ボーダレス・ジャパン田口氏に聞く。「手数料0%」クラウドファンディングの狙いとは?

Browse By

「ソーシャルビジネスで世界を変える」をミッションに、日本、韓国、台湾、バングラデシュ、ミャンマー、ケニアなど世界15ヶ国で45の事業を展開するボーダレス・ジャパン。2020年に開始した再生可能エネルギー100%の電気販売事業「ハチドリ電力」に続き、2022年4月に開始するのが、手数料0%の寄付型クラウドファンディング事業「レスキュー」だ。

「レスキュー」は、困っている人を助けたい、動物を救いたい、気候変動を解決したい、といったソーシャルグットな案件のみに絞ったクラウドファンディングだ。プロジェクト実行者の手数料負担が「0%」で、誰もが簡単にプロジェクトを立ち上げられるのが最大の特徴だ。募集方式はAll-in方式のみで、目標金額を達成しなかった場合でも、期間内に集まった支援金はすべて実行者のもとに届けられる。

なぜ今回、ボーダレス・ジャパンはクラウドファンディング事業を始めることにしたのか。そして、なぜ手数料0%にこだわるのか。ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さんにお話を伺った。

ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さん

ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さん

個人が、自分の気づきをアクションに変えられる仕組みをつくりたい

これまで田口さんは、ボーダレス・ジャパンの事業全体を通して、社会起業家を育てることに注力してきた。またハチドリ電力では、毎月の電気料金の1%を支援団体に寄付するという仕組みにすることで、日本の寄付文化を育てることを目指している。

Q. 今回の「レスキュー」も、社会起業家を育てたい、寄付文化を育てたい、という思いから生まれてきたものなのでしょうか?

「誰かすごい人だけが社会を変えるのではなく、皆が関わる形にしていきたい」というのが、僕の一貫したテーマです。パワーのある起業家が社会を変えていくのも一つの形ですが、きめ細やかで、マイノリティが取り残されない社会を作っていくためには、実践者が多いほうがいい。小さくてもプレイヤーが多い状態を目指したいのです。

クラウドファンディングは身近になってきましたが、実践している人はあまり多くはありません。従来のクラウドファンディングは、準備も大変ですし、大きな予算を掲げて1~2か月をかけて必死で目標額を集める必要がありました。手数料も高いため、プロジェクトも自ずとその手数料を払ってでも成り立つものに絞られます。そのため、ある程度の規模の大きい団体やNPOが、大きなプロジェクトの資金集めに使うというケースが多いのです。

でも、僕はクラウドファンディングの本当の価値は個人が自分のまわりで困っている人に気づいたときにアクションを起こせることにあると思っています。例えば、コロナ禍で知り合いの飲食店がつぶれそうになっているとき、その家族に当面の仕事が見つかるまでの生活費の数十万円を自分が代わりに集めることだったり。大きな団体のプロジェクトだけではなく、個人が自分の気づきとしてアクションを起こせるようなものになってほしいという思いがありました。

もう一つ、友人の団体がコロナ禍で困っている山小屋を支援するためにクラウドファンディングで6000万円近くを集めたのですが、その際に1000万円近い手数料を請求されたという話を聞いたんです。友人は、その手数料を皆の善意のお金から引いてしまうことがどうしても納得できず、団体で手数料分の金額を立て替えました。この話を聞いて、誰かを助けようとする案件に関しては、手数料を限りなく低くすべきだと思いました。

クラファンは、「見えない課題」をあぶりだすジャーナリズムになる

Image via Shutterstock

手数料が0円だからいいよね、という話ではありません。実現したいのは、もっと多くの人に実践者として関わってもらうこと。そして、それによって本当に社会で起こっていることをあぶり出し、ジャーナリズムの役割を果たすことです。

例えば、家庭内暴力から子供を救うシェルターホームのためのクラウドファンディングがあります。そういう問題があるというところまでは世の中に伝わっていると思います。でも、そのプロジェクトを行う支援団体に、お金がないから野球部に入れないという高校生が相談に来たときに、彼が野球部に入って活動を続けるための年間10~20万円の費用を、団体費からは支援できません。

でも、子供たちが実際に置かれている貧困のリアルな状況は、こういうところにあります。レスキューのクラウドファンディングだったら、彼が野球部で活動するためのプロジェクトを立ち上げられる。そうすると、「シェルターホームを作るためのプロジェクト」では見えてこなかった、個人に起こっている事象がたくさん見えてきます。そのように、クラウドファンディングだからあぶり出せるリアルがあると期待しています。

