「政治」 この二文字を見た時、あなたはどのような情景を思い描き、どういった気持ちになるだろうか。
恐らく多くの人にとって、この言葉は「重く・遠く・暗い」。しかし2023年3月25日に筆者が目にしたのは「楽しく・近く・明るい」日本の政治、そして民主主義の姿だった。
政治家と気軽におしゃべりできる、日本で初めての選挙小屋
2023年3月25日・26日に東京都下北沢の街中にて参加費無料で開催された「民主主義ユースフェスティバル2023」は、日本の社会課題や政治についてみんなで一緒に考える、北欧の選挙文化にインスパイアされ開催されたお祭り。当日は生憎の雨だったが、会場となった下北線路街空き地には、ヴィーガンメニューも取り扱うキッチンカーが立ち並び、フェスティバルの楽しげな雰囲気が漂っていた。
会場は大きく二つのエリアから成る。一つが政治家・アクティビスト・学生等によるパネルディスカッションや、アーティストによる音楽ライブが行われるステージエリア。「政治家と国民の距離を近づけるためには?」「政治のジェンダーギャップ解消はどうしたら進められるか」「北欧のユース世代が考える民主主義のあり方とは」など民主主義に関する様々なテーマで議論が行われた。
もう一つは選挙小屋・若者団体ブースエリア。北欧では選挙期間中、街中に各政党が選挙小屋と呼ばれるスタンドを設ける。なかにはカフェのテラス席のように、イスやテーブルを置き、子供がお絵描きをするスペースやコーヒーやクッキーを食べながら党員とおしゃべりできるようなデザインをしているところも少なくない。今回のイベントではそうした北欧の取り組みにならい、自民党や公明党、立憲民主党や共産党など、全主要政党が選挙小屋を設置した。
ブースエリアには各政党ブースとは別に「政治家対話」といった場所が設けられており、現地には2022年の参院選に出馬した立候補者である乙武洋匡さん、斎木陽平さん、田村真菜さんなどが会場に来ていた。
スウェーデンで気づいた政治との距離感の違い
本イベントはどういった理由から行われることになったのだろうか。共催者である日本若者協議会の代表理事を務める、室橋祐貴氏にお話を伺った。
「昔から、若者のみならず全世代において日本の国民の政治参加は、投票・デモ・社会運動含め北欧などの民主主義国と比べて進んでいないと感じていました。自分達が声をあげたところで変わらない。誰が政治をやっても変わらないというように、政治に対しての期待値が非常に低く、ネガティブなイメージが根強いように思います。
国民が政治家と対話する機会はほとんどなく、国民は政治家の人となりも、具体的に何をやっているかも分からないので信頼感を持てず、政治家も有権者と対話する機会が限られているため、国民が具体的に政治に対してどう思っているか、どういった生活の課題を抱えているのかも伝わらない。お互いに信頼していないから対話の機会が増えることもなく、結果的に良い政治も生まれず、また信頼度がさらに下がり、国民も政治に参加しなくなるといった悪循環が続いているなとずっと前から感じていました」
日本の国民と政治との関係性を憂える室橋氏が、今の活動につながる大きなヒントを得たのがスウェーデン訪問時に見た選挙小屋だった。
「2022年の9月にスウェーデンで4年に1度の総選挙があって一週間ほど視察をしに訪れました。もともとウェブや本を通して取り組みがあること自体は知っていたのですが、実際に訪れてみたら一つのエリアだけではなく、日本でいう山手線の全ての駅に選挙小屋があって、どの駅を降りても選挙小屋が立ち並んでいたんです。本当に街中の至る所に政治家と対話ができる場所があることに驚きました。一週間のみの滞在でしたが、主要政党の党首にもほぼ全員会うことができて、それくらい党の幹部も当たり前に市民と対話する場に来ていました」
「中学校の授業に視察でお邪魔させてもらい、生徒の子たちに『政治家に会ったことがありますか?』と聞いたら、生徒全員が手を上げて、『一週間前に選挙小屋で文部大臣に会って、今の教育についての話を伝えた』と教えてくれた子もいました。また『日本ではスキャンダルや汚職など悪いイメージに政治家は持たれているけれど、皆さんは政治家についてどう思っていますか?』という質問には、『あくまで自分達を代表して政治をやっているから、すごく信頼しているし、自分達の声をちゃんと聞いてくれていると思う』と。
政治や政治家との距離感が決定的に日本とは違う。だからこそみんな期待して政治に参加するし声もあげる、いい循環が流れているのを感じました。まさにこれを日本でもやりたいと思い、今回の開催に至ったという経緯です」
政治家とはどんな生き物なのか?
