家庭や地域などの「生まれ」によって学力や学歴など教育の結果に差が出ることを「教育格差」とよぶ。世界でこの教育格差は、学業不振や退学を増加させ、人種差別や社会的分断を引き起こしている。そして、さらなる社会的格差や貧困を生みだす悪循環に陥る原因にもなっているのだ。
人種や民族、言語の違いなどがあるマイノリティが学ぶ環境は、富裕層と比較すると劣悪であることが多く、教育によって引き出されるはずの人間のポテンシャルが十分に発揮できない。これは社会全体にとっても大きなマイナスだ。
こうした課題の一つの要因になっているのが、「学校間格差」だといわれる。自分の周りにどんな同級生や友人がいるかといった「環境」は教育の成果に大きな影響をもたらすのである。
そんななか、フランス南西部のトゥールーズ市は学校間格差を断ち切る、思い切ったプロジェクトによって大きな成果を上げている。トゥールーズ市には、人口の90~95パーセントが移民で占められている貧困地域がある。そうした地域の学校(コレージュ、日本の中学校に相当)を段階的に閉鎖し、11歳から15歳の不利な立場にある子どもたちを、富裕層など有利な立場の子どもたちが通学する十数校の公立学校へ1時間弱の「バス通学」をさせたのである。
その結果は歴然としていた。貧困地区の子どもたちの50パーセントもの高さだった中退率は、6パーセントにまで減少。成績のスコアは平均すると15パーセント近く上昇した。有利な立場の子どもたちも転校することなく、ともに多様性のある学校で学び続けた。人種的隔離のような状況にあった学校に多様性を導入することで「全体の底上げ」をはかったのである。このような方法をフランスでは「La mixité sociale(ソーシャル・ミックス)」とよんでいる。
こうしたトゥールーズ市の成功を受けて、フランス国内の他の自治体でも、独自の「バス通学」を検討するなど、フランス国民教育省も教育のソーシャル・ミックスを進めている。
フランスでは人種間・民族間の分離が地域、学校レベルで進んでしまった歴史的背景がある。それゆえ、この事例を日本の学校間格差の問題に直接導入するのは性急すぎるかもしれない。
しかし、日本でも不登校、外国籍、障害など、多くの多様な背景を持った子どもたちが教育から「排除」されている事実がある。そのような子どもたちを排除するのではなく、より広く柔軟に受け入れ、多様性を確保することがその学校と社会の「強み」につながるのではないだろうか。そんな「ソーシャル・ミックス」な教育の未来を期待したい。
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【参照サイト】What Happened When France Sent Low-Income Kids to Wealthy Schools
【参照サイト】La mixité sociale dans les collèges
【参照サイト】「日本の教育格差」(視点・論点)
【参考文献】荒井文雄(2009)「フランス中等教育における学校間格差の歴史と現状」、『京都産業大学論集. 社会科学系列』第26巻、207-236頁。AHSUSK_SSS_26_207 (1).pdf
Edited by Erika Tomiyama