もっと気軽に、心地いい結婚式を。「古着ドレス」のレンタルで彩る、唯一無二のウェディング

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幸せな日に花嫁を飾るウェディングドレス。近年は、結婚式場でドレスを借りるのではなく、自分で衣装を用意し、お気に入りの場所でオリジナルの式を開く人も増えてきている。ただ、そのドレスが数時間の役目を終えたあとどうなるのか。この記事では、あえてそこに光を当てていきたい。

再度使われることもなく、いずれ捨てられてしまうことの多いドレス。その行き先を憂いた合同会社CMYK代表・竹中南風さんが始めたのは、リユースのウェディングドレスを貸し出すサービスだ。

クローゼットで眠り続けるドレスを、次の幸福な誰かへ。オンラインでドレスを試着・レンタルできるサービス「muni DRESS GARAGE(ムニ ドレスガレージ)」を生み出すまでと、その背景にある竹中さんの想いを聞いた。

「muni DRESS GARAGE」竹中さん

muni DRESS GARAGEの竹中さん

多様化するウェディング事情

ここ数年、ウェディングの多様化が著しい。もともと主流だった「豪華で盛大なパーティーがよし」という価値観は少しずつ変化し、最近では、親族のみで小規模な食事会を行ったり、「フォト婚」と呼ばれる写真撮影のみを行ったりするカップルも増えている。さまざまな理由からウェディング自体をしない「ナシ婚」と呼ばれる層も多い。

ドレスに関して言えば、これまで一般的だったホテルや式場でのウェディングであれば会場と提携しているドレスを着ることもできたが、自分たちで手配した会場や屋外などでは、ドレスは自分で購入することになる。自分たちのイメージにも体型にもフィットした衣装探しは、どのような形であれウェディングをする人にとっては欠かせない工程だ。

一方で、大事な1着だからこそ価格も安くはない。物によっては何十万という値段で、たった1日しか着ることのできないドレスは、経済的な理由でウェディングを諦める要因にもなっている背景がある。

「素敵なドレスを着たいけれど、大金はかけられない」という花嫁と、「せっかくドレスを買ったけれど、その後の使い道がなくて困っている」という元花嫁。この二者をつなぐのが、現役のウェディングプランナーでもある竹中さんが運営する「muni DRESS GARAGE」なのだ。

muni

リユースのドレスでも“自分らしさ”は出せる

「muni DRESS GARAGE」は、リユースのドレスやスーツなどのウェディング衣装をレンタルできるサービスだ。時々行われるポップアップを除いて、現在のやりとりはオンラインが中心となっている。ウェブサイトで好みのドレスを選び、試着のために郵送してもらうことができ、気に入ったものがあればそのままレンタルする流れだ。「郵送のやりとりに手間はかかるけれど、オンラインならではの良さもあります」と竹中さんは言う。

「最近では、遠方の地域の方からの問い合わせも増えていて、住んでいるエリアに限らずに、気に入ったドレスを選んでもらえる良さがあると感じています。フリマアプリなどでも古着のドレスを購入することもできますが、試着ができないなかでは購入に勇気が要りますよね。『muni DRESS GARAGE』では試着の工程を入れているのが、安心できる部分かなと思います」

muni

さらに、「muni DRESS GARAGE」では、竹中さんを始めとしたウェディングプランナーがチャットで相談に乗ってくれるシステムもある。小物との相性などを相談しながら、一緒にドレスを選ぶことができるのだ。

「他のブランドも含めて、どんなドレスが好きなのかを伺っていくと『肩を出したくないなら、こんな形が合いそう』とか『刺繍が好きなんだろうな』と好みが見えてくるんですよね。特徴を捉えた上で、予算内でレンタルできる衣装をお伝えしています」

