「日本一サステナブルなarrowsスマホ」FCNTはなぜ作れた?開発の裏側を聞く

Browse By

“日本で最もサステナブルなスマートフォンを目指して。”

そんな言葉を掲げる商品の発売が決まり、神奈川県大和市のオフィスは達成感につつまれた。「らくらくスマートフォン」「arrowsシリーズ」など、携帯電話の開発・販売を行うFCNT(エフシーエヌティー)社。このたび、日本のエシカルライフをけん引するブランドとしてリニューアルし、新商品の第一弾として、耐久性を保ちつつ環境にも配慮したスマホ「arrows N(アローズエヌ)」を開発したのだ。

arrows N

近年、ファッションや食品の分野では「サステナブル」とされるものが増えてきた。しかし、電化製品となるとどうだろう。耐久性や難燃性(燃えにくさ)、安全性などの規格の厳しさといった工業製品ならではのハードルがある。海外では、オランダ発の環境に配慮したエシカルなスマホ「Fairphone」や、ドイツ発の修理しやすいスマホ「Shiftphones」などがあるが、日本発はかなり珍しい。

日本製ならではの丈夫で質の高い設計と、リサイクル素材適用率約67%(※1)の環境配慮設計を両立した「arrows N」は、どのように生まれたのか。IDEAS FOR GOOD編集部ではFCNTの開発や広報などさまざまな立場からの話を伺い、サステナブルな商品開発の裏側にある秘密に迫ってみた。

「日本一サステナブルなスマホ」開発の裏側

「arrows N」は、リサイクル素材の使用を旧来のスマホに比べて大幅に増やした環境配慮型設計により、バージンプラスチックを約4.8トン、バージンアルミニウムを約33.9トン削減したスマホである(※2)。今回の設計では、従来の樹脂材料と比較して、CO2排出量も最大36%削減された(※3)

また、製品の長寿命化として使い始めの電池持ちが4年間(※4)続く充電技術や、OSアップデート最大3回(Androidのアップデートは通常2回まで、としているところが多い ※5)、セキュリティ更新最大4年を実現するなど、会社のDNAである「永く使えるものづくり」が引き継がれている。

arrows N

電気電子部品を除いて、リサイクル素材適用率約67%

以下の回答は、FCNTのプロダクト&サービス企画統括部の荒井さんや吉澤さん、そしてプロダクト事業部の田中さんほか、開発・広報に関わったメンバーの方々から受けたものである。

 Q. 日本で最もサステナブルなスマホ、開発のきっかけを教えてください。

FCNTは、10年以上スマホを作ってきました。永く使えるものを、という考えは以前から変わっていませんが、今回はブランドリニューアルのタイミングで、社会の需要の変化を感じたのです。

人々がよりサステナブルな製品を求めるなかで、スマホの寿命はたいてい3〜4年ほど。その間にバッテリーやハードウェア、ソフトウェアが劣化して、使いづらくなることもありますよね。それであれば私たちは、よりよい素材を使用しながらも4年間きっちり使い続けられるスマホを作りたいと思い、今回の「arrows N」の開発に至りました。

Q. 素材は、どのような工程を経てサステナブルなものに変更したのでしょうか?

今回、スマホを作るプラスチック(ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートなど)という材料自体は変わっていないのですが、そのプラスチックを作る原料の調達元を変えました。

工程としては、まず材料から部品を作るあらゆるメーカーに、使っている原料についての調査をかけました。そして出てきた結果から、原料の強度や難燃性(燃えにくさ)を調べる。加えて、一つひとつの原料のサステナビリティも調べて2〜3種類に絞り込む。絞り込んだらようやくサプライヤーに「この会社のこの原料を使ってほしい」と品番まで指示する、というものですね。

Q. 「この原料はサステナブルだ」と評価する基準は、何でしたか?

原料のサステナビリティを評価する基準について、今回は使われている原料を一つひとつ地道に調べて「1パーセントでもリサイクル率が高い(バージン素材ではなく再生された)ものを」と選びました。

Q. サステナブルなスマホ開発にあたり、特に課題だったことはありましたか?

原料を変えながらも、耐久性が高くて長持ちする製品づくりをするのは、開発チームからしたら正直かなり労力がかかることでした。環境性能を重視するあまり、使いにくくなってしまっては困りますから。

また、開発のコストも課題になりました。新しいことをしようとすると、サプライヤーとしてはどうしても部品などの値段を上げたいものです。リサイクルや環境配慮の認識は、たとえば食品の容器などの分野ではかなり進んでいますが、電化製品に関してはまだまだ広がっていないことも背景にあるかもしれません。そこについては、世界的なサステナビリティの重要性と需要をサプライヤーにも伝え、根気よく話し合ったことを覚えています。

左から、FCNTチームの荒井さん、吉澤さん。「arrow N」は地道な工程を経て生まれた。

左から、FCNTチームの荒井さん、吉澤さん。「arrows N」は地道な工程を経て生まれた。

会社としてサステナブル転換ができた理由

FCNTは、2025年度中に、電気電子部品を除くすべての部品で環境配慮素材を適用することを目指している。長年作ってきたスマホシリーズ「arrows」を2022年10月にリブランディングしたことをきっかけに、環境に配慮したエシカルな生活につながるものづくりを行う会社になりつつあるのだ。

