コンゴ民主共和国(以下、コンゴ共和国と区別するために「コンゴ民」とする)の首都キンシャサで、ごみを身にまとい、路上で踊り狂う集団がいる。ペットボトルや注射器を頭から足元までくくりつけた彼らはどこに行っても、見た人を圧倒し、すぐに注目の的となる。
彼らの名は「キンアクト」(Kinshasa in Actionの略)。2015年に一人のコンゴ人によって設立されたキンアクトは、単なるパフォーマー集団ではない。彼らはコンゴの人たちが直面している課題を認識させるために、「ごみ」という視覚的に分かりやすいツールを使っているのだ。
コンゴ民には、金やダイヤモンドなど膨大な天然資源がある。しかしその鉱物の採掘権を巡る争いや、民族間の紛争が長く続き、世界で最も貧しい国の一つとなった。現在も、市民を襲うこともある132の武装集団が存在し、避難民数は世界一と言われている。
またこの国では、貧困から脱却するためにも、鉱山や森林を利用した経済活動がさかんに行われている。例えば、「環境に優しい」電気自動車や携帯電話を生産するのに必要なコバルトは、コンゴ民が世界生産量の半分以上を占めている。アップルやグーグル、マイクロソフト、テスラ、デルなどの大手企業も、コンゴで採られたコバルトを使用していると言われているが、その裏では児童労働の問題もある。
学校に行く余裕のない幼い子供が、鉱山の過酷な現場で低賃金で働かされているのだ。さらに、ヨーロッパの石油やガス会社に向けて、熱帯雨林を油田にする採掘権がオークションにかけられたこともある。熱帯雨林の開発は、先住民族を立ち退きさせるだけでなく、環境破壊を及ぼしている。
こういったコンゴ民にあふれる課題に向き合っているのが、キンアクトのパフォーマーたちだ。彼らは破壊される森林と堆積されるごみを認識させるため、捨てられたペットボトルやタバコの箱を身にまとう。貧弱な医療施設を強調するために注射器を全身にまとい、HIVの啓発イベントではコンドームを利用して衣装を製作する。
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衣装に用いられる材料も、すべてごみ捨て場や、路上で見つかった家庭廃棄物である。
キンシャサで毎年開催される「キンアクト・フェスティバル」では、幅広い労働階級の社会問題に対する意識向上をねらうため、さまざまなエリアをまわっていく。路上でのパフォーマンスはもちろん、演劇や彫刻、絵画、詩といった芸術を子供たちに教えるワークショップも開催。芸術があまり身近でないコンゴ民では一躍有名となり、周辺国やヨーロッパへも進出している。
アフリカの多くの国では、環境や人権に関する教育が行われず、SDGsという言葉も浸透していない。そんな中、コンゴ民の人々は身なりに関心があるからこそ、このパフォーマンスが効果的だと理解している。
他にも、コンゴ民では「アフリカのお洒落な紳士たち」、サプールがいる。サプールとは貧しくてもファッションを楽しむ人たちを意味し、同国で90年以上の歴史を持つ。始まりは、植民地下で自分たちの社会的地位を高く見せるための手段として、ヨーロッパの正装を取り入れ始めたこと。ファッションを楽しむことで、「サプールの仲間は民族やアイデンティティが異なっても、みんなが平等である」と訴えかけているのだ。
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はじめは、社会的地位をあげるため、尊敬を得るため、見た目を美しく見せるために生まれたファッションが、今は世界に心の声を訴える手段に変わってきている。コンゴ民の知られざるムーブメントだ。
【参照サイト】世界に知られていない悲劇:コンゴ民主共和国(GNV)
【参照サイト】DR Congo::rubbish bins inspire Kinshasa performers(Africanews)
【参照サイト】Kinact:Festival Kinshasa in action in DR of Congo(Kumakonda)
Edited by Kimika