【パリ現地イベントレポ】持続可能な未来に必要な「3つのゼロ」とは?課題解決への取り組みも紹介

Browse By

2023年9月5日、フランスのパリ中心部にあるブロンニャール宮殿で、社会課題や気候危機に対する具体的な解決策を共有し、行動につなげることを目的としたイベント「3 Zero World Forum(スリーゼロ世界フォーラム)」が開催された。

開会式では、パリ市のアンヌ・イダルゴ市長がスピーチを行い、直面する課題解決のためにすべてのステークホルダーが協力して取り組むことを呼び掛けていた。

フランスの歴史を感じる会場内では、さまざまな社会課題に関するトークセッションや、協賛企業・団体による展示ブースが設営されていた。各トークセッションはオンライン視聴もできるが、実際にイベントに参加し、志を共にする人々と会話をすることで発展する関係性や気づきも多いことだろう。

今年で15回目を迎えるという「スリーゼロ世界フォーラム」。14回目の昨年は、220名のスピーカー、1,850名の会場参加者、2,500名のオンライン参加者、55か国が参加したという。パリ在住の筆者が、実際に会場に足を運んで出会った、より公正で持続可能な世界を目指す人々とそのアイデアを、会場の様子と共にご紹介する。

国際NGOが提唱する「スリーゼロ」とは?

イベントの名称でもある「スリーゼロ」を提唱したのは、フランスの人道支援NGOのActed(アクテッド:Agency for Cooperation and Technical Development)だ。1993年に設立されたアクテッドは、現在世界に7,000人のスタッフを抱え、これまでに世界40か国で500以上のプロジェクトを行ってきた。

アクテッドは、約30年の活動で人道支援のほかにも基本的インフラ設置や、マイクロファイナンス、紛争防止のための市民教育や政治的安定化の支援など、そのプロジェクトの幅を広げてきた。必要な場所へ迅速かつ効果的に支援を行うアクテッドは、世界的にも評価されており、日本政府も2006年に、アクテッドのイラクにおける給水支援プロジェクトへ無償資金協力を行っている。直近のプロジェクトとしては、干ばつで食料不安や栄養失調に苦しむアフリカへの資金援助や給水支援、ウクライナ避難民への支援などがあるという。

そんなアクテッドが提唱する「スリーゼロ」は、国連が定める17の持続可能な開発目標(SDGs)を基礎としている。誰も取り残さない「排除ゼロ」、地球を守る「炭素ゼロ」、すべての人に公正な機会が与えられるための「貧困ゼロ」の3つのゼロを目指して、国や世代、セクターを超えて協力し合う「スリーゼロ・グローバル・アライアンス」の拡大を呼び掛けている。

毎年パリで開催している「スリーゼロ世界フォーラム」の運営は、アクテッドが2008年に設立した非営利団体Convergences(コンバージェンス)が担う。コンバージェンスは「スリーゼロ」運動のプラットフォームの役割も担い、イベントやワークショップ、出版物などを通して、社会に強いインパクトを与えるパートナーシップの構築を行っている。

普段は公開されていない歴史的建造物の内側

フォーラムの会場となったブロンニャール宮殿は、1826年に商業活動を一つにまとめる目的で設立されたパリの旧証券取引所だ。現在パリ市が所有し、運営はイベント専門会社に委託されており、会議やイベント以外では、一般公開していない。

天井画が美しいホールの吹き抜け上階では、フォーラムの6つの重点トピック(1.ビジネスモデルと社会的連帯経済、2.インパクト・ファイナンス、3.協力と不平等との闘い、4.気候変動対策と環境保護、5.責任とインパクトの測定、6.市民運動と若者のインクルージョン)に関するトークセッションが行われていた。

豪華なシャンデリアが印象的な会議室では、近年世界で注目されているサードプレイス(第三の場所)についてのトークセッションが行われていた。サードプレイスがSDGsにおいてどのような役割を果たしているか、また、その効果の測定方法や、支援について、専門家がそれぞれの知見を持ち寄って議論していた。

会場の参加者はフランス人が多いようだったが、オンライン配信と英語の同時通訳が用意されているため、世界から多くの人々がオンラインで視聴していることだろう。

地下の大会議場では、フランスのマイクロソフト社副社長や、大手相互保険会社MACIFの社長と、パリの市民団体Makesence(メイクセンス)の創設者による「経済の再構築」というトークセッションが行われていた。大企業のトップの話が聞けるとあって、500人以上を収容する会場の8割が埋まっていた。

