常識こそ疑え!?ヨーロッパ5ヶ国のサステナブル・クリスマス【欧州通信#10】

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今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「ヴィーガン」をテーマに、専門スーパーやパブをご紹介した。今回の欧州通信のテーマは「クリスマス」。クリスマスは街がイルミネーションで彩られ、家族・友人と集い、お祝いをする、一年で最も華やかなシーズンであるのと同時に、電力消費やごみの廃棄が最も多くなるイベントの一つでもあるという。寒さの厳しい冬を迎えるヨーロッパでいまどんな工夫がされているのか?5ヶ国の事情を覗いてみよう。

【オーストリア】クリスマスマーケットもだんだんとサステナブルに

この時期ウィーンの各地で開催されるクリスマスマーケットは、国内の一大行事であり、市民の大きな楽しみの一つだ。12月のウィーンの厳しい寒さにもかかわらず、皆それぞれお気に入りのマーケットへ繰り出す。

マーケットといえば、多くのフードスタンドが立ち並び、クリスマスデコレーションとライトアップが見どころの一つだ。一方で、スタンドで売られる飲みものや食べもののごみが大量に発生し、華やかなライティングにはエネルギーのコストもかかる。そのため、ウィーンのクリスマスマーケットでは、フードスタンドで提供される容器包装は最小限にとどめている。

Vienna

Photo by Yukari

固形の食べ物は小さな紙やナプキンで包むだけ、それが難しいものには、小さな紙皿(フードがはみ出ているが気にしない)と極小の木のフォーク(ほとんど役に立たないのでそのうち手掴みになる)が付く。そしてマーケットで欠かせないのが、「グリューヴァイン」と呼ばれるフルーツジュースやスパイスを入れて煮詰めたホット・ワイン。このワインを含む全ての飲み物がリユース可能なセラミックのマグカップで提供される。その際高額のデポジットが必要なので、たとえ酔っ払ってもカップは飲み物を購入したスタンドへきちんと返却。マグカップが欲しい人は、そのまま返却せずに持ち帰りも可能で、一部の旅行者や地元のコレクターに人気だ。

ライティングには100%LEDを使用。スタンドで販売される食品は30%以上オーガニックを使用することが義務付けられている。

【オランダ】すべての人が廃棄なく生のクリスマスツリーを楽しむためのレンタルサービス

毎年生のクリスマスツリーを飾る習慣のあるヨーロッパ。一方でクリスマスシーズンを楽しんだあとの1月になると、街角にもみの木の「ごみ山」ができ、心が痛む。生の木だというのに、大量に育てて切って捨てるというその工程はまるで「リニア」だ。

そんななか、オランダ・アムステルダムのkerstboom.nu(ケストブームドットエヌユー)は、木をコンポストするのではなく、同じ木を使い続けるための「生ツリーレンタルサービス」を提供する。

Photo by Kozue Nishizaki

クリスマスツリーを注文すると、アムステルダム郊外の林に植えてあった木をポットに入れて家まで届け、さらには家の中の設置希望の場所まで木を運び込んでくれる。宅配はもちろんクリーンエネルギーからなるEV車。そして1か月間クリスマスを楽しんだあとは1月上旬に回収に来てくれる。その後またもとの林に植え、来年のクリスマスシーズンに備えるという仕組みだ。

このサービスによって、木の大量廃棄を防ぐことができる上に、重たい木を自宅の二階に設置するのが難しい人も、気兼ねなくツリーを飾ることができる。すべての人が、廃棄なくツリーを楽しめるからこそ、暗い季節により暖かな光を運んでくれるはず。

【イギリス】新品のプレゼント、本当に必要?クリスマスの習慣を考え直す「12の手引き」

green christmas london

Image via London Recycles

ロンドン市とパートナーシップを組み、ロンドンのリサイクル事業を促進するLondon Recycles(ロンドン・リサイクルズ)では、「グリーンなクリスマスを過ごすための12の方法」を公開した。内容は以下の通りだ。

グリーンなクリスマスを過ごすための12の方法
  1. 手作りのプレゼントを贈ろう。それはお金を節約し、愛する人に何かを贈るのに最適な方法です。
  2. クリスマスツリーをレンタルしよう。
  3. 手作りに挑戦しよう。たとえば昨年のカードをギフトタグに変えてみよう。
  4. リサイクル素材で作られたアップサイクルギフトを贈ろう。
  5. 寄付をしよう。慈善団体は今年、これまで以上にあなたの力を必要としています。
  6. 中古に挑戦!チャリティーショップでお祝いの洋服を購入したり、家族や友人と服を交換したりしてみよう。
  7. ロンドンの地元のお店で買いものをしよう。
  8. あなたの「スキル」を贈ろう。若者にスキルを共有するプログラムに参加しよう。
  9. 包装紙をリサイクルしよう。
  10. クリスマスツリーをリサイクルしよう。
  11. 残ったクリスマスディナー(骨、ティーバッグ、果物や野菜の皮)はすべて、食品廃棄物収集でリサイクルに出そう。
  12. 家にある素敵なものは、他の人にあげるか、チャリティーショップに寄付しよう。

