気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。
気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。
私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。
Climate Creative企画では、第1回目は「ワクワクが未来を変える。気候危機にクリエイティブに立ち向かうアイデア最前線」、第2回目は「CO2排出量表示は消費行動をどう変える? ーデータを活用したナッジとコミュニケーションデザインー」をそれぞれ実施しました。
第3回目となる今回は、ソーシャルグッドに特化した映像演出を手がける高島太士さんを招いて、「クリエイティビティを民主化しよう。気候危機に立ち向かう『企画』のつくりかた」と題したイベントを開催。気候危機を解決するために必要となる「企画」について話していただきました。本記事では、そのイベントの第一部の様子をレポートします。
スピーカープロフィール
高島 太士さん(NEW HERO代表/ドキュメンタリスト 演出家)
1979年生まれ。広告映像演出家。ソーシャルグッドに特化した映像演出にこだわり、国内はもとより海外広告祭での受賞も多数。長年にわたり培った取材力や表現手法で社会課題解決のヒントを導き、人の心に届くストーリーを多く生み出すことに時間を費やしている。広告企画とジャーナリズムの両方の視点から社会課題に向き合う表現者を、ドキュメンタリストと名付けた。
我有 才怜さん(株式会社メンバーズ)
2017年にメンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、幸福度ランキング上位国デンマークのデザインコンサル会社Bespokeとともに「Futures Design」というメソッドの日本展開に従事。また、社内のクリエイターとともにサステナブルWebデザインLab.を運営。気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。
企画とは何か
今回のテーマである企画とは、そもそも何なのでしょうか。
高島さんにとって企画とは「理想の未来を言語化する作業」なのだそう。理想の未来と言っても、それほど大げさなものではありません。友達の誕生日をどう祝うのか、旅行の日程はどうするのかなど、企画するという作業は身近で、誰にとっても必要な能力なのだと言います。
そうは言っても、そうした特別なイベントは頻繁にあるものではなく、企画力を発揮する機会があまりないと感じる人も多いのではないでしょうか。高島さんは、企画力を養う機会を積極的につくり、最終的には企画を習慣化することがクリエイティビティの民主化につながると言います。
では、どうすれば企画を習慣化できるのでしょうか。
高島さんによると、自分の意見を肯定する「自己説得力」、企画が必要になる環境に身を置く「環境創造力」、時代や社会に合わせて発信する内容を考える「情報活用力」の3つの力が必要になるとしています。
まず、自己説得力について。若い世代が自分の考えを発信することに慣れている一方で、他の世代には自分の考えや発言に自信を持てない人も多いと言います。人によっては「こんな考えではいけないんだ」と自己否定に陥ってしまうことも。だからこそ、まずは自分自身を説得して「この考えでいいんだ」と自分の意見を受け入れ、言葉で表現してみることが企画を習慣化するために大切だそうです。
次に、環境創造力について。高島さんは、みんなが創造力を発揮していくためには、毎日のように企画力を行使しなければならない環境に身を置くことが重要だとしています。それは、必ずしも企画が必要とされる職業に就くという意味ではありません。たとえばプロボノなどを通して、企画のアウトプットが求められるような状況を自らつくることが必要なのだそうです。
3つ目の情報活用力とは、時代や社会に合わせて発信する内容を考えていくということ。一歩先のできごとを予測しながらも時勢に沿った発信を心がけ、継続していくことが、企画の習慣化につながるのです。
これら3つの力を使って企画を習慣化していくと、「企画脳」が養われると高島さんは言います。企画脳が養われると、意識しなくても、企画にどう活かせるかという視点で物事を見られるようになるそうです。
強い共感性を引き出すクリエイティブとは
企画力を身につけるだけでなく、企画の内容が多くの人の心を掴んでこそ、社会に変化を起こすことができます。そこで大切になるのが「強い共感性を引き出すクリエイティブ」なのだそうです。
高島さんによると、強い共感の先に拡散があると言います。ここで言う共感とは、誰かの発信を見たり聞いたりして「その物語はわたしの物語だ」と、他者の物語を自分事として捉えるようになること。発信者が誰かに共感してもらえるような内容をつくると、その物語を見たフォロワーが自分の言葉を付け加えてさらに発信していきます。こうしてフォロワーの発信が連鎖していくことで、多くの人に物語を届けられるようになるのです。
物語は少しずつ連鎖的に広がっていくため、何かを発信する際、いきなり多くの人に届けようとする必要はないと言います。
下の図では、物語が拡散されていく様子が表されています。「映像」や「記事」と書かれている大きな丸が発信元を表し、小さな丸が受け手を表しています。このうち、色付きの小さな丸、つまり発信元に近い受け手に深く共感されるような表現を考えることが大切だそう。物語に共感した最初の人たちが自分の言葉を添えて発信することで、結果的に多くの人に物語が届けられるのです。
creator-shipって何だろう?
続いて高島さんからシェアがあったのは、「creator-ship(クリエイターシップ)」について。はじめ、高島さん自身もこの言葉について知らなかったため、ChatGPTに尋ねたそうです。すると、こんな答えが返ってきたと言います。
ここで大切なのは、特定の職業にかかわる人のみがクリエイターシップを有しているわけではないということ。誰しもが自分の持っている創造力で自身のアイデアを発信し、世界を変革するムーブメントを作り出せると言うのです。
また、クリエイターシップについて意見を問われた、モデレーターの我有さんは次のように述べました。「ChatGPTが提示した『自らの責任で発信する』という部分が気になりました。自分の意見に自信と責任を持ち、自分自身を信じているから、共感される発信ができるんだろうなと思いました」。
最後に
高島さんは、繰り返し「クリエイターシップは特別なものではなく、誰にでもあるものだ」と言います。料理をすることや旅程を決めることなど、さまざまな場面でクリエイターシップは用いられています。そのとき「自分は今とてもクリエイティブなことをしている」とは思っていないのではないのでしょうか。むしろ、楽しい気持ちになる、豊かな精神状態になるからやっているのではないでしょうか。
その延長線上に気候危機に対する創造力があれば、気候危機すらもクリエイティブな力できっと解決できるでしょう。
今後もClimate Creativeでは、クリエイターシップを持って気候危機に挑んでいきます。
次回のClimate Creative企画にも、ぜひご期待ください!