今後は、オフラインでの接客にも力を入れていくとのこと。誰でも好きな時に試着しに行くことができる倉庫(=ドレスガレージ)を整えて、衣装を常設しておく予定だ。

muni

リユースのドレスということは、必ず誰かが一度は着たものなわけだが、そこには必ず「唯一無二の着こなし」があると、竹中さんは語る。

「同じドレスだったとしても、髪型や小物のスタイリングで全然見え方が変わります。そもそも、佇まいそのものが全然違うんですよね。『こういうふうに着たい』と思いながらドレスを選ぶこと自体に個性が出るし、新品のドレスじゃなくても、自分の個性や特徴に合うものがたくさんあると知ってもらえたら嬉しいです」

並んだドレスのなかから自分にピッタリの宝物を見つけ出す感覚を、竹中さんはブランド名の「DRESS GARAGE」という部分に込めた。学生時代から古着を愛する竹中さんだからこそ、選び取るなかに見える個性を大切にしている。

「きれいに並べられた新品の服もすごく素敵なんですが、私は一点ものの古着の中から『わ、こんなものがあるんだ!』と掘り出し物を見つけ出す喜びがあると思ってて。あと、同じTシャツでも人によって着こなし方で個性が出るところも好きなんです。古着屋さんのような、倉庫みたいなところにウエディングドレスが並んでるのもいいんじゃない?と思って、ガレージという言葉を使いました」

muni

指定のボックスに入る4着程度であれば、一箱5,000円の手数料で試着依頼が可能。レンタルもドレスによって価格は異なるものの、購入に比べればかなりリーズナブルだ。竹中さんが「できるだけ手の届きやすい価格設定にしたい」と語る背景には、ある想いがあった。

「縛られず、楽しく生きたい」の先にウェディングがあった

「幼稚園で、友達とファッションショーをしていたんです。当時流行っていたデニムのスカートをみんなで履いて歩こう!みたいな簡単なものなんですが、当時から服も、みんなと何かを披露することも、好きだったんだと思います」

兵庫県出身の竹中さんは「子どものときから服が好き、ダンスや運動も好き、学校も友達も大好き」と、“好き”を追いかけ続けるような子ども時代を送った。それを「これはダメ」「言うことを聞きなさい」などと縛る大人はいなかったと話す。

明るく周りを巻き込んでいく素質は成長してもそのままで、大学ではいわゆる生徒会のような団体に所属。入学式や文化祭などをチームで運営することが好きだった竹中さんは、卒業後は東京のイベント会社に就職した。若手にも裁量がある会社の雰囲気は「縛られずにやりたい」という気持ちがはっきりしている竹中さんにとって動きやすい職場だった。

時代はちょうど、披露宴のような格式ばった1次会と、友人たちと楽しむカジュアルな2次会をあわせた「1.5次会」が流行り出した頃。さまざまなイベントに携わるなかで、竹中さんを魅了したのがウェディングだった。

「幸せな気分になれますよね。誰かの特別なタイミングに関わることができて、しかも喜んでもらえる。みんなで一緒に『おめでとう』と祝福する雰囲気がすごく好きだなって思います」

muni

竹中さんは社内でウェディングプランナーを希望し、2年ほどプランニングに奔走。会場の装飾やチームで動くことなどの得意を活かして活躍した。その後、新規事業本部に移動し、事業の立ち上げやサポート、業界全体の背景などを学びながらキャリアを積んでいったという。

いつの間にか集まったドレス。使い終わった後は?

ウェディングプランナーとして働きながら、友人たちのウェディングを手伝うことも多かった。早めに会場入りして装飾を手伝ったり、写真撮影の相談を受けたりするうちに「自分にできるウェディングってなんだろう」と考え始めていたところで、コロナが到来。大打撃を受けたウェディング業界で、竹中さんも休職せざるを得ない状況となった。一方、副業で引き受けていた「フォト婚」の依頼が増え、竹中さんは勢いのままに独立した。