Q. リブランディング前、社内ではエシカルを特に意識していたわけではなかったと聞きました。そこから会社のあり方を転換し、サステナブルな新商品の発売までできたのはなぜでしょうか?

もともと、FCNTの文化として耐久性や防水性などを意識した「永く使えるものづくり」がありました。なので、事業そのものを大きく変えたとか、根底から覆されたというわけではないんです。

会社の規模もそこまで大きいわけではなく、部署を超えた意志伝達がスムーズなことも大きかったでしょうね。たとえば企画統括部は、日頃からさまざまな部署とコミュニケーションしており、会社としてエシカルな事業をしたいと何度も伝えていました。はじめは誰もサステナビリティに関する知識がなかったため、社内でも勉強会を開いたりしていました。

そんなこともあり、日本で最もサステナブルなスマホ「arrows N」の開発は大変ではあったものの、社内の空気は追い風でした。実際に携帯を販売するキャリア(今回、arrows Nを発売するのはdocomo)と、“変わらなければならない”という想いが合致したことも良かったと思います。

左から、FCNTの田中さん、新井さん。社内ミーティングの様子

左から、FCNTの田中さん、荒井さん。社内ミーティングの様子

サステナブルな製品の未来を考える

Q. 今後、どのようなことに挑戦していきたいですか?

今回の「arrows N」の開発で十分にできなかったことの一つとして、「製品が役目を終えたとき(使い終わったとき)」のことを考えた設計があります。現状では、4年経ってスマホを使い終わったらリサイクル会社に回収してもらったりしますが、回収された後も追っていくことが課題です。

部品を再利用したり、分解して材料レベルで再利用したり。近年はそういったことが求められていることも認識しているので、今後は、作る側として廃棄物にならない設計に挑戦していけたらと思います。

よりバージン素材を使わない開発や、CO2を減らした開発も今後の課題ですね。今回はじめてリサイクル材の適用率などの数字を公表してみたことで、今自分たちがどこにいるのかを可視化できたので、今後はもっと透明度を高めていければ。

また、人々にサステナブルな商品をどのように訴求していくかも重要です。スマホを手に取った方に、そんなに長々と環境設計について話すのが難しいこともあるので。

Q. 便利なものが安く手に入る現代で、人々に「サステナブルなものを訴求する」ことの難しさはどの会社にとっても課題ですよね。人々とのコミュニケーションについては、どう考えていますか?

最新のものは、すぐに消費され埋もれてしまう時代になりました。そのなかで、変わらない価値は何なのか、何に重きを置くのか、ということが企業に問われている気がします。

FCNTとしては、まず環境面だけでなく設計の丈夫さ、という会社の強みによって、お客さまの信頼の起点になることが第一だと思っています。現時点で、サステナブルなスマホはより関心の高い層をターゲットにしていますが、今回リブランディングもしたので、そこからより良い生活につながるものづくりを続けていれば、私たちの姿勢を理解してくれる方々が増えていくと思っています。

arrows N

編集後記

「arrows N」の発売は、2023年2月以降。まだまだ課題はあるとチームは語っていたが、今回は、日本の会社からサステナブルなスマホが誕生したこと自体が大きな一歩だと考えられる。

開発チームの目線、企画チームの目線、広報チームの目線など、FCNTのなかでもさまざまな視点から話を聞いたが、その根底には同じ「よいものづくりをしたい」という想いが感じられた。

“日本で最もサステナブルなスマートフォンを目指して。” このキャッチフレーズが現実のものとなる日は近いかもしれない。今後も、引き続きサステナブルなものづくりに注目していく。

※1 本体重量から、バッテリーやディスプレイなどの電気電子部品を除いた部品総重量に対する、リサイクル素材総重量の割合。
※2 10万台分の部品製造時に使用する、バージンプラスチック、バージンアルミニウムの削減量。
※3 本体のバッテリーやディスプレイなど、電気電子部品を除いた部品のうち、従来の樹脂材料と最もCO2が削減出来たSABICの新規樹脂材料の比較から得られた割合。 CO2削減量は ISO14040/14044 の一般原則に従い、基本データと業界平均推定値を用いたCradle-to-Gateライフサイクル分析により算出した値となる。この評価は、LCA管理のためにSABICプロトコルに 依存した内部レビューを通したもので、外部機関によって検証されていない。
※4 本機種と同性能バッテリーを用い、充放電を繰り返すシミュレーションに基づく結果。バッテリーの寿命は利用状況によって変化する。
※5 発売開始されたタイミングから起算して3回、最新OSへのバージョンアップが適用される。OSバージョンアップの適用回数は、購入時期によって変わる。また、最新OSとは、arrows Nに搭載されているAndroid™ OSに対して、OS バージョンアップが可能な時期において適用されるAndroid™ OSの最新版を指す。発売開始されたタイミングから起算して、4年間のセキュリティアップデートを保証する。保証年数は、購入時期によって変わる。

【参照サイト】FCNT – 日本で最もサステナブルなスマートフォンを目指して 「arrows N」を商品化

FacebookTwitter