私たちが生きる世界には、今日多くの社会課題が存在している。環境、貧困、差別、感染症……解決が困難に思われるようなあまりに大きな問題の数々に、「自分に何ができるか分からない」と感じている人も少なくないのではないだろうか。
なかでも環境問題、とりわけ気候変動について持つ不安な感情は「気候不安(Climate Anxiety)」と呼ばれ、特に16歳〜25歳くらいの世界の若者の間で広がっているという。環境問題のことを知れば知るほど、その深刻さに悲観的になったり、無力感に苛まれたりする人が少なくないのだ。
さらに、地球になるべく負荷をかけない行動を日頃から考えている人こそ、自分がそれを完璧に実行できなかったときに罪悪感を感じてしまう。その感情は「エコギルト」とも呼ばれ、人々のメンタルヘルスに影響を与えるとされている。
新たな取り組みや解決策が提案されていながらも、依然として深刻な環境問題を前に、ネガティブな気持ちを抱いてしまう。そうした人たちが、混沌とした世界のなかでも少しでも前を向いて生きられるにはどうすればいいのだろうか。
2022年10月23日、IDEAS FOR GOODは、海の環境問題に取り組むZ世代が主体の団体「UMINARI」と共に、千葉県千葉市美浜区にある「幕張の浜」にてイベントを開催した。当日は、壮大な自然のなかで、ビーチクリーン、ヨガと瞑想、そして参加者一人ひとりが日々感じている想いを共有するディスカッションが行われた。
開放感あふれる自然のなかで、約20名の参加者が思い思いに感じ、言葉を綴っていく時間は、とても尊く、貴重な時間だった。今回は、そんな当日の様子をレポートしていく。
自然と調和するビーチクリーン
「ビーチクリーン」「ヨガと瞑想」「ディスカッション」の3部構成で行われた本イベント。まずは、少人数のグループに分かれ、ビーチに落ちているごみ拾いからスタートした。当日は天気に恵まれながらも、ビーチを訪れている人はそこまで多くはなく、ペットボトルなどの大きなごみはほとんど見当たらなかった。
イベント開始前は、「参加者みんなが拾うごみがあるか……?」という不安さえあったが、いざビーチクリーンが始まり、目を凝らして辺りを見渡すと、大量のプラスチックごみが目に入ってきた。軍手では拾いにくいほど小さく、カラフルなプラスチックごみ。それから、ペレットと呼ばれる小さな丸型のプラスチックが、砂や貝殻のなかに混ざっている。
イベントに集まった参加者たちは、仲間たちと会話しながらごみを拾い続けるが、拾っても拾っても辺り一面にはプラごみが溢れている。「きりがない……」そんな声が漏れてくるほど、ビーチはプラスチックにまみれていた。
そんな30分間のビーチクリーンの後は、拾ったごみを「不燃」と「可燃」に仕分けする。集まったごみは小さなものが多かったが、なかには薬やライター、タバコのフィルター、イベントのリストバンド、風船、納豆のパック、花火、洗剤などもあった。全体でごみ袋2枚分のごみが集まった。
その後は、ヨガと瞑想の時間。目の前の海に沈みゆく夕日を眺め、心地よい波音を耳にしながら、気持ち良い程度に身体を動かし、心を落ち着けていく。壮大な自然のなかで、陽のぬくもりと少し冷たい風を感じながら、一人ひとりが自然に溶け込んでいくような時間だった。
環境問題とウェルビーイング
最後のプログラムは、グループに分かれてのディスカッション。IDEAS FOR GOODとUMINARIは、「環境問題とウェルビーイング」をテーマに参加者に問いを投げかけた。
日頃からマイボトルやマイカップを持ち歩いたり、買い物の際に生産地や原材料を見てみたり……日常でエコを意識した生活を心がける人が増えた。今回ビーチクリーンに集った人たちも、そうした意識を持ち、「ビーチクリーン」というアクションをするために来た人たちだろう。はたから見ると、それは「前を向いて積極的に行動している」という印象を与えるかもしれない。
だが、そうした人たちも、時には心にわだかまりやモヤモヤを抱えることがあるのではないだろうか……?そう感じ、「ウェルビーイング」について考えるテーマを設定した。実際にIDEAS FOR GOODのメンバーも、日々多くの情報に触れるなかで、厳しい現状を知って絶望したり、無力感に苛まれたり、時に怒りの気持ちが湧いたりすることもある。だからこそ、環境問題に取り組む参加者の皆さんと「心の健康を保ちながら、環境問題にサステナブルに取り組み続けるには?」というお題で話ができればと考えた。
そんなディスカッションの時間に出た意見のなかで、印象的だったものを下記にいくつか挙げる。
問い①:環境問題に取り組むなかでモヤモヤすることは?
