島根から“根のある暮らし”を提案する群言堂。いま知りたい「復古創新」とは?

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西荻窪のまちを歩いているとき、なんだか妙に惹かれる雰囲気の古民家があった。個人が住む一軒家のようでもあり、整えられた庭に開かれたスペースのような建物。中に入ってみると、そこにはゆったりとしたワンピースのような服や、日用品が並べられている。店内を見まわしていると、スタッフの方が(わざわざ)お茶を淹れて手渡してくれた。

ライフスタイルブランド「群言堂(ぐんげんどう)」。全国に30店舗展開しており、暮らしに寄り添った衣食住の製品、そして古民家や廃材、古道具を生かした店舗の空間づくりで “根のある暮らし”を提案している。

昔の暮らしから学び、未来のためのヒントを得たい。そんなことを考えた筆者は、今回西荻窪店を訪れて感じた「言いようのない心地よさ」のルーツを辿るべく、このブランドの発祥の地である島根県の小さなまち、石見銀山を訪れた。江戸時代の武家屋敷や代官所跡などが立ち並ぶレトロな街並みは、世界遺産にも登録されている。

石見銀山の街並み

今回IDEAS FOR GOODが話を聞いたのは、石見銀山での暮らしに根を張り、楽しみながら情報発信している「群言堂 根のある暮らし編集室」の編集室長・三浦類さん。店舗を巡り、まちをゆっくり歩きながら、移り変わりの早い現代を生きる私たちへのヒントを聞くことができた。

話者プロフィール:三浦類(みうら・るい)

三浦類さん愛知県出身。幼少期をアメリカ、南アフリカで過ごす。2011年、(株)石見銀山生活文化研究所に入社し島根県大田市大森町に移住。広報担当として石見銀山大森町のローカルメディア『三浦編集長』(現在は『三浦編集室』)を創刊し、本拠地・大森町の暮らしを住民目線で発信する。現在は(株)他郷阿部家に所属し、情報発信、地域へのゲスト受け入れとおもてなし、案内役などを担当。地域文化に根ざした「生活観光」に従事している。

「いつも通りの1日」を大切にする“根のある暮らし”

三浦さんが群言堂と出会ったのは、大学生のとき。東京で新聞記者を目指して就職活動し、せわしなく過ごすなか、ふとしたきっかけで群言堂の創業者である松場大吉さんと出会い、夏休みに1ヶ月ほど石見銀山に滞在する機会があったという。

「かなり人生観が変わりました。この1ヶ月は一度もひとりでご飯を食べることがなく、お休みの日には海や温泉にも連れて行ってもらって。『こんな場所に住んで働きたい』と思いました。それまでの就職活動では業務内容、つまり『何をするか』を重視していたのですが、いつのまにか業務そのものだけでなく『どこで、どんな暮らしをするか』もを大切にしたいと思ったんです」

「根のある暮らし編集室」の三浦編集長

「根のある暮らし編集室」の編集長・三浦さん

松場さんとの出会いから、群言堂に入社した三浦さん。ブランド全体を通して大切にしている“根のある暮らし”というコンセプトは、現在では自身が立ち上げた編集室の名前にもなっている。このコンセプトの意味について三浦さんは、単に地域の人々の生活に根付いているだけではないと語る。

「“根のある暮らし”は、ケの日(=普段通りの日)こそ大切にする考え方だと私は思います。実際、生きているとハレの日よりもケの日の方が圧倒的に多いじゃないですか。家や店舗に人を招くときだけ良く見せようと考えるのではなく、群言堂の製品を使うことで、普段から自分にとって一番居心地のいい空間を作っていきたい。そんな考えがスタッフ全体に浸透している気がします」

群言堂の商品は、日頃身に付ける衣服はもちろん、鍋やお皿などのキッチン用品、インテリアなど日常に寄り添ったものが多い。何でもない素朴な日をいかに楽しめるようにするか。そういった姿勢が、プロダクトや空間づくりにも表れているように思える。

