快楽的なのにサステナブル?鳥と泊まれるツリーハウス「Biosphere」に学ぶ

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スウェーデンの北部ノールボッテン県の森の中には「Tree Hotel」と呼ばれる、”木の上”に泊まれるさまざまなデザインのホテルが並んでいる。北欧の建築家やランドスケープ・アーキテクトたちによって生み出されてきたものだ。

2022年5月、そんなTree Hotelの8つめとしてオープンしたのが、鳥の巣箱で覆われたホテル「Biosphere(生物圏)」だ。手掛けたのは、デンマークの建築スタジオBIGである。

Biosphere

Image via Treehotel

2019年、米国コーネル大学の鳥類学者であるケネス・ローゼンバーグ氏は、1970年と比較して北米の鳥たちが30億羽も減少しているという研究結果を発表した。割合にして、約29%もの鳥たちが約50年の間に姿を消してしまったのである。Biosphereは、そんな鳥たちの個体数減少に歯止めをかけることを目的に設計された、人と鳥が共生する未来を想わせる建築だ。

ホテルを覆う外側にあるのは全て鳥の巣箱で、その数は350個。スウェーデンの鳥類学者ウルフ・オーマン氏と行政の調査によれば、Biosphereのある村の森でも、巣となる木の穴が林業によって減少していることにより、鳥の数も減ってしまっていた。

Biosphere

Image via Treehotel

鳥の種類によって巣に求められる要件は異なり、全ての鳥が木に穴を開けて巣を作るわけではない。BIGは、Biosphereを設計するためにこの森の生態系を調べ、形や大きさの違う12種類の巣箱を設計したのだ。

傾斜地の低い場所に建つBiosphereには、地上から吊橋をわたって中に入る。壁だけでなく一部の床や天井もガラスで覆われ、巣箱へとやってくる鳥たちを間近に見ることができる。34平米の室内は、1階がリビングで2階は寝室。3重ガラスにすることで鳥たちの鳴き声が心地よい音量で聞こえ、ホテルとしての快適性も十分だ。

Biosphere

Image via Treehotel

インテリアには地域の有機素材が使われ、ダークな色調にまとめられているため、中にいても意識は自然と外へと向くように配慮されている。屋上にはテラスがあり、周囲の森を360度見渡すこともできる。

自然や鳥たちとの共生をBiosphereという建築を通して実現しようと試みたのは、デンマーク出身の建築家で、建築スタジオBIGの代表でもあるビャルケ・インゲルス氏だ。日本では、静岡県裾野市でトヨタ自動車が進めるプロジェクト「Woven City」で都市設計を担う。もともと漫画家を目指していたというユニークな経歴をもつ彼は、「ヘドニスティック・サステナビリティ(快楽主義的な持続可能性)」という概念を提唱したことでも知られている。

ヘドニスティック・サステナビリティとは、楽しみながら持続可能な社会を目指そうとする姿勢だ。気候変動に直面する私たちは、自身の生活を変えようとするあまり、何かを我慢したり、利便性を犠牲にする必要があると考えがちである。もちろん重要なことだが、サステナブルな生活も、続かなければ意味がない。

彼の遊び心あふれる建築デザインは、持続可能な社会は必ずしも、我慢や犠牲の上に成り立っていないことを私たちに教えてくれる。

生物多様性が失われていると聞いても、一人の人間に何ができるのか分からないという人も多いだろう。Biosphereに泊まることで、それまで意識してこなかった鳥たちの世界に目を向けるきっかけになる。ある人は、自宅に巣箱を設置するようになるかもしれない。鳥たちが自由に出入りし、子どもたちと触れ合う。朝、鳥たちの声で目を覚ます──そんな風景を少しでも多くの人が思い描ければ、人と鳥が共生する社会はそう遠くないはずだ。

【関連記事】トヨタがつくる最先端技術の実証都市「コネクティッド・シティ」静岡に建設へ
【参考サイト】TREEH|Bjarke Ingels Group
【参考サイト】Biosphere|Tree Hotel

Edited by Erika Tomiyama

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