市民が地元メディアを選んで“寄付”できる。民主主義を作るワシントンD.C.の新法案

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昨今、問題視されている「ニュース離れ」。英国ロイタージャーナリズム研究所によれば、世界で「ニュースを避ける傾向がある」と答えた人の割合は、2017年の29%から38%に拡大したという。「気分に悪影響がある」「信頼ができない」などが、ニュースを避ける主な理由だ(※1)

今、メディアは世界中で苦境に立たされている。それは日本でも同じだ。日本の新聞の発行部数は、1990年代には5,000万部を超えていたが、現在では、3,000万部割れ寸前のところまで来ている(※2)。また、紙媒体だけではなくネットのニュースサイトすら、閉鎖が相次ぎ話題になった。世界でもメディアの資金難は深刻化し、人員削減の嵐が吹き荒れているのだ。

そんななか、米国の団体「デモクラシー・ポリシー・ネットワーク(Democracy Policy Network)」が政策立案し、ワシントンD.C.の議員たちがメディアを救済する法案を提出する動きが活発化している。

それは政府がバウチャー(資金補助券)を発行し、市民67万人がそのバウチャーを使って自分の好きな地元の報道機関に寄付できるという制度だ。自治体は年間1,100万ドル(約16億5,000万円)を地元メディア救済のために拠出するという。

このシステムは、資金を受け取るメディアを政府ではなく住民が決めることで、ジャーナリストが政府から独立した立場を保持できるようにすることを目的としている。

実は、米国における公共メディアへの投資は、他国に比べて著しく低い水準であり、他の州でもメディア救済の動きが加速している。ニューメキシコ州では、コミュニケーション&ジャーナリズム(C&J)プログラムが州からの追加資金12万5,000ドル(約1,876万円)を受け、ジャーナリズムの次世代育成に力を入れている。また、カリフォルニア州では、州が資金提供する2,500万ドル(約37億6,222万円)のフェローシッププログラムが立ち上げられ、地域報道を支援している。

なぜ、こうした動きが起こっているのだろうか。そこには、メディアの衰退によって民主主義の根幹が掘り崩されるという危機感がある。デモクラシー・ポリシー・ネットワークは次のように米国のローカルニュースサイトAXIOSに語っている。

「私たちは、市場だけでは、民主主義において必要とされるレベルのジャーナリズムを提供するには不十分であると考えています」

市民の参加によって、民主主義に適したジャーナリズムを育てていくというバウチャー・デモクラシーの動き。メディアに限らず、NPO団体への寄付にバウチャーを使うなど、制度のアレンジもできそうだ。

そもそも「より質の高い」ジャーナリズムとは何か。バウチャー・デモクラシーは、それを求めていく市民のあり方をも問うている。

※1 Reuters Institute(2023)Digital News Report
※2 日本新聞協会公式ホームページ 新聞の発行部数と世帯数の推移
【参照サイト】目立つ「選択的ニュース回避」 日本が最多の「つながらない人たち」
【参照サイト】D.C. lawmakers to introduce new bill funding local news via vouchers
【参照サイト】Meet The States Using Public Funding to Support Local Journalism
【関連記事】デザイン人類学の知見は、ジャーナリズムに生かせるか?人類学者・中村寛さんに聞く【多元世界をめぐる】
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Edited by Erika Tomiyama

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