「政治について考える機会を持てるって面白そうだなとおもって参加しました。気になる社会問題は色々あるけれど、そこから何を選んでどうしたらいいか分からないので色んな話を聞いて勉強したいなと思いました」
イベントに参加した理由を、大学で社会学を勉強しているという21歳の方はこのように話していた。また、「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が出展していたブースにいた学生は、イベントに参加してみた感想を下記のように話してくれた。
「初めてこうしたイベントに参加するんですが、結構高校生とか学生の方もいらっしゃるのに驚きました。表面では若者の政治参加はあまりないと言われていますが、こういうイベントに実際に来る若者もいるので、その人たちを筆頭にもっと多くの人が政治に関わっていくといいなと思いました」
会場には高校生や大学生、小学生程の子供を連れた親など、若者を中心に多くの人が訪れていた。傘を差しながらパネルディスカッションをじっくり聞く人。政治家とじっくり議論する人。小さな音で愉快な音楽が流れる場所で、冷えたらコーヒーを飲みながら、お腹が空いたらご飯を食べながら、皆その場にゆるやかに漂っていた。
自民党の選挙小屋には自民党青年局のメンバーが福島県から参加しており、こんな声も聞くことができた。
「雨なのであまり人が来ないだろうと思っていたけれど、想像以上に賑わっていてびっくりしました。自民党ブースでは福島県のお米など復興チャリティー関連の品々を販売し、販売金を寄付するといった活動をしているのですが、隣のブースである立憲民主党の議員の方もお米を買ってくださってとても嬉しかったです」
そして立憲民主党の選挙小屋では山岸 一生(やまぎし・いっせい)議員がこのように話していた。
「議員目線からしたら新鮮ですよね。普段見ることがない他の政党の活動を見られるので、自分や立憲民主党のことも客観的に見られるように思います。参加される市民の方々も、応援しようと思って来ているわけではなく、見てみたい・聞いてみたい・知ってみたいという気持ちでいらっしゃるので、非常にフラットな形でお話が出来ています。
普段行う街頭演説は、どうですか?いかがですか?というこちらからのお訴えが主で、基本的には一方通行です。でもこのイベントにおいてはコミュニケーションが双方向で、さらに僕らは受け身です。ブースにいらっしゃる方を待って、お話を聞かせてもらうという。新鮮ですよね。むしろこういうことを政治の当たり前の風景にしていかないといけないのではないかなと感じています」
実際にどういったトピックについてお話したのか伺うと、こんな反応が返ってきた。
「生活保護のお話や北方領土の問題など、話題は本当に色々です。普段政治家が考えている政策とは違う関心や思いがあるんだなというのを感じました。ただ実は意外と、政策について何か聞きたいという方はそんなに多くなかった印象です。それよりはむしろ、『政治家ってどんな人?』とか『立憲民主党はどんなことやっているの?』などの質問が多く、よく聞かれたのは経歴です。『何をしてたんですか?』『僕は新聞記者でした』というような。政策よりむしろ、『政治家はどんな生き物なのか?』というところにご関心が強かったように思います」
確かに筆者自身も、政治家の方と面と向かって話をしたのはこれが人生で初めての経験だった。正直、話しかける前は取材とはいえ、ひどく緊張していた。恐らく日本人の多くが政治家と話をした経験を持たないのではないだろうか。そこで政治家という生き物を知ろうと、場が打ち解けてきたところで、こんな質問を投げかけてみた。
Q.「好きな食べ物はなんですか?」
0.5秒経たずに瞬時に返答があった。
A.「おそばとカレーです。どちらもすぐ食べられる。カレーは飲み物ですから」
小学校の時に同じことを言っている友達がいた。その子は飲むようにカレーを食べて、我先にサッカーコートに走って行ったっけ、などと思い返した。政治家だって同じ人間だ。そう思うには、やはりフラットに話をする機会が必要で、好きな食べ物や嫌いな食べ物だって質問できる関係が必要なのだろう。
「以前すごく嬉しいことがありました。街頭演説の後に、高校生の方が話しかけてくれて色々伺ったんです。お話の後に『なんで話しかけてくれたんですか?』と聞いたら、『これまで駅前でいっぱい政治家を見てきたけれど、山岸さんが一番話しかけやすそうに見えたんです』と言ってもらって、それがすごく嬉しかったんです。やっぱりそうだよね、言いたいことを言える関係じゃなきゃだめだよねと思いました。
ただ実際当選して国会で活動を始めてみると、政治家が主に拠点としている永田町ってすごく狭いところだし、国民から距離があるところなので、気をつけないと自分もそこに染まっちゃうなという感覚が常にどこかにあるんですよね。今日この場に来てみて、やっぱりこんな風に近い距離でフラットに話せる機会をもっともっと増やしていかないと、政治は変わらないなと改めて思いました」
