最適解はそれぞれに。長野・小布施で出会った、地域の”中”から気候変動に向き合う生き方

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葉が色づき、寒さが色を連れてくる。頭上の木からは心地よい感覚で葉がゆらゆらと舞っては落ち、彩鮮やかな落ち葉の絨毯がひろがる。

一年で一番気持ちのよい日だ、と思うほどの秋晴れの日に訪れたのは、長野県の小布施町。

ふらふらと歩く。中心部はそれほど大きくなく、あっという間にぐるっと一周できてしまうほどだが、町全体がある秩序を持って造られ、保たれている。美しい町だ。

小布施町は、長野県北東部に位置する人口約11,000人の町。江戸時代からの名産である「栗」を中心に “栗と北斎と花のまち” として多くの観光客に親しまれ、人口の約100倍にあたる100万人超が年間に訪れる観光地である。

行列ができていたケーキ屋さんに並び、モンブランを食べた。栗の収穫は毎年9月から10月にかけて行われるそうで、その旬な時期にしか食べることのできない栗菓子を扱うお店もあるのだとか。旬は少し過ぎてしまったが、それでも一口食べるとぶわっと栗の香りがひろがり、秋を吸い込むような幸せな気持ちが巡った。

「こんにちは」

少し一人で町を歩いたあと、小布施町に住むある方と待ち合わせをして二人で町を歩いた。

「え、ここ通れるんですか?!」

ここは人のお家では…?これは栗菓子屋さんの通用路では…?というような小道をすいすいと進んでいく。そうした道の入り口には確かによく見ると「通り抜けできます」「Welcome to my garden. 小布施オープンガーデン」といった看板が置かれていた。

小布施町には、古くから「ちょっとごめんなさいね。」と、よそのお庭に出入りできてしまう「お庭ごめん」の文化があったそうで、そうした文化を訪れた人にも楽しんでもらえるようにと、個人の庭などを一般の人に公開する「オープンガーデン」の取り組みを2000年から始めたという。今では100を超える場所で取り組みが行われている。

小道を進むのは、なんだか探検のようでワクワクと楽しい。民家に入る時はすこし緊張したが、どきどきしながら開けた扉の先には綺麗に手入れされたお庭があり、居間でくつろぐ住人の方の姿が見えるのはどこか不思議で、でも何故だか幸せで温かな気持ちになった。

「こういうところを通るのが小布施の醍醐味なんだけど、ちょっと敷居が高いので、敷居を下げるのが今後の私の役目です」

町を案内してくれたのは新荘 直明(しんじょう なおあき)さん。新荘さんは、小さい頃に気候変動への課題意識を持ち始め、様々な経緯を経ていま、同じ課題意識のもと小布施町に住みながら民間で地域に関わる仕事をしている。

小布施町SDGs観光コーディネーター 新荘 直明さん

小布施町SDGs観光コーディネーター 新荘 直明さん

気候変動という地球規模の課題に、日本の一地域からアプローチする。

その行動に至るまでの思考や経験の経緯はどんなものだったのだろう。気候変動のような大きく一人一人の手には負えないように感じられてしまう課題を、地域からどう解決していこうと考えているのか。様々な疑問が頭をよぎり、直接会って話を聞くために小布施を訪れることにした。

気候変動に直接的に関わる仕事がしたい

「いつからという明確な時期は分からないのですが、小学2年生の頃から環境問題に関心を持っていました」

「NHKなどでも気候変動が進行した時にどういうことが起こりうるかといった番組などをやっていたと思います。そのような番組などを見て、気候変動が進むと近い未来に、人間は地球で生きていくことができなくなるかもしれないという怖さを感じました。気候変動が進んで人間が地球で生きられなくなったら、たとえ他の夢を描いたとしても叶えることはできなくなってしまう、だからまずは気候変動をどうにかしなきゃと思ったんです」

気候変動に関する番組や報道は近年ようやく増えてきたというように感じていたが、私がキャッチできていなかっただけで当時から危機感を持ち発信していた人、そして新荘さんのようにその発信を受けとり思考や行動を始めていた人がいたのだ。

