社会から孤立した人々の代弁者。メタバースに登場した、ホームレスのキャラクター

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「インターネットの未来」として期待をされるメタバース。インターネット上にある、人数参加型の仮想空間(バーチャル空間)のことだ。米調査会社ガートナーによると、2026年までに世界人口の25%が仕事や授業、ショッピングや娯楽のために1日に1時間以上をメタバース内で過ごすことが予想されており、IT関連企業のメタバース事業への巨額の投資が加速している(※1)

また、新型コロナウイルスの流行により、対面でのコミュニケーションや、大規模なイベントに制限がかかる中、人々をつなげる新たな手段として、メタバースの需要はさらに高まっていると言えるだろう。

その一方で、仮想世界で自分自身にとって都合の良い空間を作り出し、現実世界で起こっている問題に目を背けることにつながっていないだろうか。私たちはバーチャルな世界の中で、自身と共通点を持つ人々と密接なつながりを持ちながら、リアルな世界では他者との交わりに一線を引き、孤立することを好む傾向がある。これが現在のパラドックスだ。

そのような「仮想世界への投資をする前に、まずは現実世界でのつながりや助け合いを優先するべきでは?」という疑問から、フランスの15万人の市民からなる非営利団体のEntourageと広告代理店のTBWA\PARISは、メタバース内に初めてホームレス状態にある登場人物、ウィルを誕生させた。

現在フランスでは、30万人が家のない生活を送っており、社会とのつながりを見出せずにいるという。Entourageの調査によると、このうち85%の人々が通行人から拒絶されているように感じていると答え、反対に彼らに声を掛けると答えたフランス人はわずか26%だった。

「自由・平等・博愛」を国是として掲げているフランス。Entourageの創設者であるJean-Marc Potdevin氏は、「彼らは目に見えず、孤独で、ただ無視されているのです。彼らとの真の交わりを生きることで、私たち自身の尊厳を取り戻そうではありませんか」THE Stableに対して語っている。

ウィルは、現在あるいはかつてホームレスだった人々とのクロスインタビューや、SNS上の投稿を通じて、漫画的ではなく、できるだけ忠実に彼らの実情を表現できるよう制作された。彼はテレビ広告やリアルタイムのイベントに登場し、社会から孤立した人々の代弁者として、仮想世界の中にいる人々にも現実の問題を想起させる役割を担っている。

また、キャンペーンフィルムでは、家がある人とない人をつなぐEntourageのアプリを宣伝し、支援を呼びかける。ウィルをとおして、普段直視してこなかった問題を知ることは、彼らの現状を「他人ごと」ではなく「自分ごと」として捉えるきっかけになるだろう。

メタバースの広がりが、現実世界で苦しむ人々と社会とのつながりを遮断してしまわぬよう、今後もさらなるアイデアを考えていく必要がある。

※1 Gartner Predicts 25% of People Will Spend At Least One Hour Per Day in the Metaverse by 2026
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【参考サイト】THE ‘FIRST HOMELESS PERSON IN THE METAVERSE’ HIGHLIGHTS OUR REAL-WORLD PROBLEMS

Edited by Erika Tomiyama

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