人の体が木を育てる。スペインの「100%土に還る」墓地

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環境問題への意識の増加に伴い、その重要性が少しずつ認知されるようになってきた生物多様性。WWFが発行する『Living Planet Report:生きている地球レポート(2020年9月版)』によると、生物多様性の傾向を測る指標「生きている地球指数 (LPI)」は、1970~2016年の間に、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類の個体群で平均して68%低下している。

バルセロナのコルセロラ自然公園内に併設された「ロケス・ブランクス・メトロポリタン墓地」は、そうした自然環境の保護・生物多様性の回復に早期から取り組み、ヨーロッパ内で高く評価されている施設の一つだ。1981年の設立以来、40年以上にわたって環境に配慮した活動を続けてきた同施設は、新たに「死と生を循環させる」壮大なプロジェクトを始めた。

それは、亡くなったあとに骨壺に入れてこの墓地に埋めると、堆肥化されて新しい木を育てる助けになるというプロジェクトだ。

このプロジェクトでは、「ライブメッシュ」と呼ばれる技術をベースに、生分解可能な骨壺を用いたサステナブルな墓地がつくられている。ライブメッシュとは、ビーバーが丸太や枝などを組み合わせた生分解性の高い住処を作るところから着想を得た技術。プロジェクト内では、成長を終えた栗の幹から作られた枠内に骨壺を入れ、さらにそこに成長を続ける低木を植える形で再現されている。

肥沃な土壌を生み出す幹と栄養を取り込む根の作用によって少しずつ骨壺が分解され、最終的に完全に土に還る。この墓地は、現在8,600平方メートルの広大な敷地内に1,500基用意されている。

木々は、水やりや追肥など、人の管理を必要とせずに育ち、約30年間かけて自然公園内の森林の一部に還る。そのため、この墓地はあくまでも有限的なものとなっており、植えられる木々は敷地内に古くから根付く在来種を選んでいるそうだ。

また、プロジェクトの一環として、同じ敷地内には「バタフライ・ガーデン」と名付けられた区画が作られている。植物の受粉を促す蝶をはじめとした花粉媒介昆虫は、生物多様性の回復という点で重要な存在となる。一方で、昆虫の生息に適した色鮮やかで香りの良い草木は、従来の墓地のイメージを覆すようなカラフルで明るい雰囲気作りにも貢献している。

このプロジェクトは「ゆりかごからゆりかごまで」をコンセプトとしており、「地球から得た資源を地球に還す」完全循環型のデザインとなっている。死と生がシームレスに繋がるこの場所は、古くからの墓地が持つ「死者と生者が対面する場所」としての役割にも違和感なくマッチしている。

次の世代のためにできることは、最後の瞬間にまである──というアイデアは古くから考えられてきたものだ。それは、現代の技術と組み合わせることで、改めて検討する価値のあるものなってきているのかもしれない。

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【参照サイト】BIR
【参照サイト】Inhabitat – Green Design, Innovation, Architecture, Green Building | Green design & innovation for a better world
【参照サイト】Platform Architecture and Design – Where the end touches the beginning
【参照サイト】生きている地球レポート2020

Edited by Tomoko Ito

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