インドネシア発「Farmer to Bar」小規模カカオ農家を一流に育てるチョコレートメーカーKrakakoa

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チョコレートの原料となるカカオ豆の生産国と聞いて、思いつく国はどこだろうか。ガーナをはじめとするアフリカ諸国が思いつくかもしれないが、実はコートジボワール、ガーナに次ぐカカオ生産量世界第三位の国がインドネシアだ。

あまりその事実が知られていない理由として挙げられるのが、年間24万トン生産されているインドネシア産のカカオ豆が、日本へはたった106トンしか輸出されていないことだ。日本はカカオ豆輸入の約70%超をガーナに頼っており、インドネシア産のカカオ豆は全体の0.05%に過ぎない。

インドネシアのカカオ豆は、その生産量の多さにも関わらずなぜ日本へ輸出されていないのか。

今回は、新興国ソーシャルベンチャー共創プログラムの中で筆者が知ったインドネシアのカカオ農家の現状をまとめ、実際に現地でチョコレートメーカーKrakakoa(カカコア)を運営するCEOのサブリナ氏に伺った、起業の背景と事業内容についてレポートする。

安く買い叩かれてきたインドネシアのカカオ豆

インドネシアのカカオ豆が輸入されない理由の1つに、日本を含め世界でニーズのあるカカオ豆の水準に比べると、インドネシアから輸出されるカカオ豆の品質が悪いという事実がある。カカオ豆は栽培が難しく、品質の高いカカオ豆を生産するには病気の予防の知識や細かな管理が必要だ。

しかしカカオ豆の風味を引き出す発酵のプロセスを踏まないまま生産されることの多いインドネシアのカカオ豆は、収穫から商品化までの期間が短いため、カカオ農家にとっては早く商品として換金できる魅力があるが、商品の品質が良くないために、収入は低くなってしまう。

さらにカカオ農家の収入が低い背景として、カカオ豆のサプライチェーンに複数の仲介人が存在する点が挙げられる。村のカカオ豆を購入して市場に売る村のトレーダーや、地域や国の輸入業者、カカオ豆やカカオバターといった原料を加工する業者、消費者に届く形に製造するチョコレートメーカー、そして小売業者等だ。彼らの手数料を含めて割安なチョコレートが販売されていることが、第一次産業のカカオ農家の収入が低い理由となっている。

Krakakoaパートナー加工場にて

Krakakoaパートナー加工場にて

KrakakoaのFarmer to Bar

この現状をふまえ、Krakakoaはカカオ豆の収穫、発酵、天日干し、良質なカカオ豆の選別、焙煎、粉砕、ペースト化、固形化、包装といったチョコレートづくりに関わる全ての工程を管轄することで、仲介人を挟まず農家の収入を向上させる仕組みづくりをしている。

また、同団体は農家の教育自体にも関わっている。Krakakoaはカカオ豆の小規模農家にKrakakoaは「発酵方法」「農地管理」「カカオ豆の病気の予防や治療方法」といった内容の2か月間にわたる研修プログラムをWWFやコンサルティングファーム「Cacao Services」などと共同で提供。研修修了後は必要な農具を小規模農家に提供し、収穫量の増加と収穫したカカオ豆の品質向上を目指している。

これが「Bean to Bar(カカオ豆からチョコレートを作る)」ではなく、「Farmer to Bar(農家支援からチョコレートを作る)」と呼ばれる所以だ。

農家の収入もカカオ豆1キロ6万インドネシアルピアと、国際フェアトレード認証の最低基準を遥かに上回り、生活向上につなげている。取材でも、小規模農家の「息子にバイクを買ってあげることができた」という声を聴くことができた。

Krakakoaにカカオ豆を売る小規模農家

Krakakoaにカカオ豆を売る小規模農家

こうして、Krakakoaはカカオ農家の収入の向上に貢献してきただけではなく、サプライチェーンの透明性、遺伝子組み換えやパーム油、保存料に頼らない品質の高いチョコレートブランドとして評価されるようになった。いまやインドネシア発の企業として初めて、世界最高峰のチョコレートを決める「Academy of Chocolate」で計8つの賞を受賞するほどの一流メーカーだ。