クラウドファンディングというものをもっと身近で手軽なものにして、最終的にはスマホ一個で簡単に立ち上げられるものにしたいと考えています。

Q. 既存のクラウドファンディングに大きな課題を感じたというよりは、既存のクラウドファンディングで担えていない部分を担っていきたいということでしょうか?

そうですね。大きなプロジェクトはしっかり予算を取ってやればいいと思うんです。でも、手数料が高くてクラウドファンディングをできない人が実際にいるので、僕たちはそういう人たちに目を向けて、今まででやらなかった人たちがどうやったらできるようになるのかを追求したいと思っています。

実際に、1月に初回のプレスリリースを出したところ、プロジェクトを立ち上げたいというご相談を約90件いただきました。反響が大きくて驚いています。クラウドファンディングは手数料が高いから実践できないと思っている人がたくさんいることが分かり、それは一つの意義があったなと思っています。

ゆくゆくは学校との連携もやっていきたいですね。日本の若者は、「自分には社会を変えられない」と思っている人がすごく多いのですが、学校の授業の中で、学生たちが身のまわりにある課題を見つけて、小さなクラウドファンディングを立ち上げて実行していく経験ができたら、とても大きな経験になると思うんです。

助けられた人が次は助ける側に回る「恩送り」を生み出したい

Q. 実際に集まったお金がどのように使われるかが支援者としては気になるところになると思いますが、使い道を知らせるような仕組みは何かありますか?

正しく使われたかのチェックというよりも、クラウドファンディングの結果がわかり、社会にとって意味のあるお金の使い方ができたという納得感が得られる状態にしていきたいと考えています。

そこで、寄付する人とプロジェクト実行者との「LINEオープンチャット」を開設することにしました。オープンチャットで進捗を共有し、ライトかつ親密に双方向のやりとりをしてもらうことで、その後に続くつながりが作れるのではないかと考えています。

Q. 手数料0%で、ビジネスとしては成立するのかが気になります。

決済手数料5%と運営手数料は、寄付する人に負担してもらうという形にしています。私たちが運営していくための費用は、支援者1人につき150円(税込165円)だけ運営手数料として負担していただきます。3,000円の寄付をしようと思ったら、決済手数料5%としての150円(税込165円)と運営手数料150円(税込165円)を含めて3,330円を払うことで、3,000円全額がプロジェクト実行者にいきます。

寄付1件あたり150円の運営手数料の中で、人件費やシステム開発費などの費用を全部まかなわなくてはいけないので、儲かるかと言ったら明らかに利益率が低い事業です。

そのかわり、困っている人を助けたい、動物を救いたい、気候変動を解決したいといった案件に絞ります。そういったレスキューの案件に関しては、利益率が低くてもいいんじゃないかなと思っているんです。でも、事業としてはきちんと成り立つように、けじめとして赤字ではないところまで持っていくようにしていきます。

Q. 「レスキュー」の特徴の一つとして、無料の拡散支援を行う「レスキュー隊」があります。「レスキュー隊」はどんな人たちなのでしょうか?

誰かを「助けたい」「守りたい」という想いに賛同した有志メンバーがレスキュー隊となり、SNSによる拡散でプロジェクトを応援します。

これまでのクラウドファンディングは、集客はあくまで自分で頑張る必要がありました。そのため、「自分はSNSでの影響力がないからお金を集められない」と思っている人が、たくさんいることがわかったんです。そこで、SNSを普段活用していなくても、集客は皆でやるから大丈夫、という形にしたいと思いました。

ボーダレスグループには「RICE PEOPLE」という社会を変えるエシカルインフルエンサーの事業があります。いい取り組みを広めることをお手伝いしたい人ってとても多いんです。そこから着想を得て、レスキュー隊の仕組みを作ることにしました。レスキュー隊の側から見ると、お金を出すのではない形で協力し続けることができます。クラウドファンディングのプロジェクトに興味があっても、お金を出し続けるのは簡単なことではないので、違う形で協力し続けられる仕組みが必要です。

僕らが期待しているのは、レスキュー隊に応援してもらってお金を集めたプロジェクト実行者が、今度はレスキュー隊になって、自分と同じようにプロジェクトをやろうとしている人に、拡散という形で協力していく。そういう「恩送り」を生み出せたらいいなと思っています。