このほんの5分ほどの会話から、筆者の政治との距離がぐっと縮まるのを感じた。長い時間はいらない。ほんの少しの関わりからでも、関係は変わってくるのだ。
素直に対話ができる場の重要性
ステージエリアでは前述したパネルディスカッションに加え、イベント参加者が若手社会活動家との対話に参加できるラウンドテーブルと呼ばれるセッションも行われていた。
我々が参加したイベント1日目では、気候危機に対して声を上げる若者を中心とした活動「Fridays For Future(以下、FFF)」の日本のメンバー数名と気候変動について話す参加者の姿が見られた。
「気候変動に対する国の対策は十分だと思いますか?」といったFFFメンバーの問いかけに参加者は「全く対策が足りていないと思います。環境問題などが気になり始めて、街頭演説をする政治家に時折話しかけるようになったのですが、ある政治家に環境問題の対策について尋ねると、はっきりと環境問題よりも経済に関する政策を重視していると言い切りました。とても不安になりました」と答える。続いて、「でも知人の自治体議員の方と話していたら、『自治体単位でまずは実行して、その既成事実をもとに国の政策に派生させていく。』と言っていて『なんだか出来そう!』と希望を感じました」といった発言も出た。
「気候変動に限らず、とにかく安心安全な環境で社会問題について素直に対話する機会が全くない。そういう場を増やしていくべきな気がする」「環境問題とかって、詳しく知識がないと話しちゃいけない感じがする」という発言に対してはFFFメンバーが「確かにそうですよね。そういう意味ではFFFは話せる場所だと感じます。ここにいる3人も高校2年、3年、大学1年と年齢もバラバラだけど、タメ口でフラットにいつも話しています」と返していた。
気候変動に限らず、このように素直に話せる対話の場がいたるところに増えていくことが、民主主義を正常に機能させるためには非常に重要なのではないだろうか。
日本にはやはり、こういう場所が必要
2日間、日本初の民主主義のお祭りの開催を終えた感想を日本若者協議会・代表理事、室橋祐貴さんに伺った。
「2日とも雨で、特に二日目は土砂降りで、もう少し風が吹いていたら中止になりそうな状況でしたが、結果的に2日間で約3000人程の方が来場してくださいました。もともと想定していたのは晴れた日で700人程だったので、想像以上に参加してくださって、やっぱりこういう場所が必要だなというのを一番感じました。若い人も多かったですし、東京都外から参加してくれた方もいました」
「全政党に感想を聞けたわけではないのですが、自分たちを普段支持していない有権者が来てくれて、素直な思いや疑問をぶつけてくれたので非常に良い機会になったという声は聞きました。今回、各政党の学生部の皆さんに選挙小屋に居ていただいたのですが、イベントの最後に全党集まって集合写真を撮っていました。これまでは他の政党の学生部と交流する機会はほとんど無く、政党が違うと敵と味方のように断絶している感じがあったのですが、やはりアプローチ方法は違えどみんな目指しているところは同じで『日本を良くする』ということなので、とても仲良くなって連絡先を交換していましたね。学生部に限らず政党同士の対話が広がったというのはみな喜んでいた点でした。またすぐやって欲しいとみなさんおっしゃっていましたね」
今後の展望を聞いてみると下記のように返ってきた。
「先ほどもお話したようにスウェーデンに視察に行った時に、至る所に選挙小屋があることにすごく衝撃を受けたので、来年は複数都市で開催したいと考えています。また、北欧だと学校と連携して宿題で選挙小屋に行き、各政党の話を聞き比べるといった取り組みをしているのですが、次回は学校と連携して主権者教育の一環としてこうした取り組みも行っていきたいと思っています」
編集後記
父親がテレビで政治のニュースを見ていると、何故こんなにつまらない番組を見ているのだろうと思うほどに政治や社会情勢に興味がなかった筆者だが、一度気になって調べ出してからは、北欧諸国の政治との距離感の近さや豊かな民主主義の姿に嫉妬を覚え、日本が彼らのようになれるイメージも全く持てぬまま、課題意識だけを抱き続けていた。
しかし、今回この民主主義ユースフェスティバルに参加して、希望の光を見たように感じた。日本と政治の距離感が変わる可能性は、ある。ここから始まる日本の民主主義の変化に期待をしながら、今度街頭演説をしている政治家の方を見かけたら、勇気を出してまた聞いてみようと思う。
「好きな食べ物はなんですか?」
【参照サイト】民主主義ユースフェスティバル 公式サイト
【参照本】北欧の幸せな社会のつくり方-著あぶみあさき
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