ニュージーランド北東に位置する島国、ニウエ。東京23区の半分にも満たない259平方キロメートルの国土を持つ島国が、その490倍もの海を守ろうと立ち上がった。
島を取り巻く広大な海はサンゴ礁や多様な海洋生物の住処であり、ほとんど手つかずの自然が残っているためサメやクジラ、イルカ、エイ、カメなどの保護区としても機能している。
しかし、その貴重な海の生態系が崩れ始めている。周辺地域で魚の乱獲がおこなわれ、海の生態系ピラミッドを保つサメなどの生き物が減少した結果、魚の総数が減っており、自宅消費のために魚をとるニウエの人々にとって日常生活に直結する問題となっているようだ(※)。こうした違法漁業に加えて、海洋プラスチックごみも海洋生物の脅威となり、対応が迫られる事態となっている。
これに対しニウエ政府は、Ocean Conservation Commitmentsという資金イニシアチブを設置し、長期的な海洋の保護に乗り出した。保護の対象となるのは、Niue Moana Mahu Marine Protected Area(ニウエ・モアナ・マフ海洋保護区)という12万7,000平方キロメートルもの広大なエリアだ。
支援を希望する個人や会社は、148ドル(約2万2,000円)を1口分として1平方キロメートルの海を守るスポンサーとなることができる。スポンサーには証明書が発行され、保全活動の様子を知ることができる年次報告書なども届く予定とのこと。
この取り組みで特徴的なのが、1口分で20年間にわたる保護に貢献できる点だ。人口約1,700人という小さな島国にとって、国民の力だけで広い海を守り続けることは容易でない。このように安定した資金を確保すると、長期の活動計画を立てることも可能になり、生態系に負荷をかけない保全活動に繋がるだろう。
ニウエの首相・Dalton Tagelagi(ダルトン・タゲラギ)氏は「国際会議で約束した二国間支援を待ち続けるのは、うんざりだ」と前置きしながら、Bloomberg Greenのインタビューで下記のように語っている。
2030年までに海全体の30%を保護するという国連の目標にもかかわらず、海洋保全の資金が不足している。この現状への失望から本取り組みが生まれた
今回のローンチでは12万7,000口分のスポンサー枠が設けられており、ニウエ政府自らも、1,700口──住民ひとりに対し1口のスポンサーになることを表明した。ほかにも、複数の非営利組織をはじめ、アメリカの実業家クリス・ラーセン氏などもスポンサーになることを表明している。
集まった資金はNiue Ocean Wide Trust(ニウエ・オーシャン・ワイド・トラスト)によって運用され、サンゴ礁の健康状態や魚の数のモニタリング、保全活動の評価、島内14の村における海岸管理計画の強化に活用される予定だ。
2023年6月には、国連が「公海」を保護するための条例案を採択したばかり。国を越えたさまざまな規約が生まれる一方で、具体的なアクションは各国に委ねられてしまうのが現状なのかもしれない。海に囲まれ気候変動の影響を肌で感じているであろうニウエのような国だけでなく、より大きな影響力を持った国々も主体となって、海洋保全に向けた協働が生まれることに期待したい。
スポンサーという言葉の語源は、ラテン語の「spondere(約束する)」に由来している。支援者は、ただ海洋保全にお金を出しているのではなく、これから海を守り続けていくと約束しているとも言えるだろう。そんな決意を示すことができる「スポンサー」の輪が広がれば、国際機関の支援に依存する必要はなくなり、国境を越えて市民自らの力で自然環境を守ることだってできるはずだ。
※ NIUE State of Environment Report 2019
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【参照サイト】Niue Announces New Initiative to Fund Ocean Protection | Government of Niue
【参照サイト】Ocean Conservation Commitments | Niue Ocean Wide NOW