・会社では環境問題の話をしにくくてモヤモヤする…
・職場の上の世代が全然分別をしない!「若い世代はサステナブルだよね〜」で終わることにモヤモヤ
・情報はたくさんあるけど、どれを選べば良いのかわからずモヤモヤ。また、自分で調べない人にももっと情報が届いたらいいのになと思う
・お母さんになるという夢をずっと持ち続けてきたが、生まれる子どもにとって、この世界で生きることがいいことか分からない
・余裕がないと、ペットボトルやコンビニのお弁当を買ってしまうことがある
問い②:そんななかでも、日常で感じる小さな幸せは?
・いつも近くには空がある。周りの自然の美しさに気付けるようになったこと
・健康でいられること。身体が元気でないと心も元気でなくなるし、何もする気が起きない
・誰かと食卓を囲む幸せ
・マイボトルを持ってほしいと伝え続け、自分がその姿を見せ続けたら、いつの間にか仲間がマイボトルを持ってくるようになった
・環境問題を知って自分の行動を変えるようになってから、幸福度が上がったと感じる。今は自分で色々調べて実践している時、生きてる感じがする
環境問題に限らず、日々生きているなかで自分の想いや行動が相手に伝わらず、もどかしい気持ちになる人もいるだろう。だけど、それは真剣に物事と向き合って、考えて生きているからかもしれない。そして、そんなモヤモヤのなかでも「小さな幸せ」に気づき目を向けることが、サステナブルなアクションへのヒントかもしれない。そう感じられたディスカッションの時間だった。
編集後記:「できる人が、できることを、できるだけ。」
IDEAS FOR GOODは、日々社会や地球をよくする情報を集め、それらが本当に社会や地球にとって良いことなのか、批判的に精査しながら記事をつくり、読者の皆さんに届けている。だが、私たちが記事を生み出し続ければ、社会や地球の課題が全て解決するわけではない。同様に、「気候変動をなんとかしたい」「社会をもっとよくしたい」という想いを持つ人のなかには、「自分の行動や選択が本当に正しいのか」迷ったり分からなくなったりする人もいるかもしれない。
しかし、そのように色々なことを知ったり考えたりするなかで、社会課題に対して「何かをしよう」という志を持つ人たちの幸福感やウェルビーイングが阻害されてしまうのは、もったいないことだと感じる。
だから、私たちはもう少し一人ひとりが楽な気持ちになって良いのでは、と考えている。結果にフォーカスして悲観しすぎるのではなく、「自分はどう生きたいか?」「人生を終えるとき、どんな状況だったら“満足した”と言えるのか?」そう自分自身に問いかけ、選択していけばいいと思うのだ。
少しでも社会に良いことをでもしながら生きるのか、どうせだめだからと諦めて行動することを辞めるのか。人生が終わるときに後悔しないように、一人ひとりがそんな問いを頭の片隅に置いて生きられたら、自然と楽しく行動し続けられる気がする。
「できる人が、できることを、できるだけ。」
たとえ完璧でなくても、できる人が、できることを、できるだけやる。今回のイベントで多くの人たちが出会ったように、同じ未来を見る仲間たちが集い、皆が一緒に一歩ずつ歩を進めていけば、世界はきっと今日より少し良くなるはずだから。
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