原体験は幼少期に見た物乞いの子どもたち

シンガポールで育ったサブリナ氏は、幼少期にインドネシアで農業をする父親のもとへ学校の休暇に帰ることが年に数回あったという。

「ジャカルタに車で通るたび目にする物乞いの子どもたちを見て『私は飢餓になることもなく、何不自由なく生きていて、どうしてこんな不平等が発生するのか』『自分に何かできることはないか』という気持ちを覚えたの。」

そしてサブリナ氏は農業に興味を持ち、飢餓や食糧安全保障(フードセキュリティ)といった分野に注目するようになる。インドネシアには140万人もの小規模農家が運営するカカオ農地が全体の87%を占めるという。多くの人々の生活に影響を与え、インドネシア経済にインパクトを及ぼす大きな市場があることからチョコレート業界に参入を決めた。

マッキンゼーでのキャリアを持っていたサブリナ氏。「失敗したら恥ずかしい、周りになんて言われるだろう、ってとても怖くて、このビジネスを始めるのにためらいがあったの。簡単にいくとは思えなかったから。でも私には友達や家族がいるし、何かあっても助けてくれるから、少なくとも飢えることはない。だからやってみようって決めたの。」

Krakakoa CEOサブリナ氏、新興国ソーシャルベンチャー共創プログラム 深町氏、Krakakoa農家

Krakakoa CEOサブリナ氏、新興国ソーシャルベンチャー共創プログラム主催GEMSTONE代表 深町氏、Krakakoa農家さん

KrakakoaはKakoaという名前でスマトラ島のランプン州にて2013年に創業。もともと農業とは離れた分野でコンサルティング業をしていたサブリナ氏。当初ビジネスは苦戦し、最初の5-6年は赤字で資金調達に悩んだという。最初に農家と連携するのにどうしていたのかという質問に、笑って答えた。

「直接農家のもとに行って『カカオください』って言いに行くのよ」

2016年にインドネシアが誇る活火山「Krakatoa」にちなんでKrakakoaという名前に変更。いまやイギリスの栄誉ある国際的な賞「Academy of Chocolate」を受賞するまでになったが、インドネシアの地域に根差したチョコレートを作り出したいKrakakoaの姿勢は変わらない。

「Academy of Chocolate」で受賞歴のある種類のチョコレートには、「シングル・オリジン75%・スラウェシ」「シングル・オリジン75%・スマトラ」が該当しており、スラウェシ島、スマトラ島だけでなく、カリマンタン島、バリ島それぞれのカカオ豆のみで作られたチョコレートが商品にラインナップしている。それぞれ板チョコレートとして、豆の違いを比べて楽しめる。

Krakakoa CEO サブリナ

「インドネシアの農業にはたくさんの課題がある一方で、さまざまな社会課題の解決策になる可能性も持っている。お金のことを考えるとストレスだけど、農家と会ったり、チョコレートの生産プロセスを考えたりする仕事が好きなのよね。」

彼女のインドネシアを農業からボトムアップしていきたい想いが一貫しているチョコレートブランド、Krakakoa。さまざまな商品ラインナップでインドネシアで作られたチョコレートのおいしさを届けるKrakakoaの商品に出会ったら、ぜひ手に取ってみてほしい。

インタビュー後記

実際にお会いし、何度か議論をする中で、彼女が幼少期に貧困であえぐ子どもたちを見たことから、勇気をもって貧困層のボトムアップに繋げた熱い想いとチャーミングさが伺えた。

植民地時代のモノカルチャー経済が現代に受け継がれ、発展途上国の第一次産業従事者の収入が向上しない現実に対し、Krakakoaは輸出用のカカオ豆の品質向上にとどまらず、小規模農家の収入向上に繋げている。

カカオ豆だけでなく、パッケージはインドネシアの伝統工芸バティックの柄が施され、CEOもインドネシア人の女性なので、インドネシアのための、インドネシアならではのチョコレートだ。まだ日本であまり知られていないからこそ、バリやジャカルタに足を運んだ際にはお土産の選択肢としていいかもしれない。

※最近楽天ショップもOPENしたようなので覗いてみてほしい。

Krakakoaチョコレート商品(一部)

Krakakoaチョコレート商品(一部)

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