NFTでアフリカの街づくりに貢献。日本発、国境なきデジタル支援プラットフォーム

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デジタルアートを中心に、音楽やファッションなど、様々な分野での活用が進められている「NFT」。NFTには、作品それぞれを区別できる情報が含まれており、その作品が世界に一つしかないことを証明できる。ブロックチェーン技術の活用によって、デジタルコンテンツにおける所有権の所在を明らかにすることが可能になり、それにより、デジタル資産の価値が生まれることとなった。

こうした反面、NFTの基盤となる暗号資産・ブロックチェーン技術には、少なからずネガティブな印象もつきまとう。新型コロナウイルス給付金がビットコイン取引を増加させたことや、ゲームを遊んで稼ぐ「Play to Earn」の誕生が暗号資産マーケットのマネーゲームを加速させているとの指摘があるほか、ウクライナ侵攻を進めるロシアが経済制裁を回避する手段として、暗号資産を活用するのではないかとの懸念まである。

そんな、多様な用途で使われるNFTや暗号資産、ブロックチェーンを「もっと社会に役立つお金の流れをつくるために活用できないだろうか……?」と考え、業界の「新たな可能性」を切り開いたのが、株式会社「奇兵隊」だ。

主に、「Airfunding」という新興国の人向けのクラウドファンディングサービスを提供する奇兵隊が新たに立ち上げたのは、NFTを活用した「オープンタウンプロジェクト」。デジタルアートとしてコレクティブNFT(※1)を全世界に向けて販売し、その売り上げをもとに、NFTの購入者と支援する地域の市民団体が協力してまちづくりを推進する取り組みだ。NFTの購入者は、オンライン上のコミュニティでアイデア出しや議論に参加することで、遠く離れた国や地域に住む人々の暮らしをより良くすることに貢献できるという。

「暗号資産の世界に還流している資金を、リアルな世界で、もっと人類にとって良いインパクトを起こすために使うことができれば……」

そんな想いから、オープンタウンプロジェクトを立ち上げた奇兵隊代表の阿部遼介さんに、立ち上げのきっかけからAirfunding、オープンタウンプロジェクト、そしてロシア・ウクライナ支援プロジェクトまで、奇兵隊の幅広い取り組みについてお話を伺った。

※1 コミュニティの形成、収集性の高い、数に限りがあるといった性質を持つNFTのこと

阿部 遼介さん話者プロフィール:阿部 遼介(あべ・りょうすけ)
1982年生まれ。2007年国際基督教大学卒業後、アクセンチュア株式会社入社。アクセンチュアでは3年間にわたり、金融機関、官公庁、化学メーカー、新聞社などの顧客に対して、新規事業立ち上げ支援、業務改革、BPO 立ち上げ支援など複数のプロジェクトに従事。2011 年株式会社奇兵隊の代表取締役に就任。奇兵隊の代表取締役として、会社全体の事業戦略の策定、資金調達、採用及びサービスのマーケティング全般を管掌。奇兵隊の従業員の出身国は10カ国以上にもわたり、多国籍メンバーで構成されたチームを率いる。

「国境を超えて交信し合える世界を作りたい」という想いから

世界中の境界をなくし、不可能を可能にすることをウェブサービスで実現することを目指す奇兵隊。これまで、少額のお金で人生をハッピーに変えるための寄付型クラウドファンディング「Airfunding」、世界200ヶ国1,000万人に利用されているグローバルコミュニティサービスの「Airtripp」など、国境・文化・言語・距離の壁を越え、人々の可能性を拡げるサービスを提供してきた。

そんな奇兵隊のメンバーは、日本のほか東南アジア、ラテンアメリカ、東欧の3つのエリアを中心に世界11ヵ国にまたがり、世界をより良いものへとアップデートするため、皆で日々活動している。

Q. 奇兵隊を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

大学卒業後に入ったコンサルティング会社での経験がきっかけとなりました。日本には、外貨を獲得できる企業や産業はありますが、日本のインターネットサービスのほとんどが、世界で使われていない。会社員時代に、ふとそんなことに気付いたんです。そのとき、「日本から海外向けのサービスや事業を作りたい」と思いました。

