食べて生物多様性を祝う。三重の「いきものクッキー」専門店

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近年、国内外で「生物多様性」が注目されている。環境省によると、人間活動による影響が要因で、地球上の種の絶滅のスピードは自然状態の約100~1,000倍にも達し、多くの生物が危機に瀕しているという。

そうした状況の中で、クッキーを通して生き物たちの魅力や生物多様性の大切さを発信しているのが、三重県・桑名市を拠点に活動するクッキー専門店「kurimaro collection」だ。今回は、kurimaro代表の栗田こずえさんに、クッキー専門店を始めることになったきっかけや、栗田さんがクッキーを通して生物多様性を表現しようと試みた背景について取材した。

話者プロフィール

栗田さん栗田こずえ(くりた・こずえ)
幼少期から生き物が好きで、様々な生き物に囲まれて育つ。憧れは動物が沢山いるムツゴロウ王国で働くこと。2016年から生き物の魅力を捉えてクッキーで表現するデザイナーとして活動。「動物王国で働きたい」という夢を今は、クッキーの世界で叶えようと「生き物クッキー王国」を創造している。型からつくるオリジナルクッキーは450種以上。司会やサイエンスショーMCの経験を活かして、クッキーに関するイベント・ワークショップも実施。

ものづくりの延長で、クッキーの世界へ

幼少期から生き物が好きな栗田さんは、クッキーを通して生き物の魅力を発信するアーティストだ。もともと絵を描いたり、工作をしたりと、ものづくりが自己表現の一つだったと栗田さんは話す。

栗田さん:私が子どもの頃は、自分の気持ちを表現したり、何か自分の意見を伝えたりすることを難しく感じていました。だからこそ、自分の代わりに笑ったり泣いたりするキャラクターを描いて、自分の感情を表していました。

また、子どもの頃から生き物が好きで、生き物に癒やされてきたんです。私は田舎育ちなので、川でメダカや蛍を見たり、オタマジャクシをカエルにして自然に還したりしていました。自宅でもウサギやハムスターを飼っていたため、動物は自分にとって身近な存在でした。

クッキー

そうした幼少期の思い出がきっかけで、栗田さんは実際に生き物をモチーフにものづくりを開始した。

栗田さん:最初は趣味としてフェルトや毛糸などでいろんな動物を作っていました。当時、紙粘土での創作にはまっていたのですが、クッキーも粘土みたいだなと思って、その延長で動物型のクッキー作りを始めたんです。クッキーを作ってあげると友人も喜んでくれましたね。

「リアル」にこだわる、生き物クッキー

kurimaro

その後、栗田さんは2016年に三重県桑名市にクッキー専門店「kurimaro」をオープンした。kurimaroで作っているクッキーは、200〜300種類にも及び、森や海に生息する動物から、深海魚や昆虫、微生物など、多種多様だ。水族館とコラボレーションした際には、実際に動物と触れ合ったり、飼育員からアドバイスしてもらったりしながらクッキーを製作したという。

栗田さん:最初は「可愛いクッキー屋さん」という印象で入店する方が多かったです。お客さんは小さい子どもから年配の方に至るまで幅広く、多くの方が入店すると自分や友達が飼っている生き物を探してくれます。

栗田さんのクッキーの開発やその背景にあるメッセージも個性的だ。梅雨の時期には、「可愛すぎて食べられない」と話す顧客に対して、「悪者にされがちなカビたちにも主人公としてスポットを当てたい」というメッセージを込め、カビシリーズを製作し、実際に納豆菌やカビ菌が入ったクッキーを販売した。また、カエルの卵から成体に至る変態の様子をクッキーで表し、カエルが冬眠する秋頃まで販売するなど、クッキーを通じて生き物の成長過程も学ぶこともできる。

クッキー

ゾウリムシやミドリムシ、アメーバなど多種多様な微生物クッキーも

また、クッキーの原材料についてもこだわりがあると栗田さんは話す。

栗田さん:なるべく地産地消を取り入れていて、例えば小麦粉は三重県産の3種類をブレンドさせ、焼き色がついてカラフルな生き物のデザインに影響しないようにクッキー自体を白くしています。また、野菜から色や味を出したり、卵アレルギーの子どもも食べられるよう、卵でなくひよこ豆の煮汁を使用したりするなど、身体に優しい食材を心がけています。