「小学校3、4年生の時に家じゅうの家電製品の消費電力を調べるという自由研究をしました。どんな家電を使った時に家の消費電力が増えるかを毎日記録して、結果食洗機がそのうちのひとつだと分かったんですね。その結果を親に伝えたら、食洗機を使うのを止めてくれたんです」

「環境に関心を持って、自分で調べて新しいことを発見して、それを誰かに伝えることによって、人の行動が変わることの嬉しさや面白さを初めて感じた体験で、その原体験が今につながっているんじゃないかなと振り返ると思います」

そこからもずっと環境問題や気候変動に関心を持ち続け、さらに化学が好きだったこともあり、高校では燃料電池の研究をしていたという新荘さん。そんななか、高校一年生のときに東日本大震災が起こった。

「それまでは気候変動の側面から考えたら、石油や石炭などの化石燃料を用いた火力発電と比較して原子力発電は温暖化の要因となるCO2を排出しないですし、選択肢としてありかなと思ってたんです。だけど事故が起きてしまって、やっぱり再生可能エネルギーで生活できるようにしていかないといけないなと思いました」

「そこから再生可能エネルギーで全てのエネルギーが賄えるような技術を見つけたい!と思って、小学生の頃から憧れていた『研究者』の道をあらためて志すようになりました」

そうした志を持ちつつ大学に進学した新荘さんだったが、研究を進めるなかで、実際の技術に自身の研究を応用していくためには膨大な時間がかかることに気づく。けれど、気候変動は待ってくれない。研究をしている間も刻一刻と進行していく。そこで徐々に研究以外の道も探さなくてはと思いはじめ、研究と並行して様々な新しいことをし始めた。

気候変動の政策提言を行う青年環境NGO「Climate Youth Japan」に所属、また何かしら技術や方策を社会応用につなげていくのであれば起業を選択肢に入れる必要があるとの考えから、起業を志す学生が集まるコミュニティ「MAKERS UNIVERSITY」に所属と、居場所や活動の領域を広げていく。

「もっと直接的に気候変動に関わる仕事をしなきゃと思ったんです」

一つひとつの地域の中から気候変動にアプローチする

研究に変わる環境問題や気候変動へのアプローチ方法を模索するなかで、新荘さんはある考え方と出会う。

「『Climate Youth Japan』の活動をしているなかで、環境省が『地域循環共生圏』といった考え方を提唱し始めたことを知りました」

地域循環共生圏とは、環境省の説明によると下記のこと。

“各地域が足もとにある地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、環境・経済・社会が統合的に循環し、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方であり、地域でのSDGsの実践(ローカルSDGs)を目指すものです” 引用元:環境省 ローカルSDGs

「この思想を知ったとき、すごく共感したんです。そして、この考え方などをきっかけとして『気候変動によって起こる問題の解決には、地域ごとにその土地に合ったやり方で取り組んでいく必要があるのではないか』と考えるようになりました」

「具体的には、外からの資源に頼るのではなく、その土地にある、文化や人を含めた資源を活かして、地球環境と調和した形でエネルギーや食べ物を自給自足することを目指す。その土地にある恵みに感謝しつつ、それを活かし、分け合いながら、人々が生きる場所。それが私の生きたい・つくりたい場所であり、そんな『人が風土とともに生きる場所』を色々なところに作っていきたいという思いが芽生えました」

小布施町での農業体験の様子

小布施町での農業体験時の写真

「先ほどお伝えしたように、私は再生可能エネルギーで全てのエネルギーが賄えるような技術を見つけたい!と思って研究をしていました。そのため、研究者に代わる道として、都市部を拠点とする電力会社に入る選択肢を考えた時期もありました。タイミングなどもあり結局その道にはご縁がなかったのですが、この地域循環共生圏の思想に出会ったことで、各地域のなかで、その地域の人たちが使うエネルギーを、その場所の資源を使って作るというほうが自分自身に合ってるかもしれないと思いはじめたんです」

「地域の外から地域の人たちのことを無視した開発をしたら、仮にそれが再生可能エネルギーであっても、地域の人たちの意思や考えの反映されない発電所が地域にできて、しかもそこで生み出される電気は、ほとんどがその地域ではなく東京などの大消費地で使われるという意味では、原子力発電と同じ構造になってしまうと思うんです」

