柔軟な発想が鍵に。ヨーロッパのサステナブルファッション最新事情【欧州通信#01】

Browse By

日本に先駆けて、ヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、現在に至るまで世界を主導してきた。そんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する「ハーチ欧州」。

今回からスタートするのが、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届けする「欧州通信」だ。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

第一回目のテーマは「ファッション」。イギリス、フランス、オーストリア、ドイツ、オランダの最新サステナブルなファッション事情を、現地からお届けする。

【イギリス・ロンドン】「すでに手元にあるもの」に新たな価値を付与する「アイス・ダイ」ワークショップ

2022年3月にロンドンで開催された「Repair Week(修理週間)」。London Recyclesによると、ロンドンでは「75%の市民が新型コロナ流行以前よりも修理を頻繁にするようになった」という。期間中は、衣類をはじめ日用品を長持ちさせるための取り組みが市内各所で行われた。

イズリントン地区にある「Shop of Crisis」が行ったのは、氷を使って衣類にタイダイ模様をつけるワークショップ。シミが目立つ白い衣類が、これにより再び魅力的な洋服に生まれ変わる。

Shop of Crisis

Photo by Megumi

さらにShop of Crisisは、路上生活者の多さが大きな社会問題になっているイギリスで、ホームレスの人々に経済的支援を行う。地域の人々とともに「すでに手元にあるもの」に新たな価値を付与し、同時に格差も是正する、ユニークな取り組みだ。

コロナがもたらしたのは「修理」熱?ロンドンの“Repair Week”現地レポート

【フランス・パリ】老舗デパートのワンフロアが、サーキュラーエコノミーに特化

フランスでは今年2022年1月1日から「廃棄禁止法」が施行され、世界で初めて食品以外のファッションや家電の売れ残り製品の埋め立て、焼却が禁止された。現在、フランスではこれら売れ残り商品を再利用または寄付、リサイクルする必要があり、現地企業はこれに対して、在庫管理AIへの投資や、リサイクル企業とのパートナーシップを結ぶなどの動きがある。

そんな中、2021年9月には、老舗百貨店プランタンの最上階に、サーキュラーエコノミーに特化したフロアがオープン。1300平米の大きなフロアでは、ただモノを売るだけではない「新しい百貨店の形」を提案している。古着の販売や買取を行い、売り手は自分の服の購入者に向けて、メッセージを残すことも可能だ。

ハイブランドの洋服を組み合わせたアップサイクル品なども販売。洋服のお直し場もあり、ウェディングドレスをランジェリーに変えるなど、アイデアを提案してくれる。ただ服を直すだけではなく、さらに商品寿命を長くするための提案をしてくれるところに、百貨店らしさを感じる。

 Printemps

Photo by Erika Tomiyama

売り場スタッフの方によると、客層もこれまでより若者が増えたり、百貨店顧客がハイブランドの服を大量にキャリーケースに入れて売りに来る姿が見られたりと、お客さんの動きやマインドセットの変化が起こっているという。

【オーストリア・ウィーン】ワン・ストップショッピングが可能なウィーンの「リサイクル百貨店」

オーストリア・ウィーン市内にはリサイクルショップが点在しており、人々の生活の一部となっている。今回は、25年前から運営されている老舗リサイクルショップ「Carla」を訪問。この店の特徴は、衣類だけでなく日常生活に必要なあらゆるものが揃うリサイクル品の百貨店存在だということだ。

ウィーンの古着屋さん

Photo by Yukari Fujiwara

リサイクルショップというと多数の商品が積み重ねられているイメージがあるが、ここでは商品ディスプレイにも注力、衣類コーナーはビンテージ風でお洒落。書籍・家具コーナーはアンティークストア風。そのほかおもちゃ・家電・台所用品・アウトドア用品コーナーや修理カウンターまで設立されている。

書籍・家具コーナー

書籍・家具コーナー Photo by Yukari Fujiwara

まだ使用できる商品の持ち込みも受け付けており、自宅で不要となった物を持ち込む際、今必要なものを見つけていくという人が大多数だという。ここでは多くの「もの」がウィーン市民たちの間で循環しているのだ。Carlaを運営する組織Caritasは、社会的企業として廃棄物管理にも従事している。

【ドイツ・フランクフルト】「服装の自由」が促進する、サーキュラーエコノミーへの移行

ドイツでは最近、晴天が続いている。こちらは、フランクフルト中央駅の5月中旬木曜日、昼下がりの画像だ。この写真をみて、皆さんは何を思うだろうか?

ドイツ・フランクフルトの様子

Photo by クリューガー量子

──スーツ姿のビジネスパーソンはごくわずかで、制服を来た学生はこの写真では見当たらない。ビジネスパーソンは、上級職の人や顧客訪問時などを除いては、ネクタイ・スーツの上着なしでの通勤がドイツでは普通である。

そしてドイツでは、服装の自由が子どもにも権利として認められており、制服がある学校はごくまれだ。制服は、制服から制服としての再利用が難しく、通常は焼却あるいは埋め立てられている。こうしたことから、日本でも制服のサーキュラーエコノミー移行に向けた取り組みも進められている。しかし、サーキュラーエコノミーの「廃棄物を出さない設計」という概念のもと、今後は「制服を使用しない」という考え方も注目されていくのではないだろうか。発想を柔軟にすることも、サーキュラーエコノミー移行を促進するかもしれない。

【オランダ・アムステルダム】アムステルダムの中心でサステナブルファッションを体験できる世界初のミュージアム

オランダ・アムステルダムの中心街に佇むのは、世界初のサステナブルなファッションとイノベーションに特化した体感型ミュージアム「Fashion for Good Experience」。

ファッション・フォー・グッド・ミュージアム

Photo by Kozue Nishizaki

欧州最先端のサステナブルファッションを来場者が体験し、実際にその後の生活で変化を起こすために行動できるよう後押しし続けている。参加者は、ファッションの歴史と背景を学ぶ「過去」のフロア、今あるグッドファッションを見つめる「現在」のフロア、最後にファッションの最先端イノベーションに触れる「未来」のフロアをめぐり、現在のサステナブルファッションの現在地を感じることができる。

オランダ人も観光客も多く足を運ぶアムステルダムの中心で、ファッションにおいて「何を選ぶことが持続可能な未来を引き寄せるのか?」を、体験を通して一緒に学べるFashion for Good Experienceの存在意義は大きい。

【欧州CE特集#5】「Fashion for Good」を体験する。世界初のサステナブルファッションミュージアム

編集後記

いかがだっただろうか?イギリスのアイス・ダイワークショップや、オーストリアのリサイクル百貨店、ドイツの「服装の自由」の文化。新しいものを取り入れるのではなく、発想の転換によって「いまここにあるもの」に目を向けることで、おのずとサステナビリティにつながっているのだ。

「欧州通信」はIDEAS FOR GOODのインスタグラムでも、随時更新しています。ヨーロッパのサステナブル事情に興味のある方は、ぜひフォローしてみてください。

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe

▶ぜひハーチ欧州お問い合わせページからお気軽にお問合せください。

【関連記事】コロナがもたらしたのは「修理」熱?ロンドンの“Repair Week”現地レポート
【関連記事】【欧州CE特集#5】「Fashion for Good」を体験する。世界初のサステナブルファッションミュージアム

欧州通信に関する記事の一覧

FacebookTwitter