2018年、ストリート・アーティストのバンクシーが、オークションにかけられた作品を切り刻んだことが話題になった。バンクシーはオークションに否定的で、「アートを一部の富裕層が所有すること」に否定的だったと言われる(※)。
そんなバンクシーは2010年に、美術館のコモディティ化について「ギフトショップから出る/Exit through the Gift Shop(イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ)」というタイトルのドキュメンタリー映画を作成しており、アカデミー賞ノミネートで全米の話題にもなった。今回は「ギフトショップから入る/Enter through the Gift Shop」というコンセプトを持つ美術館を紹介する。
アメリカ・ネバダ州のブラックロック・シティには、一風変わった美術館がある。風変りな形のギャラリーを持つ謎めいた建物は、機械のようでもあり、生き物のようでもあり、抽象的で超現実的なフォルムでもある。
真っ白なキャンパスのように見える建物の上には、「ミュージアム・オブ・ノー・スペクテーターズ(以下、MoNS)」の文字がある。そしてその美術館には、名前通り“鑑賞者がいない”。来場者はまずギフトショップに入り、そこでお土産品を「買う」のではなく、展示会場に入る前に自らの作品を「つくる」ことが求められる。
MoNSは、来場者全員がアートを作り、展示するアーティストになる空間を作り出す“参加型”の美術館なのだ。
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自身の作品を持ち込んだり、ギフトショップで作った作品を展示したり、すでにある作品に手を加えたりすることで、来場者とともに作品を作り上げていく。
アートをただ受動的に鑑賞するのではなく、自分自身のクリエイティビティを解き放つものとして「体験」する。つまり、一人ひとりの来館者は消費者ではなく、ほかの来館者と作品を作り上げていくアーティストになることができるのだ。
ミュージアムは8つのギャラリーで構成され「社会正義」「未来」「地球とサステナビリティ」など、それぞれが異なるテーマを持っている。来場者自身が各テーマについて自身を表現することで、徐々にアート作品がつくられていくのだ。
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この美術館はBurning Man Projectの一部としてオープンした。Burning Man Projectとは、毎年アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠で開催される大規模なイベントで、一時的な都市を作り上げ、参加者が自由に表現し、共有し、体験する場を提供する文化運動である。
MoNSでは、「美術館とは何か」を問うのと同時に、カルチュラル・インクルージョンの範囲や、それが社会一般にどのような影響を与えるかという点についても、興味深い問題を提起している。現代のエリート主義的な美術館では、作品を鑑賞し、“消費”することが中心となっていた。しかしこの美術館では、一人ひとりのクリエイティビティが持つ力や、さまざまな人がかかわることで作品がつくられていくことのユニークさや楽しさがわかる。
最近では、アート・アクティビズムということばも注目されているが、アートは多くの人にとって身近で親しみやすく、非暴力的・平和的でありながら、人々の注目を集めることができる。普段は話しにくいトピックについても、アートを通して表現することで対話が生まれたり、新しい発見をしたり、変化のきっかけになるかもしれない。
※ バンクシーは、なぜ作品を切り刻まなければならなかったのか?(美術手帖)
※ Banksy Painting Self-Destructs After Fetching $1.4 Million at Sotheby’s
【参照サイト】The Museum of No Spectators
Edited by Erika Tomiyama