資本主義の次へ向かおう──そんな声は高まりつつある。脱成長という言葉も頻繁に耳にするように、行き過ぎた資本主義に代表される「成長第一」の考え方から脱却しようとする動きだ。来たる社会・経済のさまざまな姿が議論されており、これらをポスト成長(「成長を追求した後の段階」の意)として表現することができる。
しかし、「そんなものは空想にすぎない」と思う人もいるだろう。実際、理想の社会や経済を思い描くことは重要な第一歩であるが、それを実現するための具体的なステップや手法を見つけることは容易でない。
そんな現状に、一石を投じた取り組みがある。デンマークに拠点を置く組織「Post Growth Guide(以下、PGG)」が、ポスト成長型のビジネスに移行する方法を示したハンドブックを作成したのだ。その名も「Setting Limits to Growth: How to make better business decisions in the 21st century(成長の限界の設定:21世紀におけるより良い経営判断の仕方)」。同社ホームページにおいて35ドル(約5,200円)でダウンロード可能だ。
このハンドブックは12章・全171ページに及び、6つの意思決定ツールと60以上の文献リストも含まれている。さらに、最初の6章分は、無料(任意の支払い)で公開されているのだ。
- 最初の6章のタイトル
-
- ポスト成長型ビジネスにおける給与と商品価格の決め方
- 事業のレジリエンスと活動資金の集め方
- ビジネスにおける「限界」と協働する方法
- 真のマーケットからフィードバックを得る方法。それがポスト成長型ビジネスの構築に重要である理由
- 成長の限界内にとどまる方法
- 成長を緩める理由。寄付がいかに重要な役割を担うかの詳細も含めて
PGGは、Oscar Haumann氏とMarcus Feldthus氏の2人によって2022年9月に設立された。かつて、彼らは環境関連のスタートアップをクライアントに持つ会社を経営していた。その中で、企業の多くが事業を実社会でのインパクトを深く考えておらず、事業変革の提案に対して真剣に向き合ってくれない現状を問題視し、新しいビジネスに切り替えることを決意したという。
サービスの確立に向けて公の反応を確かめるためLinkedInで発信を続ける中で、「ビジネスのための脱成長」についての投稿が反響を呼び、ポスト成長に関する知見の取りまとめや情報発信という現事業に至ったのだ。同社は、自身がポスト成長型ビジネスへと変化したプロセスを、オンライン上で公開。企業の所有構造とガバナンスに焦点を当て、PGGを持続可能で、社会や環境から過度に利益を得ようとしない具体的なビジネスに変える方法について探求している。そこでHaumann氏は「ふぅ、まだまだ長い道のりが待っています。この記事を読んでも、多くの疑問が残るでしょう。しかし、この初期段階であっても、(その過程を)共有する価値があると私たちは考えました」
として、誰にどんな話を聞いて、何を学んだのかを共有しているのだ。
このハンドブックは、まだ「答え」を与えてくれるものではないだろう。しかし少なくとも、私たちが、企業が、社会が向かうべき方向の一つを照らしている。
【参照サイト】Post Growth Guide
【関連記事】銀行が「成長しない事業」に投資?オランダのTriodos Bankが描くウェルビーイングな経済とは
【関連記事】「グリーン成長はおとぎ話である」今こそ議論したい“脱成長”とは【多元世界をめぐる】