その絵、解説します。イギリスの美術館が先住民族アートと生態学の専門家をガイド採用

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「この絵にはどんな意味があるのだろう?」

そんな疑問を持ち、美術館で解説を読んだり音声ガイドを聞いたりしたことがある人は多いのではないだろうか。

しかしその解説は、誰が、どんな立場から作成するかによって、内容が異なってくることがある。例えば、これまでの歴史上で権力を持ち続けていた立場や属性の人だけで解説を作成した場合、権力者側にとって都合の悪い内容は採用されにくくなるだろう。その見方が人々の間で固定化されれば、支配・被支配関係にある社会構造はずっと変わらないままになる可能性も指摘される。特定のテーマをどこから見るかというのは、鑑賞する人、そして社会にも影響を与えていくのだ。

その重要な役割に、イギリスのテート・ギャラリーでは、先住民族によるアートの専門家であるKimberley Moulton(キンバリー・モールトン)氏と、生態学者であるMarleen Boschen(マーリーン・ボッシェン)氏が新たに採用された。美術品の歴史に対する新たな視点を探求する活動の一環として2名の採用が決まり、両者はテート・モダンの一部であるThe Hyundai Tate Research Centre: Transnational(ヒュンダイ・テート・リサーチ・センター:トランスナショナル)に配属される。

テート美術館で新たに採用された2名

左から順に、キンバリー・モールトン氏(photo: Eugene Hyland, 2023)と マーリーン・ボッシェン氏(photo: Dominique Russell, 2023)

テート美術館は、2019年7月に「気候および生態学における危機」を宣言。その後、館内で使用するエネルギーや設備において環境負荷を軽減するためのさまざまな取り組みを進めてきた。今回は、施設運営という裏方での取り組みから、アートに対する理解というより表向きで概念的な面に活動の幅が広がったと言える。

テート・モダンのプログラムディレクターを務めるCatherine Wood(キャサリン・ウッド)氏は、2名の採用について「彼らの経験や専門性は、先住民族によるアートや、アートと生態学の関わりについての知識を広げるのに非常に重要な役割を果たします。また、展示を通してアートに関するより国際的なストーリーを届けるという私たちの望みを推進することになるでしょう」と、テート公式サイトにて語った。

ひとつの美術品をとっても、文化によって異なる歴史的な背景があり、さまざまな解釈が存在する。多様な専門性を持った人々がアートの展示に携わることで、これまで排除されてしまっていた新たな視点に気付かせてくれるかもしれない。

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