クリスマスは多くの人々に大切にされる行事であり、一年でもっとも素晴らしい季節であるのと同時に、もっとも消費や廃棄が増える季節でもあるという。そして今年は生活費の高騰も相まって、出費の厳しい季節となった。「飾る」ことや「贈る」ことについて、この手引きをもとにもう一度考えてみてはいかがだろう。

【フランス】クリスマスに、誰もが希望を感じられるように。ホームレスの人々へギフトを送れるプログラム

エネルギー危機で省エネが叫ばれている中でも、クリスマスのパリはイリミネーションやクリスマスマーケットで大いに盛り上がっている。その一方で、街にいる誰しもがこのクリスマスの雰囲気を楽しめているわけではない。クリスマスマーケットで盛り上がる人々の横で、座り込むホームレスの人々を多く見かけることも事実だ。ここでは、パリでそうした貧困層の人々に向けたプログラム「Solidarity Christmas Box Collection(ソリダリティ・クリスマス・ボックス・コレクション)」をご紹介する。

ホームレス支援団体「La Fabrique de la Solidarité(ラ・ファブリック・デ・ラ・ソリダリテ)」とパリ市とのパートナーシップにより実現した同プロジェクトは、誰でも簡単にホームレスの人々にクリスマスギフトを渡すことができる。用意するのは家にある空き箱。その中にクリスマスカードや、歯ブラシやシャワージェルなどの衛生用品、チョコレートなどのスイーツ、防寒具などを入れ、市内の回収場所に持っていくだけ。集まったクリスマスギフトは団体によって、不安定な状況にある人々や、ホームレスの人々、クリスマス期間中の緊急宿泊施設内の人々に配布される。

さらに同プロジェクトは、自分のビジネスや住んでいる場所の近くでも、市民が自由に回収場所を立ち上げることも可能だ。こうしたプロジェクトを利用して、クリスマスという日を、誰かに優しさを渡す機会として考えてみてもいいかもしれない。

【ドイツ】宗教の授業は小学校から。文化を学び継いでいく秘訣

ドイツをはじめとする欧州の文化において、キリスト教の影響は多大だ。たとえば、クリスマスなどドイツの国民の祝日のほとんどはキリスト教に関連している。ドイツ人の半分以上はキリスト教徒で、カトリック教徒が約28%、プロテスタント教徒が約26%となっている。

ドイツでは希望する生徒は、家族が信仰している・信仰していた・関心がある宗教の授業を小学生のときから学校で受けられる。授業は週に約2時間で、カトリックの授業とプロテスタントの授業に分かれており、イスラム教や仏教の授業を提供している州もある。5・6年生になると、カトリックの授業・プロテスタントの授業・世界における宗教の授業のうち、1つを選択し学ばなくてはならない。宗教の授業にも試験があり、成績がつけられる。

自分の暮らす国の背景となってきた宗教を学ぶことは、他の宗教や文化に触れ共存していくためにも大切だ。現在、さまざまなメディアなどを通して世界中の文化や習慣を知ることができるが、まずは自国の文化を勉強し考えを深め、次世代に継いでいくことが、人と文化の持続可能性を高めていくことに貢献するのではないだろうか。

編集後記

いかがだっただろうか。ヨーロッパの多くの国にとって重要な宗教行事であり、街全体が暖かな光に包まれるクリスマスだが、もちろん廃棄物問題、貧困問題、生活費高騰などの問題と無関係なわけではない。厳しい冬だからこそ、もう一度システム自体を考え直してみよう──そうした意識がクリスマスというイベント自体をこれからますますサステナブルにしていくのかもしれない。

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レポート概要

  • ページ数:105ページ
  • 言語:日本語
  • 著者:ハーチ欧州メンバー(IDEAS FOR GOOD・Circular Economy Hub編集部員)
  • 価格:44,000円(税込)
  • 紹介団体:36団体
  • 現地コラム:8本
  • レポート詳細:https://bdl.ideasforgood.jp/product/europe-ce-report-2022/
ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe

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Written by Yukari, Kozue Nishizaki, Megumi, Erika Tomiyama, Ryoko Kruger

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