2023年6月、世界経済フォーラム(WEF)が、各国の男女格差を数値として可視化したジェンダーギャップ指数を公開(※1)。日本の順位は146か国中125位で、教育と健康の分野では男女平等がかなり達成されている一方、政治分野でのスコアが世界最低レベルの138位を獲得していることが話題となった。
また、世界全体でも、男女格差の改善には大きな進展が見られていない。国連開発計画(UNDP)の2023年の調査報告によると、女性の約87%、男性の90%が、未だ女性に対して何らかの偏見を抱いており、この10年間、ジェンダー不平等の状況はあまり是正されていないという(※2)。
そんな状況のなかでも忘れたくないのが、各地で起こっている女性をエンパワーする事例たちの存在だ。今回の記事では、2023年IDEAS FOR GOODでご紹介したニュースのなかから5つをピックアップした。女性を取り巻く状況は単に悪くなっているだけでなく、少しずつでも良い方向へと向かっている部分があるのだと、小さな希望を感じていただければ幸いだ。
世界の女性エンパワーメント事例5選
01.月経カップなど「オルタナティブ」な生理用品を無料配布
スペイン・カタルーニャ州では、2024年の第1四半期から「サステナブルな生理用品」を無料で配布する取り組みをはじめる。配布されるのは、月経カップ、布ナプキン、吸水ショーツの3つで、事前に「La Meva Salut」というアプリをダウンロードし、アプリ内に表示されるQRコードを提携薬局で見せることで、好きな製品を受け取ることが可能。月経があるノンバイナリーやトランスジェンダーの人などを含め、生理用品を必要とする全ての人を対象にしている。
こうしたオルタナティブな生理用品を使うことにより、廃棄物を減らせるのはもちろん、生涯を通して生理用品にかかる費用を軽減することも可能になる。
- 国名:スペイン
- 団体(企業)名:カタルーニャ州
02.女性議員を増やす、インドの「クオータ制」
女性の社会進出が低いランクのインド(ジェンダーギャップ指数は127位)。そんな同国にて、インド下院が、その3分の1の議席を女性に割り当てるという「女性クオータ制」の歴史的法案を可決した。
実は、すでにインドでは、地方議会レベルで女性クオータ制が実施されてきていた。村議会では、各議会議長の3分の1を無作為に女性に割り当て、さらに、議席の3分の1を、女性だけが立候補できる選挙区として無作為に割り当てる方式を導入。これによって、女性議員の比率は5%未満から40%台に増大したのだ。
一方で、女性国会議員の比率は13%にとどまっていた。1996年以来、女性クオータ制法案が提出されてきたが、過去6回にわたって廃案になるなど合意形成に時間を要してきた。そうした紆余曲折を経て、ついにその努力が実を結んだ形となる。
- 国名:インド
- 団体(企業)名:インド下院
03.格差是正へ。インドで女性のバス乗車が無料に
上記に続き、ジェンダーギャップが最も大きい国の一つであるインドからのニュース。同国でジェンダー格差を是正する希望となっているのが、女性客のバス料金無料化プログラム「Shakti(ヒンディー語で強さの意)」だ。インド南西部のカルナータカ州は、2023年6月から女性客のバス料金を無料化した。
男女で賃金格差が開くインドにおいて、働く女性たちが通勤のために毎日払う約217円のバス代はかなり高額だ。日本での給与に換算すると、カルナータカ州における1日のバス代は少なくとも2,600円ほどに値しうる額である。
2019年のデリーにおける導入を皮切りに複数の州で実施されている「Shakti」。家計の大きな負担となっていた交通費が無料になることで、現在働いている女性たちは給与を食費や教育費により多く回すことができるようになるだろう。
- 国名:インド
- 団体(企業)名:カルナータカ州
04.アイスランドで、女性たちが一斉に仕事をやめた日
ジェンダー平等先進国と思われがちなアイスランド。しかし、未だ21%の賃金格差があったり、40%の女性が性的暴力を経験したりしているのが現実だ。
2023年11月24日、アイスランドでは史上最大規模となる、女性の権利を求めるためのストライキが行われた。このストライキには人口の4分の1となる約10万人が参加し、有給および無給の仕事を停止。様々な業種の人が仕事を休み、家事を放棄した。また、抗議運動には同国の首相カトリン・ヤコブスドッティル氏も参加し、この日は首相官邸の業務も停止された。
国連の推定によれば、現在の進行速度ではこの目標を達成するのに300年かかるとされているが、ヤコブスドッティル氏はガーディアンの取材に対して「世界中の女性が完全な平等を実現するために300年も待たなければならないのは受け入れられない」と語っている。
- 国名:アイスランド
05.出演者も監督も。「女性が主役」の音楽フェス
シンガポールにある廃炉となったパシル・パンジャン発電所で、2019年から開催されている音楽&カルチャーフェス「The Alex Blake Charlie Sessions」。
このフェスは、「女性が今日の最高の音楽を作っている」という信念のもと開催されており、出演者はすべて女性が主体のアーティスト、監督も女性である。2019年に続き2度目の開催となった2023年度は、2月21日〜2月25日までの5日間の日程で行われた。
参加アーティストはジャンルや国籍など多様性に富んでいる。2023年の出演者は、米国インディーズ界隈で注目を集めるSoccer Mommy氏や、アジア系アメリカ人の気鋭シンガーソングライターDeb Never氏、シンガポールで活躍するバンドComing Up Rosesなど。日本からは音楽家・シンガーソングライターの青葉市子(あおば・いちこ)氏が出演した。
本イベントでは、ジェンダーに中立で、社会的にもホットな話題を扱ったギャラリースペースが設けられるなど、音楽ライブ以外にも女性に焦点を当てたプログラムが多数開催された。
- 国名:シンガポール
- 団体(企業)名:24OWLS
まとめ
WEFによると、このままの状態が続けば、全体的なジェンダー平等が達成されるのは2154年。つまりギャップを埋めるのに「131年」もの年数が必要だという。
途方に暮れるような長い年月。だがこれはつまり、今の私たちの行動が未来に対して良い影響を与える可能性も大きいということだ。悲しいニュースに落ち込むこともあるが、世界各地で起きている変化の兆しに目を向け、力を貰いながら、私たちは前に進んでいく必要があるのだろう。
※1 Global Gender Gap Report 2023
※2 Biased Gender Social Norms are blocking the Path to Gender Equality(UNDP)
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