もう一つ、世界には国境がありますが、本やインターネットには国境を飛び越える力があると考えています。知らない土地を訪れたり、コミュニケーションツールを使って遠くにいる人たちと繋がったり……。「国境越えて交信し合えるような世界を作りたい」そんな想いから、奇兵隊を立ち上げました。

社会保険の代わりになれば……身近な人に広がるクラウドファンディング

Q. 中心的な事業として5年前から行っている「Airfunding」について教えてください。

Airfundingは、高い知名度を持たない新興国の一般の人が、支援を集められる寄付型のクラウドファンディングサービスです。これまでに約40万件以上のプロジェクトが立ち上げられていて、2022年3月には約2万件の支援プロジェクトが立ち上がりました。

特徴は、社会、医療、教育関連のプロジェクトが多いこと、支援者の多くが立ち上げ人の知り合いであること、そして拡散力があること。具体的には、たとえば交通事故に遭って入院したとき、友人や職場の同僚などがお見舞い金を渡す、というのがWeb上で行われるイメージです。過去には、医療費が必要な高校時代の同級生に対して、違う国で働いている人が一気に500ドルを支援したり、数年に一度しか会わない親戚が入学祝をプレゼントしたりといったプロジェクトがありました。

リアルなコミュニケーションとは違い、立ち上げた方が現地のウェブサイトやSNSなどを通してシェアし、またそれを誰かがシェアして……という形で、繋がりの薄い知り合いにまで広がっていきます。インターネット上で行われるやり取りだからこそ、どんどんと拡散されて支援者が増えていくんですよね。また、WhatsAppなどの個人チャットで、友達に「ちょっとこういうプロジェクトを立ち上げたからよかったら支援して」といったメッセージを送ることで支援を募る人も多いです。

Airfunding

Airfundingのプロジェクト例

また、クラウドファンディングの立ち上げが簡単だというのも特徴で、5分程度で簡単にプロジェクトページを作成できます。パソコンを持っていない人もスマートフォンさえあれば使える設計になっています。

Q. Airfundingは、どのような方に利用されているのでしょうか?

利用する人の多くが、いわゆる「新興国」と呼ばれている国の人です。東南アジアのフィリピンやインドネシア、マレーシア。ラテンアメリカのメキシコ、コロンビア、アルゼンチン。今は使えなくなっていますが、ロシアやウクライナでもよく使われていました。

また、立ち上げる人の多くが中流階級の人。具体的な人物像としては、子どもが2人いて、どちらも大学に行かせることができ、かつ毎年国内旅行に行けるような人です。そうした人たちがなぜ、お金を集めるかというと、背景には各国の社会保険の脆弱さがあります。上記で挙げたような国では、たとえ生活に困っていなくても、一度病気になると急に年収の半分が吹き飛んでしまうという状況があります。日本では考えられないかもしれませんが、世界にはそうした国がまだ多く存在しているんです。

たとえば、フィリピンは一人当たりのGDPが3,000ドルに届かないくらいですが、病気になると、医療費は簡単に1,000ドルを越えることがあります。つまり、年収の3分の1くらいが医療費のために必要になり、そのお金を賄うため、クラウドファンディングを立ち上げる人が多いです。そうした背景から、Airfundingは、「健康保険の代替」になることを意識していて、確実に困ってる人にお金を届けるために運営しています。

長年、今挙げたような国々を中心として、Airfundingは使われていましたが、一昨年ぐらいからアフリカのベナンやモーリシャスなど、より貧しい国々でも使われ始めています。こうした貧困国では、個人の医療費を募るだけではなく、貧困問題解決のための雇用創出プロジェクト、社会貢献的なプロジェクトも作られています。たとえば、子どもにクリスマスプレゼントをあげたいという個人や企業の想いから生まれたプロジェクトもありましたね。

NFTを購入してまちづくりに参画できるオープンタウンプロジェクト

そんなAirfundingに加え、奇兵隊は2022年1月、NFTを活用してまちづくりに参画できる「オープンタウンプロジェクト」を立ち上げた。コレクティブNFTと呼ばれるデジタルアートの売り上げをもとに、ウガンダの現地住民とデジタルアートの購入者が、一緒にウガンダのカルング村でまちを作っていくというもの。NFTという資産を通して、遠くに居ながら世界のどこかの街づくりにかかわれる。そんな、寄付とは違った「インタラクティブな」支援プロジェクトだという。

