藍染の工程で出る廃水を、そのまま使ったスキンケア製品「WASTECARE™(ウェイストケア)」が誕生した。ドイツ発の日系繊維スタートアップ「AIZOME(アイゾメ)」とクリエイティブエージェンシーServiceplan Innovationが共同で開発し、2023年中に商品化する予定だという。
AIZOMEとは、日本の伝統である藍染をもとにした染色技術を用い、ベッドシーツや枕カバーなどの寝具を製造・販売する会社。その製造過程で出た廃水を、スキンケア製品にしてしまったというのだ。
同社の製品が寝具であることから「夜用美容液」というコンセプトで開発されたWASTECARE。通常の美容液のように、洗顔後に化粧水をつけた状態で使用することが推奨されている。手の平に3滴ほど美容液を垂らし、軽く伸ばしたあと、マッサージするように優しく顔全体になじませていく。同社の広報担当者によると、藍由来のため、緑茶のような爽やかな葉っぱの香りがするという。
とはいえ、廃水をそのまま使ったというところに抵抗を覚える人もいるかもしれない。もともと藍染は、藍と水のみで化学物質を一切使用しない100%オーガニックの染色方法。有害な物質が含まれていないため、万が一川に流れることがあっても問題ないとされる。正岡子規の俳句にも「一桶の藍流しけり春の川」とあるように、藍染に使われた廃水は、古くから川にそのまま廃棄していたという。
AIZOMEではこれまで廃水を畑に撒いていたが、藍由来の栄養に着目し、今回はその一部をスキンケアに転用することにしたそう。今回の製品も、全米湿疹協会やケンブリッジ大学からは、肌荒れを防ぐとの認証を得ている。オランダの非営利団体ZDHD(Zero Discharge of Hazardous Chemicals:有害化学物質排出ゼロ)の厳しい規制に従ってテストしたところ、AIZOMEの廃水には毒性がないことが明らかになった。
小瓶で詰められ、再利用された素材で梱包されている同製品。使用後はパッケージを分解し、各自でリサイクルに出すことができる。
AIZOME創業者のマイケル・メイ氏は、癌と診断された母が病院の化学物質を使用したベッドシーツで肌が荒れた経験から、オーガニックの布製品を作りたいと決意した。日本での生活を始め、同社の共同設立者である妻の武藤美沙氏に出会うとともに、日本伝統の藍染にも感銘を受けた。洗うことで藍の成分が抜け、薬効や色が落ちる藍染の弱点を克服すべく、染色時に超音波を用いる「AIZOME ULTRA」の技術を考案。これまで藍染師が手作業で行っていた作業を機械で自動化することに成功した。
藍染そのものは無害だとされているが、業界全体での課題は多くある。欧州議会によると、繊維産業は世界の水質汚染の約20%を占めているという。廃水を無毒化するなどの適切な処理が求められていくだろう。AIZOMEが目指す今後の展開は、同社の染色技術を他社でも利用したり、AIZOMEが染めた布を使ってさらに製造したりすることで、繊維業界全体の課題解決に向けて前進していくことだ。
日本伝統の藍染。昔ながらの技術は、自然にも人間にも優しいことから、社会課題の解決の鍵となるだろう。環境問題などの大きすぎる課題に立ち向かうとき、その小さなヒントはこれまで日本人が培ってきた知恵や文化の中に隠れているかもしれない。
【参照サイト】AIZOME – WASTECARE™
【参照サイト】European Parliament The impact of textile production and waste on the environment
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