進むテクノロジー活用。カーボンオフセット市場の現在地を探る

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イギリスのガーディアン紙は、世界で初めて化石燃料に関わる広告掲載を禁止するなど、気候変動に立ち向かう姿勢を積極的に打ち出しているメディアだ。

そんな同紙が、国際的なカーボンオフセット基準管理団体である米Verraのメソッドによる熱帯雨林クレジットの90%以上が無価値であるとの調査結果を発表した。それに対しVerraが猛反論、関係企業がオープンレターを公開するなど議論を呼んでいる。

カーボンオフセットとは?近年ではボランタリークレジット市場が拡大

近年、脱炭素化の手段として世界中で行われている、カーボンオフセット。カーボンオフセットとは、企業などが経済活動によって発生するCO2などの温室効果ガスの量を認識し、可能なだけ削減するなかで、それでも削減しきれない分を、他の場所での温室効果ガス削減・吸収活動で埋め合わせて相殺することをいう。再生可能エネルギー導入、森林管理など温室効果ガス排出を削減・抑制するプロジェクトをクレジットとして認証し、そのクレジットを売買するのが一般的だ。

特に近年では、民間事業者によるボランタリークレジット市場が拡大している。ボランタリークレジットは、法的拘束力がないかわりに制約が少なく国際取引も容易で自由度が高い。事業における炭素排出量を自社の取り組みだけでゼロにすることは難しいため、カーボンニュートラル目標の達成や、環境活動をアピールする方法として、欧米企業を中心に活用が進んできた。最近は日本でも、大手コンビニエンスストアや旅行会社がカーボンオフセットの選択肢を提供するサービスを開始したことで認知度があがっている。

世界で注目が高まるにつれ、カーボンオフセットを取り巻く議論も沸騰

冒頭の話に戻ると、世界で最も市場に流通しているボランタリークレジットのVCSを運営管理しているのがVerraだ。VCSでは、森林や土地利用に関連するプロジェクトや、熱帯雨林保護による排出削減プロジェクトなど多様なプロジェクトが実施され、ディズニー、シェル、グッチ、セールスフォース、ブリティッシュ・エアウェイズなどが、クレジット利用企業として名を連ねている。もしVerraのクレジットが無価値となれば、環境活動のアピールどころか、グリーンウォッシュとして批判の的になりかねない。

ガーディアン紙の調査では、Verraが認証した熱帯雨林保護プロジェクトは、実際に保護が必要だとするベースラインを過大に推定したものであり、発行クレジットのうちの96%は気候変動への好影響はないと指摘している。また、2022年にケンブリッジ大学が行った調査では、Verraのプロジェクトは実際の4倍の規模のベースラインが見積もられていると分析している。保護すべき森林規模が大きければ、より多くのCO2排出量見通しをクレジットとして認証し発行することができる。

この報道に対しVerraは、「Verraは、第三者機関により厳密に評価された1,500以上のプロジェクトを認証しており、それらのプロジェクトを通して気候変動対策と生物多様性支援が必要な地域に数十億ドルを提供してきました。この資金は、厳しい基準とメソッドによってもたらされたものであり、今後も世界中の政府、科学者、地域社会と協力しながら取り組みを強化していきます」とコメントしている。

また、この論争は業界に大きな波紋を呼び、カーボンオフセット格付け企業のSylvera(シルベラ)は、業界関係の50社連名によるオープンレターを公開した。その中で、「カーボンクレジット市場だけでは気候変動問題は解決できず、すべてのクレジットが気候変動対策となるわけではない」と認めたうえで、「私たちは、カーボンオフセットやカーボン市場のすべてがグリーンウォッシングという意味ではなく、現在ある数少ない気候変動対策の金融メカニズムのひとつととらえている。企業はまず炭素排出を回避・削減する努力をし、回避できない排出を補うためにのみクレジットを使用することを積極的に推進する」とし、The Integrity Council(ボランタリーカーボン市場のための信頼性評議会)にて信頼性の高いカーボンクレジットの世界基準を設定するなど、業界としてクレジットの質の向上に努めていることを表明している。

オープンレター

ガーディアン紙の調査報告を受け、シルベラが関係者連名のオープンレターを自社HPで発表した

これまでにも、ボランタリーカーボンオフセットに関しては環境保護団体などから様々な批判があり、特に熱帯雨林保全に関するクレジットに関しては昨年のCOP27(第27回国連気候変動枠組条約の締約国会議)で議論しきれずに今年のCOP28に持ち越されるなど、世界でもルールを検討中だ。一方、現時点で大気中の温室効果ガス排出を減らす方法は森林や海など自然の力によるものが多く、その加速や工業技術の開発には資金が必要となる。

