ネスレ、ウォッシュ疑惑のある「カーボンクレジット」でのオフセットを中止

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2023年6月、スイスに本社を置く大手食品メーカー・ネスレは、カーボンクレジットを使ってキットカットやネスプレッソなどの特定の商品ブランドのカーボンニュートラルを目指す取り組みを中止することを決めた。その代わりに、事業とバリューチェーンにおける温室効果ガス排出量削減に重点を置くという。

カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減量を、クレジット(排出権)として発行し、企業間で取引できるようにする仕組みのことをいう。ネスレの方針変更は、「カーボンクレジットを使ったカーボンニュートラルはグリーンウォッシュではないか」との疑義が欧米で広がっていることが背景にある。

企業がオフセットのために用いるカーボンクレジットは主に民間セクターが主導する「ボランタリークレジット」である。そのなかには、いわゆる品質が低い「ジャンクカーボン」が多く含まれており、グリーンウォッシュの疑いを招く原因となっている。そうした誤情報によって消費者の判断が揺るがされることがないよう、政府による規制強化や、誇大広告が疑われる企業に対して訴訟が行われている。

航空業界では、この4月にKLMオランダ航空がグリーンウォッシュを理由に訴えられたのに続き、5月には米国で「世界初のカーボンニュートラルの航空会社」を標榜していたデルタ航空が訴えられた。両社ともカーボンオフセットをマーケティング目的に利用していたのが共通点だ。カーボンオフセットとは本来、どうしても削減しきれない温室効果ガスの排出量を相殺するために、カーボンクレジットを購入したり、自然保護のプロジェクトに出資したりすることを指す。

ボランタリークレジットは発行機関やプロジェクトの内容、地域、発行年などによって発行量や価格が異なる。そのため、どのクレジットを買うべきか判断が難しかったり、メディアや環境活動家などからその信頼性について疑問が投げかけられたりしていた。こうした課題を解決するため、国際金融協会によって立ち上げられた「ボランタリー市場拡大のためのタスクフォース(TSVCM)」や、ボランタリークレジットの信頼性評価を行う国際団体のICROAなどが、クレジット市場や品質基準の整備を試みている。

クレジットの品質基準の中でも、特に重要なのが「追加性」と「永続性」だ。「追加性」とは、プロジェクトを実施することで、プロジェクトが実施されなかった場合よりも炭素排出が削減されることを保証する原則だ。ただし、プロジェクト運営機関がベースライン(プロジェクトを実施しなかった場合に想定される炭素排出量)を過大に算定することにより、過剰なクレジットが発行されるリスクがある。

一方、「永続性」とは、いったん削減・除去した温室効果ガスが大気中に戻らないことを保証する原則である。二酸化炭素が再放出されてしまったり、吸収量が減少してしまったりする可能性がある森林クレジットのなかには、この永続性が十分に担保されていないケースがあるため、オフセットを目的に購入する場合には削減量を保守的に見積もるなど慎重な検討が必要である。

これまで拡大を続けてきたボランタリークレジット市場であるが、グリーンウォッシュに対する懸念により、2022年の発行量は前年比微減となった。しかし、ポイントは、カーボンクレジット自体が絶対的な悪と言うことではなく、自社の温室効果ガス排出量をオフセットする目的に品質の低いクレジットを利用すべきではないということである。

大手広告代理店・博報堂による国内統計では、買い物の際に「環境や社会貢献活動に積極的な企業の商品を買う」消費者は全体では43.9%、70歳代に限ると59.6%に上るという(※)。気候危機が叫ばれ、世界各地で異常気象による被害が報告されている今、企業には、こうした人々のエシカル消費志向を裏切らない広告宣伝や、より確実な脱炭素計画の実行が求められている。

※ 「生活者のサステナブル購買行動調査2022」レポート(博報堂)
【参照サイト】Does carbon offsetting do more harm than good?(Carbon Market Watch)
【参照サイト】Nestle Puts KitKat Carbon Neutrality in Greenwashing Graveyard(Bloomberg)
【参照サイト】Nestlé’s 2022 Climate risk and impact report
【参照サイト】カーボンプライシングとカーボンクレジットを巡る国内外の動向(みずほフィナンシャルグループ)
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Edited by Masae Tago

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