背面の壁に旧証券取引所の名残がある会場では、オンライン向けのインタビューが行われていた。ここは普段、「La Place」と呼ばれる金融イノベーションを促進するスペースとなっている。12社のスポンサー企業と1,800人を超えるメンバーからなるこのフィンテック(金融ⅹテクノロジー)コミュニティーでは、年間160以上のイベントが開催されている。

3zero-world-forum

会場で出会った、課題解決に取り組む6つの企業・団体

会場エントランス近くのホールには、Solutions Village(ソリューションズ・ビレッジ)と称された展示ブースが設営され、約30の協賛団体や企業が出展していた。ホールの一角には、小規模のトークセッションやワークショップ、カフェスペースも設けられ、人の流れも活発だった。筆者が実際にソリューションズ・ビレッジでお話を聞いた6つの団体・企業をご紹介する。

Acted(アクテッド)

フォーラムの主催団体の一つである国際NGO アクテッドのブースでは、広報の方がプロジェクトの説明をしてくれた。2022年の活動では、世界42か国で596プロジェクトを実施し、約18万人を支援したという。

アクテッドでは、活動がSDGsにどのような影響を及ぼしたかを検証し、毎年その報告書を発行している。例えば、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の実績として、世界に最高発電量6,500キロワットの太陽光パネルを敷設したことが報告されている。

また、再エネを利用した観光振興プロジェクトでは、キルギスタンの家族に太陽光発電と円形型移動テントによる観光客向けビジネスの支援をし、約8年で36人が宿泊できる規模にビジネスを拡大させたという。資金やインフラを提供するだけでなく、現地の人々に経済的な自立を支援するのも重要な活動の一つだという。

Acted

3Zero House(スリーゼロ・ハウス)

「スリーゼロ」に焦点を当てた活動をする拠点として、アクテッドが提供しているのが「スリーゼロハウス」だ。現在、タジキスタン、フィリピン、リビア、スリランカ、チュニジアにコラボレーションスペースを設け、さまざまなステークホルダーがつどい、共同で課題解決のためのプロジェクトに取り組める場所を提供している。

スリーゼロハウスには、コワーキングスペースやオフィスも設け、社会・環境起業家向けのアクセラレーションや、ネットワーキング・イベント、専門家によるリーダーシップやソフトスキル開発のコーチングセッションも行っているという。展示ブースでは、タジキスタンのマイクロビジネス支援の取り組みとして、伝統的な刺繍を施したバッグやアクセサリーを販売していた。

3zero-world-forum

​Ville de Paris(パリ市)

イベントを後援するパリ市のブースでは、職員の方がパリ市の持続可能な開発目標や施策を説明してくれた。パリ市の気候変動に関する2030年行動計画では、市内の温室効果ガス排出量の半減や、エネルギー消費量を35%削減する事、再生可能エネルギーによる電力利用割合を45%(うち10%はパリ市内で発電)に引き上げることなどの目標に対する施策が定められており、来年のオリンピック開催も、その動きを加速しているという。2030年計画のゴールが見えてきた現在、2050年の目標に向けた行動計画を作成中とのことだ。

イベント当日は、最高気温が36度を超える残暑日だったため、職員の方と都市の暑さ対策の話題で盛り上がった。歴史的建造物が多いパリ市ではエアコンなどが普及しておらず、年々最高気温を塗り替える夏の暑さに対応するため、さまざまな施策をとっているという。たとえば、セーヌ川の水を利用した空調冷却システムの拡張や、アプリを使って住民に熱波到来の注意喚起、公共の場所に臨時の日よけや霧のミストを増設するなどの対策がある。

また、市内の緑化も促進しており、2026年までにパリ全体で17万本以上の木を植え、2030年までに市の50%を植樹地で覆う計画とのことだ。都市の緑化は、ヒートアイランド対策、大気汚染対策のほかに、市民の健康を守りストレスを軽減する効果もあり、パリ市長のイダルゴ氏が積極的に推進しているという。

Wenabi(ウェナビ)

2017年にパリで設立したNPOウェナビは、企業と慈善団体の懸け橋となるサービスを提供している。近年、企業の社会的責任が重要視されるようになり、CSR活動として慈善団体への寄付や社員のボランティア活動などに取り組む動きが拡大してきた。しかし、数ある中から慈善団体を選び社員を派遣する手続きや、企業と慈善団体のニーズのギャップなど、その動きを阻む課題も多い。ウェナビは、CSR活動の課題を克服し、企業と慈善団体をつなぐプラットフォームとなるサービスを提供している。