「自分はそちらの構造に加担するのではなくて、地域のなかで地域の人たちが本当に望むものをかたちにしていきたいと思いました。外から関わるのではなく、地域のなかに入り込んで、一人ひとりの思いを仕組みづくりにのせていきたいと」

あとは地域の中にいつ飛び込むのか、そのタイミングだけ。けれど新荘さんには一つ懸念があった。「地域の中に一度入ってしまったら出るのが難しくならないか?」新荘さんが目指すのは、地域循環共生圏で描かれるような地域を、色々なところに作っていくこと。だからこそ一つの場所にずっと居続けなくてはならない場合、やりたいことから離れてしまう。

そんな時に「MAKERS UNIVERSITY」の活動を通して、1人の人との出会いがあった。コミュニティナースといった取り組みを始めた矢田明子さんだ。コミュニティナースとは、病院でなく町や地域の中で、看護の専門性を活かしながら人とつながり、まちを元気にする働き方のことをいう。

コミュニティナース イメージ画像 引用元:コミュニティナース

「矢田さんは地域の中でコミュニティナースの取り組みを行っていますが、自分が話した当時は関わる地域に住んだことはなく、通いながらその活動をしているとおっしゃっていました。そこで『地域の中に入ったら出るのって難しいですか?』と気になっていた質問をしてみたんです」

「そうしたら、『自分は外に出ない、ずっとここにいるという期待を相手に持たせてしまったら難しいけれど、ずっと中にいるわけではなくても貢献しつづけるという意思を示すことが大事なのでは』というようなことをおっしゃっていて。その話を聞いて、地域の中に飛び込んでみようと思うことができました」

個別性、一回性を愛していきたい

地域の中で活動をすることに決めた新荘さん。新卒の仕事として選択したのは、岡山県西粟倉村の地域おこし協力隊だった。

新卒で地域おこし協力隊になる人はあまりいないというが、新荘さんは「Climate Youth Japan」の活動を通して、再生可能エネルギーでエネルギーの自給自足を試みる活動を行う西粟倉村のことを知り、行ってみたいとその道を進むことに決めたのだという。

そしてその最初のキャリアを経て、2021年6月、小布施に拠点を構えることとなる。

「次どうしようかなと思っていた時に、小布施町が『環境先進都市』への転換を目指して、『脱炭素(ゼロ・カーボン)の推進』と『ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)の推進』を掲げて動き出したということを知りました。この場所であれば、自分が理想とする『人が風土とともに生きる場所』を体現するような、持続可能な地域づくり、環境と調和したまちづくりについて学びながら実践できるかもしれないと思ったのです」

小布施町が目指す「環境先進都市」は、住民も外から訪れる人も小布施町の豊かな暮らしを感じられるまちづくり、が前提となっている。例えば再生可能エネルギーの導入にあたっても、景観を壊すような大規模な開発は行わず、小布施町が大切にしている景観と調和した形で行っていく、という考え方だ。

「今回は地域おこし協力隊ではなく、民間の企業から仕事を受託しながら個人として働いています。最初の一年は、小布施町役場の方々などと一緒に『小布施町環境グランドデザイン』という、小布施町が環境先進都市を目指すために、何をしていくかという長期目標を作る仕事を進めていきました」

「『小布施町環境グランドデザイン』の取り組みの領域は、ゼロ・カーボン、ゼロ・ウェイスト、サステナブル(持続可能)な観光、防災・レジリエンスの4つ。私自身の仕事で主に担当しているのは、持続可能な観光です。具体的には、GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)という、持続可能な旅行と観光のための国際的な基準を設定し管理している団体の定めた基準に照らし合わせた時に、町がいまどのような状態にあるかを、町の人にヒアリングなどもしながら現状評価・把握して、町の強みと弱みを把握します。そしてその内容にもとづいて、今後の町の持続可能な観光に活かす施策や計画を立てていくといったことをしていました」

小布施町環境グランドデザインの持続可能な観光領域においては、「訪れる人もサステナビリティを感じられる町を目指す」といった目標がある。実際には現状どのような取り組みが行われているのだろうか。

「小布施町には現在、ゼロ・カーボン推進員、ゼロ・ウェイスト推進員として活動する地域おこし協力隊の方がいらっしゃるのですが、そのゼロ・ウェイスト推進員の方を中心にゼロ・ウェイストの取り組みが進んでいます」

