育はとても大事。何か教育に関する取り組みが出来ないかという議題が推進委員会の間で交わされたことを皮切りに、2021年からスタートした取り組みです。

様々な発表があるなかで、ひときわ際立っていたのは「レモンどうぶつかけいかく」というタイトルのプレゼンテーション。環境問題を解決すべく、レモンを動物化するという計画。海でも砂漠でも成長するレモン動物は、二酸化炭素など地球に悪いものをエサにします。

ぐるりキッズ

成田(悠輔):「シェアとか循環とかをイメージすると、どうしてもどこかワクワクしないところもあると思うんです。そういう意味でいうと、僕たちが24時間体制で付き合ってもいいと思うようなキャラクターとかパートナーが必要なのかもなと思って、レモン動物はすごく有望だなと思いました。」

イベント後、モデレーターであった成田冠さんにお話を伺ったところ、レモン動物の案は実はワークショップ時には捨て案だったそうです。考えはしたけれど、これじゃ発表できないかな、もう少しまともな案が必要かなと別のアイデアを考えて、このアイデアはテーブルの端によけられていました。

「全体を通しても、現実的で枠の中からはみ出ないアイデアも多く、もっと自由でいいんだよ」と伝えたくなったと成田さんは話していました。

「困っている人を助けたいってテーマだけ書いているけど、具体的なアイデアが出てこない子なんかもいて。でも、それもすごくいいなと思いました。アイデアがでないから発表できないと本人は言っていたのですが、そうじゃないよ、この志を持った時点ですごいよ!と。もっと子供たちのアイデアが出てくる世の中になると、社会は変わるんじゃないかなと思います。」

総括と来年の展望

日本橋からサステナビリティについて考案・発信していく目的で行われた日本橋ぐるり展。全体を振り返ってみての感想と来年度の展望を成田冠さんに伺いました。

「真のサステナビリティをモンタージュするというテーマであった2021年の日本橋ぐるり展。モンタージュなので正解はありませんが、僕自身はぐるりの活動を通しながら何が真のサステナビリティだと感じたかというと、そっちのほうが気持ちいい・楽しいよねとか、そっちの暮らしの方が自分に嘘をついてない気がする、と感じられることだと思いました。最初にも言いましたが、社会がこう言っているからやるではなく、自分がどう考え感じるか。やはりそれが大事だと思うので、引き続き、サステナビリティとは何なのかを、みんなで考えていくことが大切なのではないかなと思います。」

成田冠さん

(撮影:岡村大輔)

「2022年は、具体的にアクションにしていきたいなと考えています。例えば、日本橋エリアの企業を巻き込んで、井戸端会議をやりたいなと思ってます。それこそ日本橋の井戸端のような、役職の上下何かも関係なくフランクに集まれる場所を作って、そこで生まれたアイデアを具現化していくような取り組みをしていきたいです。」

どこか他人事のような空気を纏いながら日本のなかで形骸化するSDGsという言葉を横目に。本質がどこにあるのかを見つめ、異分子も含め様々な視点が入る余白をもうけた状態で、対話や議論を進めた日本橋ぐるり展。

日本の正反対にある国の人々に思いを馳せるのが難しいように、対象との間に距離を感じると、その物事は他人事になります。サステナビリティという、耳慣れてはきたけれど、口慣れず少し遠いところにあるような言葉を少し小脇に置いて「ぐるり」と唱えてみる。そんな小さなことから少しずつ距離が縮まって、サステナブルというものの本質が見えてくるのかもしれません。

「ぐるり」を合言葉に、日本橋という場所から、日本らしい、日本橋らしい、一人一人と距離の近い、本質的な取り組みが、今後も行われていくのが楽しみです。

【参照サイト】日本橋ぐるり展

※本記事は、日本橋で活動するチャレンジャーたちの思いやヴィジョンを発信し、街に新たなつながりを育むメディア「Bridgine」にIDEAS FOR GOOD編集部が寄稿した記事の転載となります。

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