テクノロジーを活用してカーボン市場の発展を支える企業5選

COP27でアフリカ・カーボンマーケット・イニシアチブが発足し、日本でもGXリーグが本格始動するなど、カーボンクレジット市場の動きが活発だ。特に、テクノロジーにより信頼性が高く、安全で、拡大可能な取引が可能になってきているボランタリーカーボンクレジット市場は注目されており、世界的な需要は2030年までに15倍、2050年までに100倍になると予想されている。以下にボランタリークレジット市場で注目のベンチャー企業5社を紹介する。

1. 世界初のカーボンオフセット格付け企業「Sylvera(シルベラ)」

イギリス・ロンドンを拠点とするシルベラは、衛星画像や3Dレーザースキャンなどのデータを分析し、樹木にどれだけの炭素が蓄積されているかを推定、その情報を機械学習技術で解析し、森林の植林や保護を行うオフセットプロジェクトの有効性を評価する。2021年、テクノロジープラットフォーム拡張のため780万ドルの資金調達を完了。

2. 地球観測サービスのリーディングカンパニー「Planet(プラネット)」

アメリカ・サンフランシスコを拠点とするプラネットの創業者は、元NASAのメンバー3人。200基の人工衛星から地球の全領域を毎日撮影し、精度の高い解析データと機械学習を活用した分析を提供する。農業、エネルギー、防衛産業から森林破壊のモニタリングまで、衛星データによる幅広い解析データ分析をおこなう。2021年12月に上場。

3. 衛星画像やLiDARを活用し気候変動課題の解決を目指す「Archeda(アルケダ)」

日本・東京に本社をおくアルケダは、日本の宇宙ベンチャーsorano me出身の創業者が気候変動課題の解決を加速するため2022年に新会社を設立。衛星画像やリモートセンシングデータを用いた独自の解析技術で、森林のCO2固定量の推定や森林破壊の検知などをモニタリングできるサービス「Green Insight」を開発する。農家が持つ森林資源の衛星データを活用したカーボンクレジット化の実証事業に参加し、自然資源を活用したカーボンクレジット事業にも進出する計画。

4. ESGコモディティの取引所「Xpansiv(エクスパンシブ)」

エクスパンシブは、オーストラリアの商品スポット市場CBLと、アメリカのESG商品プラットフォームXpasivが2019年に統合した企業。炭素・エネルギー・水などの環境商品を評価・交換できる市場インフラを開発し、ボランタリーカーボンオフセット、再生可能エネルギークレジット、低炭素燃料の市場データなどのサービスを提供している。2023年1月に、サービス拡大とテクノロジープラットフォーム拡張のため1億2,500万ドルの増資を完了。

5. 新しい炭素クレジット決済プラットフォーム「Carbonplace(カーボンプレイス)」

イギリス・ロンドンに拠点を置くカーボンプレイスは、カナダ帝国商業銀行、ブラジルのイタウ・ウニバンコ銀行、イギリスのウエストミンスター銀行など銀行連合が2021年に発足、2022年にはUBS、スタンダード・チャータード銀行、BNPパリバ、BBVA、SMBCが創業銀行として参加。

ブロックチェーン活用のカーボンクレジット国際決済プラットフォーム「Carbonplace」は、イーサリアム関連技術開発企業のConsenSys(コンセンシス)のイーサリアムプラットフォーム上に構築され、銀行を通じてカーボンクレジットの買い手と売り手を結びつける。2023年2月に、プラットフォームの拡張とチームの成長による炭素市場発展加速のため、4,500万ドルの資金調達を完了。

2022年に世界で発生した自然災害の経済的損失は3,130億ドル、そのうち気候変動の影響によるものは2,990億ドルという。世界各地で干ばつや猛暑、ハリケーンなど過去最大規模の異常気象が発生する中、地球温暖化の進行を抑える社会全体の脱炭素化が緊急に求められている。今後もカーボンクレジット市場の動きに注目だ。

【参照サイト】Aon「Weather, Climate & Catastrophe Insight」
【参照サイト】ガーディアン紙「Revealed: more than 90% of rainforest carbon offsets by biggest certifier are worthless, analysis shows」
【参照サイト】SourceMaterial「The world’s biggest companies, from Netflix to Ben & Jerry’s, are pouring billions into an offsetting industry whose climate claims appear increasingly at odds with reality」
【参照サイト】Verra「Verra Response to Guardian Article on Carbon Offsets」
【参照サイト】Sylvera「Carbon market stakeholders:Open Letter」

Edited by Erika Tomiyama

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