「容器持ち込みに対応してくださる飲食店に、協力店のポップを置かせていただいたり。小布施町には以前から、マイカップを持参すると割引してくれるコーヒー屋さんもありますよ。あとは、飲食店さんと協業して、生ごみの回収とその堆肥化なども行っています。小布施町は、栗を筆頭にりんごやぶどうなど農家さんがもともと多いので、土づくりにも関心のある人が多くて、コンポストも進めやすそうだなと感じています。コンポストを学んで、キエーロという土の中のバクテリアの力で生ごみを分解する生ごみ処理ができる箱を制作するといったワークショップも住民の方向けに行いました」

キエーロコンポスト・ワークショップの様子 引用元:長野県小布施町 公式note

新荘さん個人としても、「太陽光発電システムを自分で作ってみよう!」と題した企画など、サステナブルなくらしについて考える「(ちょっと)未来のくらしスクール」を開催。また、「0円マルシェ」と題して参加者が使わなくなったものを持ち寄ってお互いに物々交換するイベントを行うなど、ゼロ・ウェイストやゼロ・カーボンを地域の中から推進していくための試みを行っている。

太陽光発電システムづくりの様子

小布施では、小布施若者会議、小布施エネルギー会議など、官民協働でまちづくりが行われてきた。しかし新荘さん曰く、「環境先進都市への転換」は、まだ町役場と一部の関心のある人たちの間で進められている状況だという。

地域の人たちの本当の思いや望みが反映されたまちにしていくためにも、町に暮らすより多くの人たちを巻き込みながら進めていくことが今後の大事なポイントとなっていくだろうし、そうなるように仕事をしていきたいと新荘さんは話していた。

「この技術とかこの未来像はどこの町でも当てはまるから、”これ” を使うのが一番いいでしょうという考え方よりも、それぞれの町でそれぞれの人が、自分がいいなと思うものを形にしていった先に、その地域に合った心地よく住み続けられるような持続可能な暮らしができていくほうが『楽しい』と思うんです。そういう個別性、一回性を愛していけたらいいなと思います」

「気候変動」という地球規模の課題を前に、その途方のなさに頭を抱えうずくまり、もうこれは自分だけで解決できる問題じゃないと逃げたくなる気持ちがある。

誰か世界中の不要な温室効果ガスを回収するシステムを思いついて…。誰か二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーを開発して…。地球のどこかにいる誰かが作ってくれるかもしれない、大きくグローバルに変化を起こすようなただ一つの最適解にすがりたくなる想いが心のどこかに常にある。

でもそんなものは出来ないかもしれないし、仮にその方策が出来上がったとしても、それが自分たちの考えに合うとは限らない。その誰か外の人が作った方法は、大問題を解決する一方で、自分にとって本当に大切な何かを犠牲にしなくてはならないものかもしれない。もしそうだとしたら、それはきっと自分にとっての最適解ではない。

他の国は、地域はどうしているのだろう。これが他では良いらしい、ではやってみよう。そんな風に他から学び、試してみるのは勿論いい。でもそれは本当に、日本に、それぞれの地域に、自分に合った方法なんだろうか?

自分を認識するうえで、他を見ることは大切だ。しかし自分にどんどん他をそのまま被せていくと、自分はいつか消えてなくなってしまう。日本が、日本のそれぞれの地域や人々が、自分が本当に大切だと考えるものをそれぞれに認識し、守り進化させていくために選択して行動しながら、気候変動や様々な社会課題などに向き合っていけるといいな。紅葉真っ盛りの美しい小布施の町で新荘さんの話を聞きながら、そんなことを考えていた。

ひとまずは、いろんな思考はさて置いて、新荘さんに会いに小布施の町を訪れてみるのもいいかもしれない。美味しい栗菓子と迷いたくなる小道があなたを待っている。

【参照サイト】長野県小布施町 公式サイト
【参照サイト】GSTC / GSTCについて
【関連ページ】北海道ニセコの自然に恋をした、わたしの目線から見える町の魅力
【関連ページ】サステナビリティに関するLivhub記事一覧

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Livhub」からの転載記事となります。

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