車両を制限する「低排出ゾーン」は住民の健康を守る?ヨーロッパに見るメリットと課題

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イギリスをはじめとするヨーロッパ各国や日本などの大都市で、大気汚染への対策が進められている。大気汚染物質を多く排出する車両の進入を制限する「低排出ゾーン(Low Emission Zone、以下LEZ)」制度だ。今後さらに導入が加速しそうだが、果たして本当に市民の健康は向上しているのだろうか。

答えはYESだ。Lancet Public Health(ランセット・パブリック・ヘルス)誌に掲載された最新の調査によると「世界中の都市におけるLEZが、心臓や循環器系の問題を軽減する」ことが明確に示された(※1)。例えばドイツでは心臓発作が2〜3%減少、脳卒中については7〜12%減少した。特に高齢者の改善が大きく、44億ユーロ(約6,864億円)の医療費節約につながったと推定されている。

LEZと健康への影響に関する調査はこれまでにも多数おこなわれていたが、それぞれ前提条件が違っているため、単純な比較が難しかった。例えば、LEZの対象がトラックやバスのみなのか、あるいはタクシーや乗用車やバイクまで入るのか、などである。今回の調査では、全世界から集めた2,279件の調査結果を体系的に精査し、結論を導いた。

diesel car

Image via Shutterstock

LEZが健康を改善するという結果に、大きな驚きはないかもしれない。だが、LEZの導入を実際に進めていくことは思ったより簡単ではなさそうだ。

例えば、2019年から超低排出ゾーン(Ultra Low Emission Zone、以下ULEZ)を取り入れているロンドンでは、ULEZをさらに拡大させようとする政策に対し、市民から反対の声が上がっている(※2)。2023年8月末から拡大対象となっている5つの自治体は、2023年7月4日、高等法院に異議申し立ての訴えを起こした。昨今のインフレで生活費が高騰している中、さらなる経済負担は許せないとのことだ。ULEZの排出基準を満たす新しい車への買い替えは、市民に大きな経済負担を要する。

筆者が住んでいるオランダでも、比較的裕福な層が住む地域では、テスラなどの電気自動車やハイブリッドカーなどのエコカーを多く見かける一方で、裕福でない地域では、電気自動車は少なく、比較的年式の古い車が多い。LEZの拡大によって負担が増えるのはどちらか、想像するのは容易だ。

また、LEZの導入は主に先進国の大都市で広がりをみせてきたが、本当にこのシステムが必要なのは開発途上国かもしれない。世界的にみて、大気汚染にさらされている10人に1人は極度の貧困状態にあり、大気汚染によって病気になる確率が高いことがわかっている。貧困層が多く住む開発途上国も同様に排ガス対策が必要なのだ(※3)。しかし、安易にLEZを導入してしまうと経済の停滞や不便を強いるだけになってしまうため、同時に公共交通網を整備することが必要になる。

LEZが健康の改善に効果があると証明されたことで、大都市における排ガス規制を進めるという方向性が間違っていなかったことは朗報だ。ただし、政策を実際に進めるのは簡単ではない。弱者だけが割りを食うような状況は避けなければならない。

サステナブルな社会を実現する上で、経済面とのバランスをどう図っていくかは常にセットで考えなければならない。今後のLEZの動きはそのヒントになるのではないか。引き続き着目していきたい。

※1 Lancet Public Health: Health effects of low emission and congestion charging zones: a systematic review
※2 Reuters: London’s expanding clean air zone sparks economy-vs-environment fight
※3 World Bank Blogs: Air pollution kills – Evidence from a global analysis of exposure and poverty

【参照サイト】The Guardian: Low emission zones are improving health, studies show
【関連記事】排ガスの多い車はお断り。ロンドンが街全体を「超・低排出ゾーン」へ
Edited by Megumi

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