群言堂の店内

店内の様子 Image via 群言堂

今、知っておきたい「復古創新」の価値観

「丁寧な暮らし」というと思い浮かぶのが、「古き良き時代の暮らしを取り戻す」ことだ。だが、きっと私たちは「昔の日本はすごかったんだね」と過ぎた日々をただ懐かしみたいわけでも、「そんな暮らしがしたいね」と立ち止まってたいわけでもない。

そんな風に考えた筆者にとってヒントになったのが、群言堂がよく使っている「復古創新(ふっこそうしん)」という言葉だ。古い知恵をたずね、新たな知見を得る「温故知新」にも似た言葉だというが、一体どんな意味だろうか。

「日本で昔から続いてきた良さを再認識して、ただ懐かしんだり先人から学んだりするだけじゃなくて、そこから常に新たな価値観を生み出そうとしていくことが復古創新です」と三浦さん。

温故知新が「過去と現在」に目を向けているとすれば、復古創新はその二つに「未来」の視点を加え、昔を認識して今を考えつつも、未来のために「停滞せずに」新たなチャレンジし続けていこうというわけだ。群言堂の創業者の一人である松場登美さんがこの言葉について書いたブログ記事にも「革新の連続の結果が伝統であり、革新継続の心は伝統より重い」の記載がある。

茅葺き屋根

Image via Tamotsu Fujii

自分たちの価値観を、空間でも体現する

店舗とまちを案内してくれた三浦さんの話を聞いていて、特に面白いと思ったのが群言堂の「空間づくり」に関するこだわりだ。本店は、いわゆるセレクトショップという感じで外に商品を展示したりしないし、大きな看板を出したりもしていない。石見銀山レトロな街並みによく馴染んでいる。

そんな本店の目の前にオフィスを構える編集室にも、ガラス張りの大きな窓がある。仕事場と、外(まち)との境目が曖昧だった。三浦さんいわく「まちの空気感を味わい、まちの人の機微を受け取りながら仕事ができる場所」だという。外界との関わりが少ない状態で、良い内容を書き続けることは難しい。普段自宅のデスクで記事を書くことも多い筆者としては、耳が痛い言葉でもあった。

三浦さんがいつも編集作業をしているオフィスからの眺め

三浦さんがいつも編集作業をしているオフィスからの眺め

石見銀山に暮らす人々は、昔から「物言う住民たち」だったと三浦さんは語る。細部までこだわった街並みの景観づくりについて、何度も行政とぶつかりながら、地域の良さを守ってきた。そんなまちに本拠を構える群言堂の店舗やオフィスなどの建物が、あまり主張せず景観に馴染むよう作られたのは自然なことだったと言える。

また、群言堂はまちのあちこちに「用途の決まっていない古民家」を持っていた。一人で黙々と作業をしたり、オンライン会議をしたり、社員で集まって仕事をしたり、窯で焼いたピザを食べたり、電波の届かない空間で交流をしたりと、そのときによって使い方は様々だという。

創業者の松場登美氏が以前、同社の取り組みを紹介する動画のなかで「日本の文化は融通がきくのが利点」だと話していた。群言堂が持つ宿のゲスト部屋の仕切りを変えたり、木造格子に板を貼った蔀戸(しとみど)を開けたり外したりできるなど、時と場合によって柔軟に変化できることに価値を見出しているのだ。空間設計全体を使って、何でもない日常を良くするための「余白」を体現している。

柔軟に形を変えられる、宿の部屋

柔軟に形を変えられる、宿の部屋 Image via 群言堂

宿での団欒の様子

宿での団欒の様子 Image via 群言堂

編集後記:変わり続けるということ

「数年後にまた来たら、店舗も宿も全然違う形になっていると思いますよ」

三浦さんが、取材の最後にこんなことを言っていた。古き道具を大切にし、続けていく価値観も持っているが、絶対に同じということはありえない。大地深くに根をはり、季節の移ろいによって葉の色を変えていく大樹のように、店もオフィスも絶えず変わり続け、新しいことに挑戦していく。そんな「復古創新」の価値観が、何気ない言葉にもあらわれていた。

【参照サイト】石見銀山 群言堂 公式サイト

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