Q.「オープンタウンプロジェクト」の仕組みについて教えてください。

今回プロジェクトが行われているのは、ウガンダのカルング村という場所。この地域には、清潔な水の入手が困難、貧しくて子どもたちの多くが学校に通えない、医療サービスへのアクセスが困難といった課題があります。これらにアプローチすべく、現地のNPO団体「Faith Angels Ministry」が、村を良くするために3つのアイデアを考えました。

奇兵隊オープンタウンプロジェクト

ウガンダで行われているオープンタウンプロジェクト。現地の人々が貯水タンクを作っている様子

一つ目が、コミュニティ内で清潔な水を供給するための貯水タンクの設置。2つ目が、コミュニティ内の交通の利便性向上のためのバスの購入。そして最後が、村落貯蓄貸付組合(VSLA)を通して貯金文化をコミュニティに根付かせるための銀行システムを開発するというアイデアでした。

NFTの購入者は、これら3つの案から賛同するアイデアを一つ選び、投票することができます。選ばれたプロジェクトは、Faith Angels Ministryや村の人たちによって進められていきます。初回の投票では貯水タンクづくりのアイデアが選ばれ、今まさに作られているところです。

投票できるのは、コレクティブNFTの購入者だけですが、購入しなくても街づくりに参画してみたい人は誰でも、Discordというボイスチャットツールのチャンネルに参加することができます。そこには、世界中の人たちが集い、日々チャットコミュニケーションが行われていて、参加するメンバーは誰でも、プロジェクトに関するアイデアや意見を言うことができます。

奇兵隊オープンタウンプロジェクト

Discordを利用したコミュニケーション

NFTやブロックチェーンの技術とリアルなまちを繋ぐプロジェクトは、世界的にもとても珍しく、多くの方に関心を持っていただいています。基本的に皆さん匿名で参加されるので詳しくは分かりませんが、英語が分からない海外の方もいて、世界中の様々な国の方たちが参加してくださっていると思います。逆にその匿名性が面白いというか、フラットで多様なコミュニケーションにつながっていると感じますね。

今後はNFTの保有者だけでなく、途上国などの開発プロジェクトに携わってきた人を仲間に入れて、アドバイスもらいながらやっていきたいという話も出ています。また、貯水タンクづくりの様子を支援者が見られるように現地にライブカメラを設置したい、といった声も参加者の中から上がっています。私たちが何か言い始めるのではなく、コミュニティ内で様々な提案があって、実際に動き出していることもあるんです。

奇兵隊オープンタウンプロジェクト

最近では、NFT購入で貯水タンクに支援した参加者の名前が彫られて飾られているそう

Q. オープンタウンプロジェクトを立ち上げたきっかけは何だったのしょうか。

これまで、Airfundingなどのクラウドファンディングを通じて新興国向けの寄付を募るサービスを提供しながらも、より社会にインパクトを与えられる支援の方法を模索していました。そのなかで、暗号資産やNFTの存在を知り、その市場規模と将来性に可能性を感じ、今回のオープンタウンプロジェクトを立ち上げました。

奇兵隊 オープンタウンプロジェクト

オープンタウンプロジェクトで購入できるデジタルアート

その背景には、創業以来意識してきた「海外で使われるサービス事業を作ること」「新しい領域、テクノロジーにチャレンジすること」という思想もありました。国際協力の分野で、暗号資産、ブロックチェーン、NFTといったクリプト領域を通して新しいお金の流れを作れないかと考えていたんです。

まだ試験段階ですが、この仕組みを成功させ、他の多くの国や地域でも同様の取り組みを実現し、新たなお金の流れの形として根付いていければ嬉しいですね。国際機関による支援では手の届かない、ミクロな部分を素早く補完できる可能性を持った取り組みだと感じているので。

ウクライナにルーツを持つロシア人メンバーの想いから始まったプロジェクト

テクノロジーの力で、リアルな世界をより良くしていく──そんな想いを胸に、次々と新たな事業に取り組む奇兵隊。現在は、ロシアの軍事侵攻によって被害を受けるウクライナを支援しようと、自社のプラットフォームを使ったプロジェクトも立ち上げている。

