アートは誰のもの?盗まれた文化財だけを展示する、ユネスコの「バーチャル博物館」

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私たちは博物館で、世界各国から集められた貴重な作品を見ることができる。その作品が生まれた国に行かずとも、だ。博物館が保管している作品はどこから、どのような経緯で辿り着いたものなのだろう。

これまでの歴史の中で、戦時下における植民地からの文化遺産の略奪や、権力を持つ者による美術品の違法取引などは数多くおこなわれてきた。驚くべきことに、アフリカのサハラ以南の文化財は、植民地時代にヨーロッパ各国に略奪され、現在もその90パーセントがアフリカ大陸外に所蔵されているという。近年、ヨーロッパを中心にこの「持ち去られた」文化財をもとの所有国へ返還する動きが広がっている(※)

※ 例えば、ドイツはベルリン民族学博物館の所有品も含めて、ベナン王国(現ナイジェリア)のブロンズ像の返還を決めた。スコットランドのアバディーン大学もまた、ベニン王国のオバのブロンズ像を返還すると決定した。(参照サイト:アフリカ美術品の返還

2025年に文化財の所有権をめぐる議論がより活発になるであろう博物館が誕生する。

「Virtual Museum of stolen cultural objects (盗まれた文化財のバーチャル博物館)」と呼ばれるこのプロジェクトは、世界規模で盗まれた文化財だけを集めた博物館をつくり出すものだ。文化財の違法取引の影響に対する一般の人々の意識向上と、盗難品の回収を目的に、ユネスコ(UNESCO:国際連合教育科学文化機関)およびインターポール(国際刑事警察機構)をはじめとした団体が進めている。展示は、インターポールと連携することで、より広域な盗難品のデータベースが活用され、52,000点を超える盗難文化財をバーチャル空間で鑑賞できるという。

Image via Kéré Architecture / UNESCO

このバーチャル博物館は、サウジアラビアからの資金提供によって支援され、設計はブルキナファソ出身の新進気鋭の設計家、フランシス・ケレが担当する。

そんなバーチャル博物館は、なぜ生まれたのか。その背景にあるのは、文化財の所有権に関する議論だ。

イギリスのロンドンにある大英博物館は、この「文化財返還問題」を語る上でよく耳にする博物館だ。この博物館の所蔵点数はおよそ800万点と言われ、世界各地の歴史的に貴重な資料や作品が地域ごとのエリアに分かれて展示されている。この世界一有名な博物館の一部の所蔵品は不正に奪われたものであるとして、複数の国から返還要請が出されているのだ。

大英博物館のモアイ像(イースター島から返還を求められている)|筆者撮影

モアイ像

大英博物館内のロゼッタストーン(エジプトから返還を求められている)|筆者撮影

その中でも、ギリシャ彫刻の最高傑作として有名な、パルテノン神殿を飾った「エルギン・マーブルズ」を例に挙げたい。エルギンマーブルズは、19世紀にイギリスの外交官によって、ギリシャのパルテノン神殿から削り取られ、イギリスに持ち帰られた。ギリシャは不正な略奪であるとして、40年以上永久返還を求めているが、博物館側は拒否し続け、現在も大英博物館の所蔵品として保管されている。

博物館といった徹底した管理下で保管されていたことから、大理石に影響を与える大気汚染や酸性雨から守られたという意見や、盗難やいたずらによる破壊の心配がないなど、博物館で保管されることの優位性を示す意見もある。筆者もパルテノン神殿を訪れたことがあるのだが、外的要因により侵食された大理石が非常に多い印象だった。国によって文化財に対する意識や設備の差があることも文化財返還に反対する側の意見としてある。

バーチャル博物館の良いところは、ネットワークの環境さえあれば、誰でもどこからでもアクセスすることができ、保管場所という名の所有権に縛られることはないことだ。IDEAS FOR GOODでも以前紹介したゲームの中の検閲されない図書館の事例がわかりやすいだろう。

貴重な文化財も歴史的背景を紐解くと、実はきれいごとだけではないものだ。はたして、アートや文化はいったい誰のものだろうか。この革新的な博物館の中にその答えが見つかるかもしれない。

【参照サイト】UNESCOウェブサイト
【参照サイト】KERE ARCHITETURE
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Edited by Megumi

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