企業向けには、CSR計画のサポート、社員への啓発トレーニング、ボランティア活動先の絞り込み、実際に社員を派遣する際の時間や経費管理などを提供する。慈善団体向けには、広報活動による知名度向上や、資金・人材の確保を支援している。ウェナビは、これまでに10万人以上を世界69か国の2,000以上の慈善団体とつなげてきたという。関係するすべての人々がWin-Winになるウェナビの活動の広がりに期待したい。

Renaissance écologique(エコロジカル・ルネッサンス)

14世紀にイタリアで描かれたフレスコ画をヒントにした、現代版の社会教育プログラムを提供するのがエコロジカル・ルネッサンスだ。1338年、イタリア中部の都市シエナ政府は、文字が読めない人々に善政の効果を伝えるため、画家ロレンツェッティに絵画制作を依頼した。それが、現在もシエナの市庁舎の「平和の間」で見ることができるフレスコ画の「都市と田園における善政の効果」だ。

エコロジカル・ルネッサンスは、絵を使って視覚に訴える教育方法にインスピレーションを得て、現代版の絵画を使った社会派教育プログラムを展開している。企業や金融機関、教育機関、公的機関などに向けたワークショップやトレーニングでは、絵画の中に表された課題を24に分類し、それぞれの解決策を話し合う。

絵を利用したワークショップは子供にも分かりやすく、学校からの依頼も増えているという。絵に色を塗ったり、付箋でアイデアを張り付けたり、インタラクティブに楽しみながら社会問題について考えることができるプログラムは、年代や国を問わずアプローチできる画期的な方法といえるだろう。

L’éclap éditions(レクラップ・エディション)

レクラップ・エディションは、女性の権利や、ティーンエイジャー、環境問題、ジェンダーマイノリティーなど、社会派テーマのカードゲームを作成する出版社だ。グラフィックデザイナーとしてゲーム会社に勤務していたアクセル・ゲイ氏が、2021年に独立し、社会問題や環境問題に特化したオリジナルゲームを開発している。

ゲイ氏が下の写真で手にしているのは、地球温暖化の原因と言われる温室効果ガスがテーマのゲームだ。フランス国内の統計を反映したゲームは、ゲイ氏が発案からデザインまで手掛けたという。ゲイ氏は、「用意した商品が全部売れ、テーブルに残っている商品が最後です。もっと持ってくればよかった」と、予想を超える反響に驚いていた。今のところフランス語版のみだが、世界各国版の作成にも意欲を示していた。

まとめ

世界各国のSDGsの達成度を評価する「Sustainable Development Report」(持続可能な開発報告書)の2023年版(※)では、フランスのSDGs達成度は166か国中6番目(前年から1ランク上昇)だった。ちなみに、日本は前年から2ランク下がった21番目となっており、特に、ジェンダー平等や気候変動対策など5つの目標の達成度が低いと報告されている。

「SDGsが盛り上がっているのは日本だけ」などというメディアの報道もあるが、今回参加した「スリーゼロ世界フォーラム」では、多くの企業や団体が、SDGsを意識した活動を行い、成果を17の目標に当てはめて評価しているのを目にした。

筆者は昨年からパリに住んでいるが、たしかに日本に比べてSDGsのロゴであるカラーホイールを目にすることは少ない。しかし、食品のラベルや、公共の場所など、生活のあらゆる場面で環境負荷や二酸化炭素量が明示されており、自然と持続可能な行動を意識するようになってきた。このフォーラムへの参加申し込みも、会場までの交通手段の入力が必須となっており、参加者の移動における二酸化炭素排出量の計算に利用されるのだろうと思われる。

地球規模で解決に向け取り組むべき課題は壮大で、一つの団体や企業、個人の力ではどうにもならないように感じることもあるが、だからこそ、定期開催のイベントで、情報を共有し、方向性を確認しながら、ネットワークを広げていくことが大切になってくるだろう。誰も取り残さない「排除ゼロ」、地球を守る「炭素ゼロ」、すべての人に公正な機会が与えられるための「貧困ゼロ」の3つのゼロが実現する世界を目指した「スリーゼロ・グローバル・アライアンス」の拡大に、これからも注目していきたい。

(※)Sustainable Development Report 2023
【参照サイト】3 Zero World Forum
【参照サイト】Palais Brongniart
【参照サイト】La Place
【関連サイト】【パリ現地レポ】環境イベント「ChangeNOW」で出会った、注目の循環スタートアップ6社
【関連サイト】【パリ視察レポ】「脱成長」始まりの国フランス。市民に学ぶ「節度ある豊かさ」とは?(Beyond Circularity 2023)

FacebookTwitter