気候変動を考えるなら「詩」を詠もう。スコットランド生まれの意外な環境アクション

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「気候変動への対策には、詩が効果的だ」と聞いたら、あなたはどう感じるだろうか。「なんで詩?抽象度が高くて、実社会とは直接的に結びつかなそうなのに?」と思うかもしれない。

スコットランドの大学で准教授を務めるサム・アイリングワース氏は、詩は個々人に訴えかける形で環境問題の重大さを伝え、集団行動を促す力を持っていると語る。同氏いわく詩とは、世界規模の問題を個人的な問題として再構成し、親しみやすい言葉で表現する手法だというのだ。

気候変動対策の重要性は、科学的な知見に基づいて語られることが多い。そのため国際機関などによる報告書の多くは、専門用語が並び、一般の人にとっては親しみづらいものになりがちだ。

一方で詩は、環境問題に対する、ある詩人の個人的な感覚や心情を言語化したものだ。だからこそ、専門家以外の人々にとっても親しみやすいのはもちろん、論理的な説得というよりも感情的な共感で、人々の行動を促すことができる。

さらにアイリングワース氏によると、環境問題をテーマにした詩には、環境破壊の深刻さや気候変動の脅威を語るものもあるが、ポジティブな感情を喚起するような詩が、気候変動対策にはより効果的なのだという。実際、気候変動関連の意思決定と集団行動を形成する上では、ポジティブな感情が重要な役割を果たすという研究結果もある(※1)。

ここで、アイリングワース氏が例に挙げた詩を一遍、読んでみていただきたい。

Pale, then enkindled,
light
advancing,
emblazoning
summits of palm and pine,

青白く燃え上がっている灯りが
やしの木と松の木のてっぺんを飾っている

the dew
lingering,
scripture of
scintillas.

いつまでも残っている露
火花の聖書

Soon the roar
of mowers
cropping the already short
grass of lawns,

やがて芝刈り機の轟音が鳴り響き
すでに短い芝生を刈り取る

men with long-nozzled
cylinders of pesticide
poking at weeds,
at moss in cracks of cement,

殺虫剤の噴霧器を持った男性が
雑草やセメントの割れ目のコケをつついている

and louder roar
of helicopters off to spray
vineyards where braceros try
to hold their breath,

そして 季節労働者たちが
必死で息を凝らしている ブドウ園に
農薬を散布するヘリコプターの
さらに大きな轟音が響く

and in the distance, bulldozers, excavators,
babel of destructive construction.

遠くでは ブルドーザーと掘削機が
破壊的な建設の騒音を鳴らしている

Banded by deep
oak shadow, airy
shadow of eucalyptus,

オークの木の深い影と
ユーカリの風通しの良い木陰がつくる
縞模様

miner’s lettuce,
tender, untasted,
and other grass, unmown,
luxuriant,
no green more brilliant.

柔らかく 手つかずの
鉱夫のレタス
その他の草も
刈り取られず 豊かに揺れている
これ以上素晴らしい緑はない

Fragile paradise.
壊れやすい楽園

.   .   .   .

At day’s end the whole sky,
vast, unstinting, flooded with transparent
mauve,
tint of wisteria,
cloudless
over the malls, the industrial parks,
the homes with the lights going on,
the homeless arranging their bundles.

一日の終わり
ショッピングセンター 工業団地
灯りがともる家
荷造りをするホームレス

その上に広がる空の全体は
広大で 惜しみなく
透けるような淡い紫色をして
雲ひとつない

.   .   .   .

Who can utter
the poignance of all that is constantly
threatened, invaded, expended

誰が声をあげられる?
絶えず脅かされ、侵略され、消費され

and constantly
nevertheless
persists in beauty,

それでもなお
絶えず美しさを保ち続け

tranquil as this young moon
just risen and slowly
drinking light
from the vanished sun.

上ったばかりの上弦の月のような
静けさを保ち続け
消えた太陽から ゆっくりと光を吸い込み続ける
森羅万象の 深い悲しみに

Who can utter
the praise of such generosity
or the shame?

誰が声をあげられる?
これほどまでの寛大さに対する賞賛
あるいは 恥じらいを

In California: Morning, Evening, Late January
BY DENISE LEVERTOV

この詩は、自然の美しさと、人間が自然にもたらした破壊を並べて表現した詩だ。作者が感動した「自然の寛大さ」が作者の目線で語られることにより、自然への尊敬の念や申し訳なさといった感情が喚起される内容になっている。

アイリングワース氏は、こうした詩を複数人で朗読し合い、感じたことを共有する場を持つことを推奨している。そこで対話が行われることで、環境問題に思いを馳せ、気候変動への解決策を考える気力を養い、行動につなげることができるというのだ。

また、すでにある作品を読むだけでなく、自分で詩を作ってみるのもいいだろう。あなたが気候変動や環境問題に関して感じたことを率直に表現することで、どこかで共感が生まれ、人々が行動するきっかけになるかもしれない。

※1 Positive emotions and climate change
【参照サイト】How poetry can help address the climate crisis
【参照サイト】Climate change poetry anthology inspires environmental action

Edited by Kimika

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