「壁はいらない!」
「いろいろなルートで通り抜けたい」
「庭みたいな感じがいいな」
「宇宙船みたいな感じ!大きすぎず、すぐにどこに何があるか分かるような」
もしあなたが建築家だったら、こうした要望を聞いてどのような学校を設計するだろうか?
子どもたちの自由な発想が形になった、なんとも奇抜な見た目の学校がスペインに誕生した。マドリード郊外のレッジョ・スクールである。設計したのはスペインの建築家・Andrés Jaque(アンドレス・ジャケ)。彼は2歳から18歳までの子ども、500人以上に要望を聞きながら校舎のデザインを描いた。手すりの色を決めるために20時間も話し合うこともあり、合計で2年にわたる共同作業を経て完成された。
建物の外観はとてもユニークだ。ボコボコしたバターのような壁、ジグザグの屋根から突き出した煙突のようなダクト、ギョロ目のような丸窓、すき間から見える庭園。はじめて学校を見た子どもは「バターでできたロボットみたい」と言った。
教室の窓からは、昆虫、チョウ、鳥、コウモリなど、さまざまな生きものが集まる庭園を見ることができる。中庭には小さな温帯雨林があり、周辺には実験室や工房が配置されている。理科の授業で学んだ昆虫が、すぐ目の前の庭で飛び回っている。この空間では、植物や動物と共に生きる環境を感じることができるのだ。
建物の外壁は、天然コルクが壁に吹き付けられて全体が覆われている。バターのような見た目の正体だ。このコルクは、断熱材としての機能だけでなく、不規則な突起の表面に有機物が蓄積されるように設計されている。コルクの外壁は、やがて多くの微生物や昆虫、植物の生息域となり、建物全体から、自然のありのままを受け入れた生命力を感じられるつくりだ。
ジャケによると、通常の学校の建築は、子どもを監視し、均質であることを重視する傾向がある。一方、レッジョ・スクールは、そうではなく、自らの教育哲学に基づき、近代的な学校建築に徹底的にこだわった。
同校の教育は、戦後のイタリアで生まれた教育手法「レッジョ・エミリア・メソッド」の考え方に基づいている。レッジョ・エミリアの思想では、子どもたちを「教材を流し込む器」と見るのではなく、「自分が何を学びたいかを自分で決められる主体的な参加者」と見ている。この思想に基づき、設計プロセスでは子どもたちの意見が大事にされた。完成されたジャケのデザインは、この教育哲学を表現したものだ。
英ガーディアン紙は「この夢のような好奇心の神殿ほど、子どもたちが月曜日の朝を待ち遠しく思う学校はないだろう」「今世紀で最も独創的な学校建築のひとつ」
と称賛している。
学校は誰のためのものか?教育で最も大事なことは何か?その環境はどうあるべきか?という根本に立ち返り、哲学は大事に守りつつも、常識にとらわれずに自由に発想し、実際の形に落とし込む。
結果的に独創的なデザインになったが、単に表面的な斬新さや話題作りを狙ったものではない。レッジョ・スクールは、信念に基づいたイノベーションの形として、今後の学校のあり方を考えるヒントになるのではないか。
【参照サイト】LA ARQUITECTURA DEL COLEGIO REGGIO
【参照サイト】Reggio School
【参照サイト】Reggio Emilia Approach
【参照サイト】Rainforest? Turn left after the drawbridge! Inside Madrid’s eye-popping living school
【参照サイト】Así es el Colegio Reggio de Madrid, el centro escolar más vanguardista del momento
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Edited by Megumi