「ジャーナリスト」「編集長」と聞いて、どんな人を想像するだろうか。また、この質問を受けて女性を思い描いた人は、どれくらいいるだろうか。
情報に溢れた現代において、「誰が」ニュースを制作するかという点は重要である。制作者の視点は出来事の切り取り方を左右し、それを受け取る人々の考え方にまで影響を及ぼし得るためだ。
しかし実際には、メディア業界におけるジェンダー平等はまだまだ改善の余地がある。オックスフォード大学の研究によると、アメリカ・イギリス・日本・フィンランド・ブラジル・南アフリカなどの240のメディアにおける179人の編集長のうち女性は27%であり、同対象国のジャーナリストのうち40%が女性であることに比べると、その割合は低い(※1)。
このように様々な国のメディア業界で壁があるなか、特に新興国ではそもそも一般的に女性が声をあげることが難しい。そんな逆境においても、メディア業界から女性が立ち上がる事例が生まれている。本記事では、新興国の事例を中心に、3つのメディアを紹介する。
女性が主導する世界各地のメディア3選
生理や政治、児童虐待などを報道する、ソマリアの「Bilan Media」
ソマリア国内初、女性のみで構成される唯一のメディア・Bilan Mediaは、2022年にUNDPのサポートを得て立ち上げられた。Bilanとはソマリア語で「bright and clear(明るくクリア)」 という意味だという。
同国は長らく男性中心の社会が続いてきたことから、ジェンダー平等の指標ではワースト4位とされている(※2)。そんななか同メディアは、社会でタブー視され主要メディアによる報道が少ない、生理や政治、児童虐待などを扱っているのだ。編集長のNasrin Mohamed Ibrahim(ナスリン・モハメド・イブラヒム)氏は「ソマリアで女性のストーリーが語られない理由の一つは、多くのレポーターが男性であることです。Bilanは、この現状を変えます。女性たちは、Bilanのメディアを作っているのが女性であるからこそ話してくれるのです。彼女たちは、私たちを家や礼拝室、プライベートな場所にも入れてくれます」
と、The Guardianの記事にて語っている。
Bilanは、国際女性デーである2024年3月8日からは、視聴者が討論に参加することができるテレビ番組を開始する予定だ。問題を取り上げるだけでなく、市民に情報を伝え、ともに考える場を生む役割も担っていくことだろう。
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本名を伏せて人権侵害の実情を伝える、アフガニスタンの「Zan Times」
続いて、アフガニスタンで立ち上がった女性主導のメディア・Zan Timesだ。同国における女性やLGBTQ+コミュニティへの人権侵害を中心に取り上げている。同メディア編集長であるカナダ在住のZahra Nader(ザーラ・ネーダー)氏が、母国の女性たちを支えようと2022年に創設した。
2021年のタリバン復権により、同国の女性は教育や仕事、公の場への自由なアクセスが遮断されている(※3)。同メディアに所属するジャーナリストらは、タリバンから特定されないようペンネームを使用しているという。ザーラ氏はこの状況について「(Zan Timesでは)アフガニスタンの女性ジャーナリストによる小さな組織が地域の情報を集めています。彼女たちにとって、働くことは非常に危険です。そんな中で、LGBTQや人権、家庭内暴力、児童婚などタリバンが聞き入れようとしない話題を報道しています」
と、独メディア・Deutsche Welleに語っている。
In essence, the policy to arrest women over hijab is turning families, especially men in Afghanistan, into unpaid Taliban’s enforcers and prison guards who will ensure the compliance of female members of their households. This means further isolation and despair for women and… pic.twitter.com/CWEWJc2aa1
— Zan Times (@ZanTimes) January 15, 2024
スマホを手に差別や性犯罪に切り込む、インドの「Khabar Lahariya」
最後に紹介するのは、インドのカースト制度で最下層の「ダリット」(※4)である女性たちが運営するメディア・Khabar Lahariya(カバル・ラハリヤ)だ。2002年に地方新聞として活動を始め、主要メディアが報じない地方政治や差別、性犯罪、違法労働などの問題に果敢に切り込んでいく。
毎月500万人に情報を届けているという同メディアは、スマートフォンで撮影された動画が主な発信方法だ。YouTubeの登録者数は58.8万人(2024年3月現在)に上り、人々の注目の高さがうかがえる。2023年9月には同メディアを追ったドキュメンタリー『燃えあがる女性記者たち(英題:Writing with Fire)』も公開された。一人の人間として葛藤や不安を抱えながらも、社会を変えようと奮闘する彼女たちの信念の強さは計り知れない。
ここまで見てきたように、ジェンダーに基づいたパワーバランスの偏りが指摘されるメディアという業界においても、すでに多くの女性が行動を起こし、より公正な報道のあり方を構築し始めている。
ジャーナリストや編集者として活躍する女性たち、そして彼女たちによる報道が光を当てる市民の声は、着実に強く大きくなっているのだ。「ジェンダー不平等はまだ達成されない」と課題を叫ぶだけでなく、今立ち上がっている声に耳を傾け、理解し、その声を社会に響かせる支えが求められている。
※1 Women and Leadership in the News Media 2022: Evidence from 12 Markets
※2 GENDER EQUALITY AND SOCIAL INCLUSION|UNDP
※3 Afghanistan: UN experts say 20 years of progress for women and girls’ rights erased since Taliban takeover
※4 インドのカースト制度には、4つの身分に加えて、カースト外の身分が存在する。ダリットとは、他の身分の人が近づいてはならない「不可触民」とされる身分のことで、被差別カーストとされている。
【参照サイト】Somalia’s first-ever women-led current affairs TV program shakes things up for the better|The Optimist Daily
【参照サイト】Bilan Media
【参照サイト】Women are expected to keep their mouths shut here in Somalia. But not any more
【参照サイト】Afghanistan: An online magazine for women|DW
【参照サイト】Zan Times
【参照サイト】映画『燃えあがる女性記者たち』
【関連記事】もし、街が「女性目線」で作られたら?ジェンダー平等都市・ウィーンを歩く