「コロナ禍ではフォト撮影の需要がかなりあって、毎月撮影をしているような状態でした。新郎新婦の衣装は自分たちで用意するのが基本だったのですが、撮影が終わった後に『(このドレスは)もう着ることもないから、誰か他の人の撮影で使えない?』と言われ、引き取ることが多くなってきて」

撮影を手伝った新郎新婦やその友人、知り合いのフォトグラファー経由などでどんどん集まってきたドレスやスーツ。気づけば、竹中さんの家のクローゼットは、ドレスでいっぱいになっていた。

muni

「服が好きだからこそ、そのドレスも捨てられなくて。もったいないと思ったし、たしかに世間で一度使われたドレスってどうしているんだろうな、という疑問がふつふつと芽生え始めたんです。せっかくいいドレスを買ったのに一度しか着られなくて、あとはクローゼットに押し込むか捨てるしかない、という人たちが多くいることを知ってレンタルサービスをやってみようかな、と思い立ちました」

ウェディングを諦めてしまいそうな人たちへ

竹中さんは会社を設立し、正式に「muni DRESS GARAGE」をリリースした。そのときに掲げた想いは「もっと新郎新婦に寄り添うサービスを創れる」ということだった。

「ウェディング業界にいて、実際の価値よりも高値で売られているものがあることにも気づきました。知り合いに頼めば謝礼程度で済むものが、何十万円で売られていたり…… もちろん良い会社やサービスもあるので、選ぶのがダメと言っているわけではないです。しかし、そこにお金を使えない人たちもたくさんいますよね」

過去にウェディングを手伝った友人たちや、竹中さんの家族のなかにも「ドレスを着たいけど、お金はあまりかけられない」「子どもにお金を残したいからウェディングは難しい」と諦める人が多かった。彼らにも、新しい選択肢を提供できないだろうか──。

「有名な会社やプランナーのウェディングも素敵ですし、新郎新婦のことを大事にしていると思います。私の場合は、そういうところに手が届かない、こぼれ落ちそうな人たちに何かしてあげることが『自分にしかできない寄り添い方』なのかなと感じています。なにかしらの理由があって悩んでいる人たちに選択肢を届ける仕事がしたいんだと思います」

muni竹中さん

何かに縛られなくたって、工夫次第でいくらでも選択肢はある。「muni DRESS GARAGE」のブランドメッセージ“Choice is yours(選ぶのはあなた)”には、竹中さんの想いが込められている。

「何十万かけてドレスを買わなくてもいい。ウェディング業界への、ちょっとしたアンチテーゼのような意味合いもあります。ただ、それだけだと上手くいかないので、みんなで協力し合いたい。それぞれのポジションで、自分たちができることをしていけたらいいと思っています」

最近では、大手の会社から「ウェディングドレス購入後の提案に悩んでいる」という話も聞くという。それぞれの会社が、自分にできる選択肢で新郎新婦に寄り添っていけたら、ウェディング業界自体が大きく変わっていくのかもしれない。

最後に、竹中さんが独立時にSNSに残した言葉をシェアしたい。

「誰かの幸せな節目となる日に、誰かを『おめでとう。』とお祝いする場に、“目指すべきスタイル” など存在しないと、胸を張ってこの一瞬を楽しむのだ」

多様化された社会では、企業もサービスも人々に合わせて多様化されていってもいいではないか。その先では、誰もが縛られずに自分らしい選択肢を持つ、「唯一無二」のウェディングが生み出されていく。

【参照サイト】muni DRESS GARAGE
Edited by Kimika

執筆者:ウィルソン麻菜(まな)

ウィルソン麻菜さん「物の向こう側」を伝えるライター。国際協力を学び、身近なものの生産背景にある児童労働を知ったことをきっかけに、ものづくりについて考えるように。製造業や野菜販売の仕事を経て、現在では「背景を伝えることが、作る人も使う人も幸せな世の中をつくる」と信じて、作り手のインタビュー記事や発信サポートをおこなっている。■ SNS:X(旧Twitter)Instagram

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