ウガンダ出身の子どもたちのダンスグループ、Triplets Ghetto Kids(以下ゲットーキッズ)が、イギリスのオーディション番組ブリテンズ・ゴット・タレントで「ゴールデンブザー」をパフォーマンス中に獲得した。各審査員が1回だけ押す権利のあるゴールデンブザーは、ステージに上がった者が無条件に準々決勝に進出できるボタンで、優れたパフォーマンスにのみ送られるものだ。
世界的に有名なポップ・ミュージックに、ウガンダのランギ族の求愛ダンスや、バニャンコレ族の牛踊りのステップを組み合わせた、オリジナリティ溢れるゲットーキッズのパフォーマンスは審査員と観客を魅了し、多くの反響を呼んだ。「ゲットー(※1)生まれの子どもたち」の躍進である。
※1 スラム街などの貧困地区のこと。もともとは、ヨーロッパの都市でユダヤ人が強制的に住まわされた居住地区のことを指す。
「ゲットー」というからには、複雑な事情も持つ子どもたち。彼らの住むウガンダには、何十年にもわたって内戦や不安定な政治情勢によって苦しめられた過去がある。さらにマラリアやAIDSといった病気の蔓延により、多くの若い命が奪われてきた。
世界銀行が公表しているデータによると、1日2.15ドル(2017 年の購買力平価)以下で暮らすのは、人口のうち42.2%。また、高学歴でも雇用先が少ないことから、80%近くの人が定職についておらず、生活が安定しない状況に置かれているという(※1)。
そんな中、子どもたちの未来を守ろうと動いたのが、現地に住む数学教師のダウダ氏だった。ダウダ氏自身も、もともとはストリートチルドレンで、学校に行けなかった過去をもつ。しかし偶然、スポンサーとなる人に出会えたことから、将来、同じことを別の子どもたちにすると約束を交わし、2007年から孤児を含む家のない30人の子どもたちのためのシェルターをはじめた。それが、ゲットーキッズの原点だ。
この投稿をInstagramで見る
団体名である「Triplets Ghetto Kids」のTriplets(トリプレッツ)は三つ子の意味で、「Dance, Drama and Music」がグループの三本柱であることから名付けられた。ダウダ氏は、アートの力が明るい未来をつくることを信じている。
だからこそシェルターとして食べ物や教育などの基本的なニーズを満たすほか、ダンスやドラマ、音楽のレッスンといったアートに触れる機会も提供しているのだ。スキルがすぐに反映される「アーティスト」の道を選ぶことで、貧困から抜け出すことを夢見る若者たちもいる。
2014年、ゲットーキッズの9歳から12歳の子どもたちがウガンダの有名な歌手、Eddy Kenzo の『Sitya Loss』の音楽に合わせて踊った手作りのダンスビデオがミリオン再生されたことを機に、ゲットーキッズは世界からの認知を得ていく。
2017年にアメリカ人ラッパー、フレンチ・モンタナとの共演で、ゲットーキッズがダンスを披露したミュージックビデオは15億回再生にまで及んだ。
コンゴの音楽に合わせて子どもたちが踊る動画では、アフリカの村、田園風景を表現した踊りに加え、コミカルに盗人の役まで演じている。これらのパフォーマンスには喜びや皮肉、人々の楽観主義といった要素が入り混じり、ありのままの姿で踊る幸福を表現している。
ゲットーキッズがブリテンズゴットタレントなど世界の大舞台でこれだけの反響を得たことは、ダンスの力は絶大だということ、そしてどんな環境にいても人生を変えるチャンスがあることを証明したことに他ならない。負の環境を強みに変えた力強いパフォーマンスは、今後も続いていくだろう。
※1 The World Bank – Uganda
【参照サイト】Inspire Ghetto Kids Foundation
【参照サイト】SO GOOD they got Bruno’s Golden Buzzer MID-PERFORMANCE | Auditions | BGT 2023
【参照サイト】Ugandan Ghetto kids make history at Britain’s Got Talent
Edited by Kimika