人々の心を震わせ、鼓舞し、それに寄り添ってきた「音楽」が「気候変動」と出会ったら、それはどんな表現になるだろう。今回紹介するのは、抗議運動に「合唱」という表現を選んだイギリスの人々の事例だ。
彼らの団体名は「The Climate Choir(以下、気候合唱団)」。合唱団員は正装用のハットをかぶり、主に化石燃料に投資する企業の本社前に集まって、抗議の歌を歌う。最近では、ドバイで開催されたCOP28の開催時期に、環境の破壊を「エコサイド」として犯罪化し、その根絶を目指すキャンペーンを支持するために声を上げた。
気候合唱団の共同設立者ジョー・フラナガン氏は、2022年4月に大手金融機関であるHSBCの化石燃料への投資に抗議するため、合唱団を結成した。金融街に紛れ込むように“きちんとした”服装をした彼らは、当時スウェーデンのポップグループ・ABBAの「Money, Money, Money」のメロディーに、再生可能エネルギーへの投資を促す歌詞をのせ、抗議の歌を届けた。
フラナガン氏は、アメリカの活動家たちが会議中のスピーチの最中にフラッシュモブとして歌うビデオに触発され、気候合唱団の活動をはじめたという。それ以来、気候合唱団はイギリス全土に10の合唱団を持つまでに成長し、現時点で約550人のメンバーがいるそうだ。運動のメンバー全員は月に一度Zoomでの練習に参加し、新しい歌を覚えていく。
イングランド南部の街・ポーツマスで合唱団を率いるルース・ルートレッジ氏はPositive Newsのインタビューに対し「一緒に歌ってハーモニーを奏でることは、抗議するためのとても美しい方法です。人間性が剥き出しになることで、多くの騒音を切り抜けると思います」
と語っている。合唱団には歌唱能力に関係なく、どんな人でも参加することができ、ときには通行人が歌に加わることもあるという。
気候合唱団は、参加者自身のメンタルにも良い影響を及ぼすそうだ。個人で背負うにはあまりに大きな気候変動の問題に対して、合唱団の仲間がいると認識できること、さらにはあくまで「平和的な」抗議を組織していることも、団員の安心感につながっているという。
イギリスでは気候合唱団の他にも、音楽を通じて環境活動に取り組む子どもたちの合唱団「SOS from the Kids」などが活動する。SOS from the Kidsは、大人気オーディション番組・Britain’s Got Talent 2020のセミファイナリストにもなり、動植物学者であるデイビッド・アッテンボローからの賞賛も受けた。
環境問題を伝える彼らの歌を聴いて、見物人はときに涙を流す。歌は他の抗議形式とは異なる方法で、人々の心の奥深くにメッセージを届けるのだろう。
【参照サイト】The Climate Choir Movement
【参照サイト】‘It reaches deep inside people’: the climate choirs singing for the planet
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