赤道直下に位置するインドネシア。高温多湿の熱帯性気候で、通年27~28度の気温が続く。乾季は湿度があまりなく、さわやかで過ごしやすいが、10月~3月の雨季は湿度も高くなり、ムシムシとしている(※1)。
そんなインドネシアの高温多湿な気候は、ハエが繁殖しやすい条件でもある。どこにでもいる虫に思えるが、ハエが媒介する細菌によって、腸チフス、コレラ、下痢など65種類以上の病気にかかることがあり、その存在を甘くみてはいけない。
ハエが媒介する細菌によって特に影響を受けやすいのは、子どもたちだ。インドネシアの学校の食堂は屋根や窓がないオープンエアであることが多く、ハエが食堂の中に入ってくることが珍しくない。また、注意しないといけないとはわかっていても子どもたちは食事に集中したり、友達と話したり、ちょっとした隙にハエが食べ物の上にとまる。少しの油断で、重大な病気にかかってしまうことがあるのだ。
そんな中、クリエイティブ・エージェンシーのInnocean Indonesiaと塗料メーカーDuluxは、この社会課題のソリューションとして、”学校の食堂を黄色く塗る”取り組みを進めている。一見課題解決に繋がらなさそうな印象を受けるが、本当に効果はあるのだろうか?
2社がハエが引き起こす課題の解決に向けてリサーチを行う中で、「ハエは黄色を嫌う」という興味深い研究があることが明らかになった。2012年にアメリカのフロリダ大学の研究者が発表した論文によると、ハエは白と青の光に引き寄せられるが、黄色は避けるということが示されていたのだ(※2)。
この研究結果を踏まえ、Innocean IndonesiaとDuluxは実験を行った。鮮やかな黄色に塗られたテーブルと、塗装なしのそのままのテーブルを用意し、どちらのテーブルの食事にハエが多く集まるのか調べたのだ。すると、ハエは塗装なしのテーブルに集まり、黄色いテーブルにはほとんど寄って来ないことがわかった。
このようなエビデンスに基づいて、食堂のテーブルやベンチ、壁を黄色に塗り替える「Project Yellow Canteen」が始まった。一面が黄色く塗装された食堂は、ハエが寄り付かず衛生的に食事をとれる空間を子どもたちに提供する。食堂全体が明るい雰囲気にもなり、安心して楽しく食事ができそうだ。
「ハエよけに黄色を使うことで、学校の食堂が明るくなり、生徒の健康状態も改善されました。シンプルでありながらインパクトのあるアイデアが、地域社会で有効であることを示しています」
と、Innocean IndonesiaはBranding in Asiaに対してコメントしている。
Project Yellow Canteenは今後もインドネシア国内で継続される予定だ。ホームページでは、今後塗装が必要な学校を募集しており、実際に塗装するためのサポートが受けられる機会も準備されている。
このアイデアはとてもシンプルだが、とてもインパクトがある。研究結果に基づくエビデンスと、塗料メーカーDuluxの製品を組み合わせたアイデアが、子どもたちの健康を守るために役立っているのだ。今回の事例のように、真新しい何かを生み出すのではなく、すでにある製品やファクトを掛け合わせることで、課題解決の糸口が見えるかもしれない。
※1 厚生労働省検疫所海外旅行者のための感染症情報
※2 Color is key in controlling flies, UF researchers find
【参照サイト】Project Yellow Canteen
【参照サイト】Dulux and Innocean Indonesia Fight Disease Spreading Flies Using Their Aversion to Yellow