サーマルリサイクルが「リサイクルではない」と言われる理由
高いリサイクル率を誇ると言われる日本。特にプラスチックのリサイクル率は2019年時点で85パーセントにも及び、この数値だけ見ると世界屈指のリサイクル大国であるかのように思える。
実は、この「リサイクル率」の内訳の多くは日本で作られた「サーマルリサイクル」という概念が占めており、世界的には認められていないとの指摘がある。本記事では、サーマルリサイクルがリサイクルではないと言われる理由をわかりやすく解説する。
サーマルリサイクルとは?
サーマルリサイクルとは、ごみを焼却処理した際に発生する排熱を回収し、エネルギーとして利用すること。
日本全国のごみ焼却施設の約70%は何らかの形で余熱を利用しており、ボイラーで発生させた温水や蒸気を、近隣の施設の暖房や浴場、温水プールなどに活用している。
新潟県柏崎に拠点を置く産業廃棄物処理業者のシモダ産業株式会社は、廃棄物処理の際に出る排熱を活用し、国産バナナブランド「越後バナーナ」を栽培している。
▶ 雪国でバナナ栽培をする理由とは?排熱利用で地域を循環させる「越後バナーナ」の挑戦
サーマルリサイクルが行われる背景
一般的にリサイクルと聞いてイメージされる「廃棄物を他のものに加工して再利用する」ことは、マテリアルリサイクルと呼ばれる。しかし、ごみの中には汚れが付いていたり、複数の素材でできていたりと分類・仕分けに時間がかかるものや、製品の劣化によってリサイクル自体が困難なものもある。
また、これまでアジア諸国にプラスチックごみを「素材」として輸出していた日本だったが、中国のプラスチック輸入禁止やタイなど東南アジア諸国での輸出規制により、国内で大量のプラスチックごみを処理し、循環させる必要性も出てきた。
そういった課題を解決するために使われているのが、このサーマルリサイクルという手法だ。プラスチックは原油からできているためによく燃え、石炭・石油などの貴重な資源を使う代わりに利用できることにも注目されている。
実際、リサイクルのうちの何割が「サーマル」なのか?
一般社団法人プラスチック循環利用協会が収集した2005年~2019年のデータによると、廃プラの有効利用率のうち、常にサーマルリサイクルの割合が半分以上を占めてきたことがわかる。
たとえば、日本はプラスチックのリサイクル率を2019年時点で85%としているが、そのうち、60%はこのサーマルリサイクルだ。
サーマルリサイクルが「リサイクルではない」と言われる理由
サーマルリサイクルは、英語では「Energy Recovery(エネルギー回収)」や「Thermal recovery(熱回収)」と呼ばれており、リサイクルの概念に「燃焼」を含めてはいない。
しかし日本国内では「リサイクル」という言葉が使われており、さらにそれが全体のプラスチック有効利用率を大きく引き上げているため、一見して高いリサイクル率を誇るかのように国民に伝わっていることから、誤解を招くとしてメディアから批判の声があがっている。
サーマルリサイクルの問題点とは?
サーマルリサイクルの問題点としては、燃焼してしまうため、新たな製品の原料として用いることができないことや、各自治体によって処理施設の機能に差があり、同じ基準で燃焼できないこと、またプラスチック類を焼却すると発ガン性のあるダイオキシン類が発生することが挙げられる。
近年では800度以上の高温で完全燃焼させることでその発生を防ぐことができるというが、それでも微量のダイオキシンの発生は防ぐことができないとの指摘もある。また、燃焼後に残る灰には強い毒性があり、大量の鉛や水銀が生成されることもあるため、その点も今後考慮していく必要がある。
2022年現在、世界の潮流はリデュース(削減)だ。スターバックスやマクドナルドなどの大手飲食チェーンなどでも、プラスチックごみ削減目標を発表している。また、「設計段階から、そもそもごみを出さない形を模索する」サーキュラーエコノミーの考え方も欧州を中心として浸透しつつある。そんな中で、出た廃棄物を燃やして処理すればいい、という方法が評価されていないのである。
ちなみに、ごみを燃やすのではなく、交通機関やデータセンターなどから出た排熱を街の電気に利用する手法は海外でも行われている。
▶ 世界初、ロンドンが地下鉄の排熱を住宅やオフィスの暖房に活用
▶ 再エネで稼働するデータセンターの廃熱を暖房に利用するストックホルム
日本政府の動き
このような世界の潮流に対し、政府の定める「循環型社会形成推進基本法」では、廃棄物・リサイクル対策の優先順位を、このように定めており、サーマルリサイクルはあくまでもリデュースやリユースができなかった場合の廃棄物活用法という位置付けとされている。
上にあるほど優先度高
- リデュース(削減)
- リユース(再利用)
- マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル
- サーマルリサイクル(熱回収)
- 廃棄物としての適正処理
2022年4月に施行されるプラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律、プラスチック資源循環促進法)でも、使い捨てプラスチックをごみにしないために、小売店や自治体に対し「合理化(=有料化するなど、提供方法を工夫すること)」が求められている。
▶ プラスチック資源循環促進法、何が変わる?わかりやすく解説
まとめ
さまざまな問題を抱えるサーマルリサイクル。一方で、分別できない廃棄物を埋立地に放置しておくよりは有効活用できることや、化石燃料の使用を抑えることでCO2排出量を抑えられるといったメリットも挙げられる。
そもそものごみを削減することを念頭に置きつつ、サーマルリサイクルをより安全に行うための今後の技術開発にも期待したい。
【参照サイト】リサイクルシステム – 経済産業省
【関連ページ】サーマルリサイクルとは・意味
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