Q. ウクライナへの支援プロジェクトについて教えてください。

奇兵隊の公式プロジェクトとして、2つのクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げました。ウクライナのNGO団体と、ウクライナ東部からの難民を支援するロシア発のNGO団体、この2つを通じた救援資金プロジェクトです。さらに、ウクライナ住民がAirfunding上で立ち上げたクラウドファンディングプロジェクトの中から4つを選び、合計6つのプロジェクトに対してそれぞれ約30万円ずつの寄付を行いました。

この支援プロジェクトが始まったのは、社内の「ウクライナにルーツを持つロシア人」メンバーによる「やりたい」の一言がきっかけでした。話を聴くと、ロシア国内にはウクライナ支援の声を上げるのも憚られる社会情勢があるなど、ロシアはロシアで大変な状況があると言います。ロシア側の住民自体にもこの戦争に反対している人がいること、彼らには罪がないことも伝えたい。そんな想いから立ち上がったプロジェクトですね。

Airfunding

Airfundingを通したウクライナ支援のクラウドファンド

2月末のロシアによる軍事侵攻からしばらく経った今、多くの団体が寄付を募っていて、寄付先を選ぶのも難しい状況があると思います。公平性や規模の大きさを優先するのであれば、ユニセフなどの国際機関に寄付するのが良いと思います。一方で、私たちはそういった大きな団体の手が届かないところにアプローチしたいと思っています。集まった寄付を確実に現地での支援に使ってくれるNGOをリスト化し、信頼性が高いか、寄付金が武器に使われないかなど一つ一つ丁寧に確認しました。

私たちにできるのは、現地の人に直接素早く、きめ細やかな支援を届けること。決して大きな額ではありませんが、できる支援を丁寧にやっていきたいです。また、状況が落ち着いて、支援が止まってしまった後のウクライナでの復興支援などにも注力していきたいと考えています。

寄付文化を広げ、異なる人たちを支援する「連帯の輪」を広げていく

Q. 最後に、今後阿部さんが挑戦したいことや目標を教えてください。

これからやりたいことは全部で3つあります。1つ目は、会社を立ち上げた動機とも重なるのですが、海外で使われるサービス事業を作ることと新しい領域やテクノロジー、今回でいうとブロックチェーンやWeb3といった分野に率先してチャレンジしていくことです。

また、最近は特にインターネットという文脈において、中央集権性が疑問視され、どんどんと個人が力を持つ流れになってきていると感じます。それに対して、私たちはクラウドファンディングやWeb3という分野で、全く知らない人同士のコミュニケーションやお金の流れを作っていきたいと思ってます。

2点目は、日本国内での認知度も徐々に上げて、日本から寄付文化を作っていくことです。日本では、たとえば地震などの災害発生時に多額の寄付金が集まることはありますが、その後1~2年経つと支援が激減してしまうことも少なくありません。寄付は、その国や地域の文化、国民性にも大きく左右されるもので、国ごとに寄付率は大きく異なります。なかでも、日本、韓国、中国のような東アジアの国々では寄付をする人が少なく、これらの地域で寄付率を伸ばしていく難しさを感じています。

最後に、ロシアとウクライナ、先進国と新興国、そして世界中で分断が叫ばれる今、身近な人や同じコミュニティ内に限らず、異なる境遇にいる人たちを支援し合うことが必要だと感じています。そんな分断をなくしていくため、少しずつ連帯の輪を広げていきたいと思っています。

宗教や民族など、国境を越えて助け合うことができる社会──それが、実現したい理想の社会です。

編集後記

「国境を越えて交信し合えるような世界を作りたい」

阿部さんのこの言葉から、ある言葉を思い出した。海外で難民支援のボランティアに携わったとき、一緒に活動していた人が言った「パスポートなんてなければいいのに」という言葉だ。

この言葉が発せられた背景は正直よく覚えていない。だが、国によってその効力が全く異なり、それがなければ国境を超えられないパスポートの存在は、不平等なものであり、時に人々にとっての“足かせ”にもなる。そう感じたことを覚えている。

使われた文脈は異なるだろう。しかし、この二つの言葉からは「もっと簡単に国境を越えられたら……」そんな心の声が聞こえてくる。国籍や人種、民族──そんな“目に見えない国境線”を取り除き、知らない誰かと手と手を取り合える。そんな未来に近づくためにできることは何だろう。

【参照サイト】奇兵隊
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