コロナ明け、観光客で溢れる欧州。迫られるオーバーツーリズム対策【欧州通信#17】

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今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「サステナブルなホテル」をテーマに、ヨーロッパを旅行する際にぜひ利用したいいま話題のホテルを紹介した。今回のテーマは「オーバーツーリズム」。夏を迎え観光シーズン真っ盛りのヨーロッパでは、各国が観光に制限を設ける動きも見られる。

【スペイン】”パリピの聖地”スペイン・マヨルカ島、ディナータイムにドレスコードを導入

イベリア半島の東、西地中海に浮かぶバレアレス諸島のマヨルカ島。美しい自然を持つ一方、ダイナミックなナイトクラブなども有名で、イビサ島と並んで”パリピの聖地”ともいわれており、近年は観光客のマナーの悪さが問題になっている。

そこで、マヨルカ島のPalma Beachに位置する11のレストランでは、2022年からディナータイムにドレスコードを導入。ノースリーブ、水着、ビーチサンダル、仮装、サッカーチームのユニフォームTシャツ、露天商から購入したアクセサリーや、金のチェーンネックレスを着用しての来店を禁止した。

昨年夏のバカンスシーズンより導入したドレスコードは、迷惑客の抑制に貢献した。今までビーチやナイトクラブなどでお酒を飲み、酔っぱらったまま来店していた客たちは、一度宿泊先に戻り、シャワーを浴びたり、身だしなみを整えたりしたあとで来店することになったからだ。

貴重なバケーションを思いっきり楽しみたい気持ちはみな共通だろう。しかし、滞在先では地元の人々の生活をリスペクトすることも忘れないようにしたい。

出典元: Gordon Bell / Shutterstock.com

【フランス】混雑を緩和する策は、入場制限と逆マーケティング

南仏マルセイユ近郊のカランク国立公園は、岩に囲まれた入り江が美しい自然保護地区だ。もともと、ロッククライミングやトレッキングの場所として国内外から人気が高かったが、インフルエンサーがビーチの様子を紹介し、Netflixドラマ「マルセイユ」のロケ地となったことで、1日に2,000人以上の観光客が訪れるようになった。

保護動植物への影響を危惧した観光当局は、人気が集中する入り江への入場を1日400人に制限することにした。また、公式サイトで「ビーチへのアクセスは険しく、夏は大混雑で設備も整っていないため、海水浴目的の場合は他のビーチに行くことをお勧めする」と混雑回避の対策を取った。その結果、人の足で踏み潰されて固くなっていた地面から、新しい草の芽が出てくるなど自然環境の改善が見られるようになったという。

観光大国フランスと言われるが、国内の20%の地域に80%の観光客が集中しているという。住んでみて実感するのは、長距離移動の休憩で立ち寄っただけの村でも、何かしら興味深い自然や史跡に出会うことだ。この規制を機に、まだあまり知られていない場所を開拓する旅も良いかもしれない。

Photo by Z. Bruyas – Parc national des Calanques Official website

【オランダ】オーバーツーリズムに独自の戦略で望むアムステルダム

アムステルダムは人口82万人の都市にも関わらず880万人もの観光客が訪れる、世界でも有数の観光都市だ。観光からの経済的恩恵を受ける一方で、オーバーツーリズムによるごみ・騒音や地価高騰、観光客による飲酒・薬物使用による問題が、住民の暮らしに悪影響をもたらしている。

この現状について、アムステルダム観光局代表Geerte Udo氏は「街や住民を尊重しない訪問者を歓迎することはできません」とCNNからの取材の中で語っている。対策としてまず、街の中心地に新たなホテルを開業することを禁止。観光税を値上げし、観光客向けの土産物店などの開業も禁止。

また、アムステルダム市議会は7月、オーバーツーリズム対策として中央区におけるクルーズ船の寄港禁止の提案を承認しました。公共の場での立ち小便問題については、見つかった場合現行法で140ユーロ罰金が課せられ、観光局がイギリスなどの人々に周知するキャンペーンまで展開した。

また、立ちション問題対策と街の有機資源循環とを両立するユニークな解決策、グリーン・ピーも導入。小便の栄養分が植物の肥料になる仕組みだ。また、バケーションレンタルの規制も強化。マリファナを合法的に吸うことができるコーヒークラブは、利用を住民だけに限定する措置も導入した。飾り窓(※国が管理する合法的な売春宿)の女性に敬意を払わず見世物のようにしているという理由から、現在までにRed Light District(赤線地帯)へのガイド付きツアーは全面的に禁止されている。

住民たちの暮らしを守る市の姿勢に、他の都市が学ぶことも多い。

アムステルダムの運河

Photo by Kozue Nishizaki

【ドイツ】オーバーツーリズムが顕在化しない、例外の国。その理由は?

「ドイツには全国的なオーバーツーリズムの問題はない」と一学術機関は発表しており、同学術機関の教授は「多くの街は、観光客の増加を望んでいる」と語っている(※1)

ドイツでオーバーツーリズムが顕著化していない理由として、訪問者数に対し宿泊施設・道路・駐車場などのインフラが十分に整備されていることなどを有力紙は挙げている(※2)。しかしながら、地元住民がオーバーツーリズムを懸念して、森林伐採を伴う観光インフラ拡張計画を阻止したドイツ南部の山岳地方の例もある(※3)

観光は、好影響も与える。「地元経済の促進」「街のイメージ向上」「文化保存への貢献」などがその例だ。筆者が住む地域にあるハイデルベルク市は、ドイツの観光都市の一つである。コロナ禍では観光客激減により、約200年にわたって営業してきた市内中心部のホテルが廃業するなど、観光業界は大きな打撃を受けた。加えて、街の歴史であり、誇りでもあったこうしたホテルの廃業に市民は大きなショックを受けた。そしていま、観光客が戻りつつある街の姿に安堵し、街の本来の姿をみている気もする。

地元住民と観光客との共存に焦点をあてて、持続可能な観光業を創成していくことが、求められている。

編集後記

オーバーツーリズムに対応する取り組みは、ヨーロッパ各地でその地域に合わせた方法で進められているようだ。観光地として人気なイタリアでは、政府が短期滞在向けの住居貸し出しを制限する法律を提案し、市民のあいだで賛否が分かれるなど議論を呼んでいるという。

夏の観光シーズンを迎えたヨーロッパ。入国制限が撤廃された日本でも、今後観光客が増えていくことが予想されるだろう。それぞれの国や地域が観光と市民の暮らしやすさに対してどのようにバランスをとるのか、引き続き注目していきたい。

※1 Weniger Akzeptanz von Touristen an deutschen Urlaubsorten
※2 Touristen unerwünscht?
※3 Pläne für Erlebniswelt in den Alpen gestoppt
【参照サイト】El código de vestimenta que impusieron once restaurantes de la Playa de Palma en 2022 vuelve este año
【参照サイト】Mallorca restaurants bring in dress code to curb antisocial tourism
【参照サイト】‘Don’t come to Amsterdam.’ Dutch capital tells rowdy tourists to stay away
【参照サイト】Italian government proposed draft law to clamp down on short-term accommodation

Written by Risa Wakana, Masae, Kozue Nishizaki, Ryoko Krueger
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。イベントでの講演や、アムステルダムの現地視察ツアーなどお気軽にご相談ください。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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