子どもができる政治参加を。大人の職探しや納税を体験する、ウィーンの「リアル人生ゲーム」

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この夏休みには、子ども向けのキャンプや体験イベントが世界各地で開催された。そのなかで、オーストリアの首都・ウィーンで行われた夏の子どもイベントがちょっとした話題になっている。

8月の5日間、ウィーン市が開催したのは、「子どものまち(der Kinderstadt)」と呼ばれるイベントだ。そこでは、子どもたちがロールプレイングゲームのように、興味のある職業に就いたり、政治に関わったりと、複雑な大人社会を実体験することができる。「体験型の人生ゲーム」とでもいえばよいだろうか。6〜13歳の子どもなら誰でも無料で参加可能だ。

イベント初日、13歳の子ども市長、9歳の副市長、そして本物のウィーン副市長がそろい、テープカットでオープニングを迎える。参加した子ども市民たちは住民登録し、パスポートと特別に作られた「通貨」を受け取る。まずはじめにやるのは、職探しだ。ジャーナリストや看護師、銀行員にごみ収集員など様々な職業を体験して通貨を稼いでいく。

クリストフ・ヴィーダーケア副市長と、小さな若い政治家たち

クリストフ・ヴィーダーケア副市長と、小さな若い政治家たち Copyright: PID/Christian Fürthner

稼いだお金は全部使ってもいいのだろうか?「子どものまち」でも税金の支払いは必須だ。将来のために預金するのも大事だろう。土地を買って家を購入することもできる。もちろん、お店でゲームを買って遊んでしまってもいい。ストリートでは自動車の代わりにゴーカートで疾走できるけれど、何事も自分で考えなくてはならないのが人生というものだ。

経済生活だけでなく、政治も大人の生活にとって大切な一部。「子どものまち」では、選挙が毎日実施され、市長や市議に立候補することができる。子ども議員たちは、法案を可決したり、どのように課税するかを決定したりと、政策決定の主体になることができるのだ。

イベントの中で、ときに子どもたちは大人の地元市議会議員事務所を訪問することもある。子どもメディアの記者団12名は、本物のウィーン市長を訪れ、1時間にわたって市長を質問ぜめにしたという。

実のところ、ウィーン市は、「世界で最も子どもと若者にやさしい都市」を合言葉に、子ども・若者が政策決定に参加するまちづくりをする「ウィーン子ども若者戦略2020-2025」を策定している(※)

子ども・若者の多様な視点を生かした施策を実現し、コミュニティへの帰属意識を芽生えさせ、公共への責任を持たせるなどがその狙いだ。2020年には、22,000人の様々な階層や人種の子ども・若者たちが1,300回以上のワークショップに参加し、市政に関わる一大プロジェクトが立ち上がった。

1992年にオーストリアが批准した国連「子どもの権利条約」は、子どもを大人の善意や保護の対象ではなく、自己決定の主体であるとしている。「人権都市ウィーン」(2014年に宣言)は、こうした「子どもの権利」をまっすぐに見つめ、大人が「子どものため」と押しつけるだけではなく、子ども自身が「自らのため」と決定した政策を地道に実現しようと努力し続けている。ユニークな人生キャンプは、そんな「子ども中心」チャレンジ都市・ウィーンの夏の一コマなのだ。

アイキャッチ:Copyright: PID/Christian Fürthner
Vienna City Administration (2020) The Vienna Children and Youth Strategy 2020 – 2025
【参照記事】子供による子供のための街づくり。都市運営を体験できるプログラム「ミニ・ミュンヘン」
【参照サイト】Rein ins Rathaus! Offiziell eröffnet
【参照サイト】Kinderpressekonferenz mit dem Bürgermeister
【参照サイト】In der Wiener Kinderstadt haben die Jüngsten das Sagen
【参照サイト】Vienna gives kids the reins of local government
【参照サイト】Vienna: A city for children, by children
【参照サイト】How Vienna involves children in shaping the city

Edited by Erika Tomiyama

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