クッキーだからこそ発信できる、生物多様性

これまでクッキー製作を通して多種多様な生き物を表現する栗田さんは、生き物の魅力についてどのように考えているのだろうか。

栗田さん:生き物の何が一番好きかというと、「ある人にとっては苦手な生き物だとしても、その生き物を愛してくれる人がどこかにいる」ということだと思っています。例えば、クラゲって、クッキーにするとシンプルな形ですし、他の動物に比べると華やかさには欠けるかもしれませんが、クラゲがとても好きな人からしたら、すごく喜ばれるんです。

私は、自分が好きな生き物を見つけて喜んでくれるお客さんの姿が見たいんですよね。「生き物」としてその生物を捉えると、形状や寿命など細かい違いが見えてきますが、生き物たちはそれぞれ生き残るために進化してきた背景があるので、みんなそれぞれ「完璧」な姿だと思っています。そうした生き物たちの魅力、そして個性的な「生物多様性」を表現するためにクッキーの製作を続けてきました。

クッキー

沖縄に生息する固有種を型取ったクッキー

子どもの頃から生き物が好きだった栗田さんは、大学で環境問題を学んだ後、科学館で働いた経験がある。その当時、環境問題に関連する企画を実施することが多く、生き物が生きられる環境について意識する機会があったという。

実際に、栗田さんは絶滅危惧種や固有種などが多く生育・生息する沖縄の生き物に注目し、「沖縄の固有種コレクション」としてクッキーを製作した。2021年7月に生物多様性が評価され、世界自然遺産に登録された奄美・沖縄地域は、日本の国面積の0.5%であるのにもかかわらず、95種の絶滅危惧種や75種もの固有種が生息する場所だ。栗田さんは、生物多様性の保護に向けて、まずは沖縄に生息する固有種を知ってもらいたいという想いから沖縄固有種の特徴を落とし込んだクッキーを製作したのだ。

栗田さん:日常生活の中でも社会問題は転がっていて、そうした問題を子どもたちに伝えていきたいという気持ちがあります。私も地球上に生きている生物の一人として、生物の平等性を意識しています。一見個性的で「ヘンテコ」に見える生き物も、「可愛い」という言葉で表せば、平和な気持ちになれる。これって、人間の多様性についても同じことが言えるのではないかなと思います。まさに、「個性」として生き物全体を捉えていくという感覚です。

「体験」を通して伝える、生き物の魅力

kurimaro

栗田さんは、現在も生き物の種類を増やすため、様々な取り組みを展開している。

栗田さん:クッキーに関して、今も生き物の種類を増やしていますが、今後は地域的な要素などを考慮して、自分が注力したい生き物の種類を絞っていこうと思っています。地球上の生き物の種類に注目すると無尽蔵にクッキーの数を増やせるのですが、私の限られた一生の中で2000種類の生き物クッキーを製作しようと考えたときに、どの生き物にスポットを当てていくべきか、そしてそのスポット当てることで社会的にどんなメッセージを伝えられるかを常日頃考えています。

今はクッキーの製作に注力しているが、クッキーという形自体にこだわらず、生き物の魅力を伝える方法を模索していると栗田さんは話す。

栗田さん:クッキーはキャラクター化された平面の静物なので、液体や立体など他にもさまざまな幅を利かせて生き物の魅力を伝えていきたいと思っています。食べ物って私たちの日常生活に身近な存在ですし、生活の中で「体験できる」ことに重点を置きたいです。

編集後記

一見、kurimaroは可愛らしい生き物クッキーを扱うクッキー専門店に見えるが、栗田さんのお話から、「クッキー」は生き物の奥深い世界を知るきっかけであり、人々とのコミュニケーションツールの一つとなっていることがわかった。科学館で働いた経験を持つ栗田さんだからこそ生み出せる魅力的なクッキーは、クッキー専門店の域を越え、動物園や水族館のような学びの場を作り出している。読者の皆さんも、kurimaroのクッキーを通して、好きな動物から生き物の世界に足を踏み入れ、生物多様性について考えてみてはいかがだろうか。

【参照サイト】kurimaro ホームページ
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Edited by Megumi

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