誰一人取り残さない社会に必要なのは、小さな支援の数を増やすこと

Image via Shutterstock

Q. どんな人に寄付に参加してもらいたいでしょうか?

クラウドファンディングの支援の平均額は1件あたり1万円程度ですが、これには高額の支援も入っていますから、実際には5,000円程度が多いと考えています。でも、5,000円はなかなか何回も出せる金額ではないですよね。ましてや見知らぬ人に出すのは難しい。でも、その金額を下げることで、皆がもっと気軽に寄付できるんじゃないでしょうか。見知らぬ人でも、素敵なことをやっているから支援しよう、と思える形を実現したいです。

寄付額の最低金額はプロジェクト実行者が決めるので、500円にすることもできます。

Q. ワンコインで支援できるというのは、手軽感が増しますね。

200万円集めるのに1人500円だと無理かもしれませんが、15万円集めるんだったらできます。300人から500円ずつ集めた15万円って、とても価値がありますよね。

寄付の単価が下がることで、結果的に寄付をする側が大きく変わるかもしれません。500円だったら高校生も支援者側として参加できるかもしれないし、子供に毎月1,000円渡して「支援するプロジェクトを2つ選んで寄付してね」という教育的な活用もできるかもしれない。

1人が支援者として関われる案件の数が増やせる、さらに、1つの案件に関わる人を増やせるというのは、とても大きな価値があると思っています。

Q. レスキューによって、どんな世の中を実現していきたいのでしょうか?

皆が知っているようで知らなかった具体的な困り事が見える化されて、そこに皆が関われるような形を作れたらいいなと思います。ハチドリ電力が、電気を通して支援先のことを知ってもらう最初のきっかけになったように、今回も「レスキュー」を通してこんなことが世の中で起こっているんだということを知ってもらうきっかけにできたらと考えています。

今よく話題に上がるSDGsには、「誰一人取り残さない社会をつくる」というメッセージがあります。「誰一人取り残さない」というのは、これまでどの時代でもどの社会でも実現できていないことですから、これができたら、人類として本当に大きな発展になります。今の世の中が求めていることってそういうことだと思うんです。

現代社会では大きな問題は解決されつつあっても、マイノリティという言葉があるように、陰で人知れず苦しんでいる人がいます。大きな行政やビジネスの仕組みでは効率が悪いため、対処できないことがとても多くあります。

そこで大切なのが市民参加です。課題に気づいた人が声をかけて、「ここに困っている人がいます」という旗を立てる。旗を立てることは素晴らしい仕事なので、旗を立てた人を皆で応援する。「よく見つけた」といって、皆で支援する。そういうことができたらいいなと思うんです。

現代の複雑な社会の中で、課題はあっても、放置されないというのが一番大切です。誰も放置されない社会を作っていきたい。「レスキュー」はそういう意味で、ジャーナリズムに寄与できるものにしていきたいと思っています。

編集後記

「レスキュー」は、手数料0%のインパクトが大きく、既存のクラウドファンディングサービスへの挑戦と受け止められることもあるかもしれない。しかし、今回お話を伺って、「レスキュー」が目指しているのは手数料への問題提起といったものではまったくなく、誰もが身のまわりで気づいた課題に対してアクションを起こせる社会であるということが分かった。

ボーダレス・ジャパンはこれまで、たくさんの社会起業家を世に送り出してきた。そこで、もっと多くの人にソーシャルビジネスに携わってほしいということを訴えてきた。それでも多くの人にとっては、見つけた課題に対して社会起業という形で立ち上がるのはハードルの高いことだった。

しかし、今回のクラウドファンディング事業は違う。本当に自分の等身大で、身のまわりで見つけた課題に対して、クラウドファンディングという形で行動を起こすことができる。これだったらどんな人でも、それこそ高校生や子供でも、課題意識をアクションにつなげることができるのではないだろうか。そして、支援者という立場であれば、本当に少額から関わることができる。それによって、一気にクラウドファンディングの裾野が広がることが期待される。

「レスキュー」によって実現される、誰もが実践者になれる社会は、希望に満ちている。


【参照サイト】レスキュー
【参照サイト】株式会社ボーダレス・ジャパン
【関連記事】ボーダレス・ジャパン代表 田口一成氏インタビュー。その社会課題解決力の根底にあるもの
【関連記事】ボーダレス・ジャパン田口氏に聞く。毎日の電気代で社会貢献できる「ハチドリ電力」のねらいとは

FacebookTwitter